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九谷(霊)環境調査株式会社の見習い調査員  作者:
見習い調査員の見習いの章
3/87

3. 雨の夜に

 ポツン。

 ポツン……。


 ザァァッ……と、

 その日、瑠璃のバイト帰りにマンションへ送り届けた後、夜道を帰る途中で雨が振り始めた。

 一応カバンの中に折りたたみ傘は持っているのだが、広げたり畳んだりするのが面倒だし、家はそんなに遠くないし、傘なしでもいけるかな……などと、迪歩(みちほ)がうだうだ考えている間に雨足はみるみる強まり、本格的な大ぶりになってしまった。


(横着しないで、すぐ傘をさすべきだった……)


 廸歩はあっという間にぬれねずみになりながら、慌ててカバンの中から折りたたみ傘を引っ張り出して広げた。

 苦労しつつ傘を開き、濡れて張り付いた前髪を指で払って顔を上げる。


 ――その視界に、妙な光景が飛び込んできた。


 周りの人達が慌てて傘をさしたり早足で建物の軒先を目指したりしている中で、ちょうど廸歩が進む正面に一人だけ、雨に打たれているにも拘わらずじっと立ちつくす人物がいるのだ。

 周囲の人間が慌てて動き出す中でじっとしているため、逆に目立ってしまっているだけで、もしかしたら雨が降る前からずっとそこにいたのかもしれない。

 ……が、廸歩にはその人物が、まるで突然そこに現れたように見えた。

 横を向いているので顔はよく分からないが、年格好はおそらく自分と同じ年代の女性だろう。

 可愛らしいスカートは、廸歩の妹が今年の流行りだといって見せてくれたものに似ているし、髪は丁寧に編み込まれ、崩れないようにピンで留められている。

 そんなふうに身なりに気を遣っているというのに、その全てがぐっしょりと濡れてしまっているのを気にもせず、少し上の方をじっと見つめているその姿が異様だった。

 それなのに、横を通る人達は誰ひとりとしてその女のことを気にしていない。


(あ……これは『お客さん』だ)


 実を言うと、廸歩はこういう『幽霊っぽい幽霊』を視るのはこれが初めてだったりする。田舎の山間地だったからだろうか――だいたい今までの『お客さん』は動物の形をしたものが多かったのだ。

 たまに人の形をしているものもいるにはいたが、あれらにはどうにも人間らしくなく、もっとこの世の世界観から超越したような雰囲気があった。

 今目の前にいる女も、どこか人間らしくない雰囲気を漂わせている……というのに、今まで廸歩が視てきたものたちとは明らかに異質で、妙に生々しく()()()()()のだ。


(大丈夫。きっとふゆさんが守ってくれてる。今までだって問題なかったし、だから今回も多分大丈夫)


 ……だが念の為、ルートを変えよう。触らぬ神に祟りなしというやつだ。

 少し遠回りになるが仕方ない。少し先の、脇道に入って――。


 迪歩がそう思った瞬間、横を向いていた女の首がゆっくりと動き――目があった。


(……やば、い)


 バチンッ


 目の前で光がスパークしたように、一瞬視界が真っ白になった。

 同時に、強い静電気で弾かれたような衝撃を感じて、迪歩は思わず傘を落としてしまう。

 強いめまいに襲われて、思わず片手で頭を抑えてうつむく。頭がグラグラするし、視界も霞んでいる。強い光を見たせいで残像が残っているらしい。


(――何?……何あれ。今、何されたの?)


「あの、大丈夫ですか?」


 視界を失いパニックになりかけているところに、遠慮がちに女性の声が聞こえてハッとする。

 霞む目を瞬かせながら顔を向けると、OL風の女性が心配そうな顔で傘を差し掛けてくれていた。どうやら、さっき廸歩が落とした傘をその女性が拾ってくれたようだ。


「……大丈夫です、ありがとうございます」

「どこか、座れる場所までご一緒しましょうか?」

「あ、いえ……ちょっとめまいがしただけで、もう治まりましたので大丈夫です」

「そうですか……?」

「はい。傘、ありがとうございます」


 なるべく平気そうにみえるように、ニコッと笑ってお礼を言う。

 女性はまだ心配そうな顔をしていたが、「足元が悪いのでお気をつけて」と言って迪歩に傘を手渡し、駅の方へと去っていった。

 去っていく女性の背に軽く会釈して、改めて先ほどの異様な女がいた場所を振り返ってみても、そこにはもう誰もいなかった。


 これが、その霊との一度目の接触だった。



***



 そのあとすぐに傘をさし直したが、すでに靴の中までずぶ濡れになっていた。

 フラフラと家に帰った迪歩は風呂に直行し、体を温めてやっと人心地付いて息を吐いた。

 だが、目を閉じるとさっきの女の姿が脳裏に浮かんできてしまい頭を振る。

 彼女の目は、憎しみと悲しみを煮詰めたような色をしていた。

 そして、なんとも困ったことに……迪歩は彼女を知っているのだ。


(確か、葉っぱとクワガタみたいな名前だから……そうそう、平田小乃葉(このは)だ)


 我ながらひどい覚え方だが、たしか前に本名公開のSNSをやっていると言ってた……気がする。

 そう思ってネットで検索してみると、少し変わった名前ということもあり、すぐに本人の写真がアイコンになっているSNSページが見つかった。

 彼女は日頃からこまめに更新しており、今日もつい先程、『友達とカラオケ!』という写真付きの投稿をしている。

 投稿時間は五分程前。実は事故に遭って亡くなっていた……という最悪な可能性もちょっと考えていたが、ひとまずその線は消えたと考えてよさそうだ。

 自撮りらしいその写真に写っている小乃葉は、先程見た霊と同じ髪型で同じ服装をしていた。

 それでは、先ほど見たあの女は幽霊ではなくて、生霊というものだろうか。


「あの人って、瑠璃の、友達だよね……」


 たしか大学に入ってすぐ意気投合して、一番仲が良いのだと言っていた。現在クラスで唯一味方をしてくれているというのも彼女だ。

 なのに……先程、小乃葉(霊)がじっと睨んでいた視線の先にあったのは、どう考えても瑠璃の部屋だった。


「……」


 これは、貴島に警戒しつつ小乃葉にも注意を払う必要がありそうだ。

 もしかしたら、普段気のいいクラスメイトが揃って瑠璃を冷たく突き放しているという、違和感バリバリなクラス内孤立の件は小乃葉が裏で糸を引いているかもしれない。


(でも、今のただでさえ孤立しているこの状況で瑠璃に「平田さんと距離を置きなよ」とは言えないよね……うわぁ、頭痛い)


 とりあえず、明日考えることにして寝よう。


 よし、頑張れ明日の迪歩。

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