屋根裏の極秘任務
S毛署より、三人の男が、重要任務の為に、多目的施設の舞台上の屋根裏部屋で待機していた。
「黄砂山先輩、出屁課長が、教えないのは、密売の取引現場を押さえる為ですかねぇ?」と、坊主頭で、犬の絵の服を着た男が、眉根を寄せた。
「さあな。連絡が有るまで、待てとしか聞いていないからな」と、黄色い背広の男は、淡々と応えた。
「用助、大層な“現場”を任せると思うか?」と、リーゼントの柄の悪い赤シャツの男が、凄んだ。
「そうだな。用助とだと、外されているな」と、黄砂山も、同調した。用助付きで、物騒な現場は無いからだ。
「確かに…」と、柄の悪い男も、頷いた。
「酷いですよ! 置久斗先輩も!」と、用助が、語気を荒らげた。
「んだと!」と、置久斗が、睨んだ。
「ひ…!」と、用助が、恐れ戦いた。
「おいおい。後輩苛めは止せ。下の処理は、見ないぜ」と、黄砂山は、冷やかした。洩られても、面倒だからだ。
「馬鹿にしないで下さい! 怖いけど、洩らしません!」と、用助が、唇を尖らせた。
「そうかい! じゃあ、楯突くんだな?」と、置久斗が、尋問した。
「め、滅相も無い!」と、用助が、頭を振った。
「それくらいで、勘弁してやれ」と、黄砂山は、口を挟んだ。威圧でしかないからだ。
「へいへい」と、置久斗が、応じた。
突然、入口の壁の電話が鳴り始めた。
「用助、出ろ!」と、黄砂山は、促した。これくらいは、やって欲しいからだ。
「はい!」と、用助が、受話器を取り、応対した。間も無く、受話器置いた。
「誰からだ?」と、黄砂山は、尋ねた。
「課長からです」と、用助が、にやけた。
「早く言えよ!」と、置久斗が、急かした。
「は、はい!」と、用助が、即答するなり、「物音がしたら、滑車に通している縄を留め金から解けとの事です」と、告げた。
「壁の留め金に繋いで居るやつだな」と、黄砂山は、納得した。電話機の右隣に、それぞれ一本ずつくびり付けられて居るのを視認したからだ。
「丁度、人数分在るな」と、置久斗も、口にした。
「だから、僕達…」と、用助が、口ごもった。
突如、複数回の発砲音が、階下から聞こえた。
その瞬間、三人は、慌てて、留め金へ駆け寄り、解いた。
その直後、三本の縄が、瞬く間に引っ張られて、階下へ消えた。
程無くして、僅かな時差で、鈍い金属音がした。
少し後れて、笑い声が、轟いた。
黄砂山達は、顔を見合わせて、目をしばたたかせた。
“盥落とし”が、誕生した瞬間を知る由も無かった。