オーパーツの持ち主
満月の夜。交番の戸口で、男性警官が、空を見上げていた。そして、欠伸をするなり、踵を返した。
突然、「おい。ここへ、落とし物は届いていないか?」と、男の声がして来た。
「は?」と、警官は、振り返った。その直後、「あっ…」と、呆気に取られた。いつの間にか、茶ずくめの身形の男女二人組と両脇を固められた子供のような体格の宇宙人が、居るのを視認したからだ。そして、「落とし物って、何だ?」と、問い返した。見当が付かないからだ。
「この星には無い技術で作られた物だ」と、右側の男が、淡々と答えた。
「この星には無い技術と言われてもな〜」と、警官は、眉をひそめた。荒唐無稽な事を言われても、困るからだ。そして、「具体的に、どんな形だ?」と、尋ねた。形さえ判れば、何とかなるからだ。
「この星で言えば、楕円形かな?」と、左側の女が、口を挟んだ。
「楕円形ねぇ」と、警官は、溜め息を吐いた。まだ、情報不足だからだ。そして、「いつ頃、落としたんだい?」と、問うた。日時を絞れば、もう少し、はっきりすると思ったからだ。
「今朝の話だ。お前の仲間が、回収したのを確認している」と、男が、告げた。
「今朝だって?」と、警官は、訝しがった。今日の落とし物は、一件も挙がってないからだ。そして、「あんたら、ひょっとして、誘拐にでも…」と、戦慄した。UFOに連れ込む気かも知れないからだ。
「ソレナラ、トックニヤッテイル」と、宇宙人が、否定した。
「そ、そうか。しかし、挙がってないな。価値の有る物だったら、気が付くだろうに…」と、警官は、渋い顔をした。他に、手立てが無いからだ。そして、「ひょっとして…」と、はっとなった。ゴミと間違われたかも知れないからだ。
「心当たりでも?」と、女が、尋ねた。
「ああ。ちょっと、待っててくれ」と、警官は、踵を返した。今朝と回収から連想したら、掃き掃除しかないからだ。しばらくして、ゴミ袋を持って戻った。そして、三人の前へ置くなり、「見てくれ」と、口を広げた。
その直後、三人が、漁り始めた。
間も無く、「アッタゾォー!」と、宇宙人が、枯れ葉を持った右手を突き上げた。
「そ、そうか…。良かったな…」と、警官は、苦笑した。価値が、さっぱりだからだ。そして、後片付けを始めた。
程無くして、小動物の遠ざかる足音がした。
警官は、その方を見やった。次の瞬間、三匹の狸の後ろ姿を視認するなり、「化かされたのか…」と、呆けるのだった。