鉛筆の値段は?
一本の緑六角形の鉛筆が、机の奥に在った。しかし、持ち主は、原っぱで、何者かに撲殺されて戻って来ない…。
突然、引き出しが開かれた。持ち主の遺品整理の為だ。
「豪穗先生も、災難だなあ〜」と、細目の男子生徒が、口にした。
「そうだね。あれじゃあ、浮かばれないよな」と、利発そうで、小柄な男子生徒も、同調した。
「はいはい。駄弁らない。早く、遺品の整理、整理!」と、髪の長い大人びた女生徒が、仕切った。
「でも、これだけだぜ、会長」と、細目の男子生徒が、鉛筆を取り出した。
「え? これだけ?」と、会長が、目をしばたたかせた。
「拍子抜けでしたね」と、小柄な男子生徒も、感想を述べた。
そこへ、童顔の女教諭が、現れるなり、「整理は、捗っているかしら?」と、開口一番に、尋ねた。
「豪穗先生の私物は、これだけですよ」と、細目の男子生徒が、鉛筆を提示した。
「そう…。あの人は、絵に人生を捧げていたんですものね…」と、童顔の女教諭が、嘆息した。
「美麗先生、気落ちしないで。きっと、犯人は、報いを受けますわよ」と、会長が、慰めた。
「そうね。じゃあ、私が、この鉛筆を貰っても、良いかしら?」と、美麗が、問うた。
三人が、頷いた。
程無くして、全員は、美術室から退室した。
丑の刻。
拝殿裏の物置小屋へ、明かりが灯った。
狐の面の巫女が、室内中央の燭台の蝋燭へ、点した。
程無くして、覆面姿のくノ一。続いて、招き猫の面の少年と携帯PCを持った狛犬の面の少年。最後に、兎の面の巫女が、入って来た。
間も無く、蝋燭を取り囲んだ。
「皆、揃ったわね」と、狐の面の巫女が、見回した。
全員が、小さく頷いた。
「これより、豪穗せ、いや、さんの件について、稲荷が、提議致します」と、稲荷が、宣言した。そして、右隣を見やり、「因幡、視た事を説明して」と、促した。
「豪穗さんは、偶々、見てはいけない現場へ行き当たり、レジ袋を被った二人組に、問答無用で、撲殺されました…」と、因幡が、語った。
「どうせ、裏金か、何かだろ?」と、招き猫の少年が、ぼやいた。
「詮索は、後よ。狛、鉛筆は、いくらになった?」と、稲荷が、尋ねた。
「あの鉛筆は、未使用な上に、入手困難な代物なので、この相場となっているよ」と、狛が、携帯PCの画面を向けた。
「あの鉛筆が、こんな額に…」と、招き猫の面の少年が、驚愕した。
「化けるなんて…」と、くノ一も、愕然となった。
二人が、信じられない面持ちで、見合わせた。