プロローグ
正直に白状します。
前作の畳み方が分からなくなりました。
序でに、前作主人公は主人公じゃ無い方が面白い気がしました。
最近流行の異世界転生なる物をしてみました。
とか言ってみましたが、自分で好き好んで転生した訳ではありません。
夏休みに入ってから、大人気の新作ゲームをぶっ通しでプレイし続けた三日後、目の下に大きな隈を作った俺は、コンビニに行くために家を出た。
それが間違いだった。
今なら思う。
あの時の空腹など、家の物を適当に食えば良かった。
コンビニに行くのは一眠りしてからで良かったのだ。
そうしていれば、メイドさんに囲まれてドレスを着る必要なんてなかったんだ。
「お支度が調いました」
メイドさんにそう言われて鏡を覗き込むと、そこには中々の美少女が写っている。
「コレが私・・・」
お決まりの言葉を呟いてみるが、本当に信じられない。
と言うか、多少巫山戯てみないとやってらんない。
「如何してこうなった・・・」
時は遡って一月前。
私が目覚めたのは何処かの汚い裏路地のゴミの中だった。
「どう言う事・・・?」
声を出してみると、耳に響く声はイヤに甲高くて、鈴が鳴る様だ。
立ち上がってみると目線が低い。
手を見れば小さく白い。
「・・・いや・・・まさかだよな」
ソロリソロリと光の射し込む方に行って様子を見れば、石畳の道に行き交う人と馬車、更には剣を持った鎧兜の人。
「・・・」
ゆっくりと後退って壁に保たれる様に座り込んだ。
「コレ・・・転生だ・・・」
ネット内の某所で大人気の小説ジャンルの一つ、異世界転生物。
私はそれに巻き込まれたのだと確信した。
一応、夢の可能性もあるが、何時までも起きないのならどちらでも変わらない。
「ヤベぇ・・・」
小説にある様な神様なんて居なかった。
当然の事、何らかの力とかも貰っていない。
しかも、周りには、保護者らしき人物も居なければ、明らかに裕福そうな育ちでもない。
取り敢えず今判るのは、私が異世界に転生して、しかも女の子で、ストリートチルドレンで、誰も助けてくれないと言う事だ。
「詰んだ?」
服を着ているだけマシと思えば良いのか、靴を履いていないから酷いと思えば良いのか、暗雲立ち込めるスタートだなと、他人事の様な感想が思い浮かぶ。
一先ず、やるべき事は何かと考えると、自然と腹の虫が鳴った。
「・・・飯か」
当然の事ながら、食糧の確保の方法など分からない。
「残飯って・・・何処で手に入るんだ?」
一番に思い付いたのは残飯漁りだった。
だが、何処でどうやって、その残飯を手に入れるのかが全く分からない。
飯屋の裏に勝手に棄ててあると言うイメージがあるが、本当にあるのかが分からない。
もっと言えば、飯屋の場所が分からない。
「詰んだな」
可愛らしい声で絶望感たっぷりの言葉を吐いた。
コレは若しかすれば、異世界転生最短死亡記録になるのではとすら思えてくる。
だが、私の思っている以上に、中世ヨーロッパ風の異世界は厳しかった。
「女だ・・・」
声が聞こえて、その声の方を向くと、路地の暗がりの奥に汚らしい男が佇んでいるのが見えた。
「・・・」
限りなく嫌な予感がする。
「ハア・・・ハア・・・」
男の息は荒く、眼は血走っている。
「女・・・女・・・」
女って言う年頃では無いはずだが、どうやらあの男には関係無い様で、段々と股間の辺りが膨らみ始めているのが分かる。
「ひっ・・・!」
自然と浮かぶ嫌悪感に、思わず声が出てしまった。
本能が警鐘を鳴らしている。
「女!!」
逃げようかと身体を身体を動かそうとした瞬間、男が叫び声を上げて向かって来た。
まるで獣の様な様相でコッチに来る。
「いやっ!!」
脚に力が入らない。
這うようにして逃げようとするが、そんな抵抗など無駄だと言わんばかりに、男が直ぐに追い付いて脚を掴んだ。
「へへへへ!!女ぁ!!おんぁあああ!!」
力尽くで引っ張られる。
ガリガリと地面に擦られて掌が痛み、力一杯に握られている足首が折れそうになる。
「は、離せ!!」
必死に抵抗を試みてみても、男は気にした素振りも見せずに引き寄せて、両手で両足首を掴むと、一気に左右に開かせた。
「っ!!」
粗末なワンピースの様なズタ布が捲り上げられ、汚れの目立つ白い脚が大きく開け広げられた。
何も着いていない股間が、空気にさらされて奇妙な感覚を味わうと同時に、大きく目を見開いた男の凶相に、凄まじい恐怖を覚える。
「女ぁああ!!」
男が覆い被さってきた。
獣の様な酷い悪臭が鼻を突く。
そして、何よりも腹の上に感じる硬い怒張の感触が更に恐怖感と嫌悪感を増幅させ、自然と目尻に涙が浮かんだ。
「ハアハアハア!!」
もうダメだと、臭い吐息を浴びせ掛けられながら諦めて脱力した。
どうやら、異世界転生でも、ラノベでは無くエロゲの方だった様だ。
「・・・!」
せめてもの抵抗に、男の顔を思い切って睨んだ。
眼に写る男の顔は、だらしなく緩んだ締まりの無い顔で、眼だけはギラギラと血走っている。
「お、おおおお、女!!」
それしか言えないのかと、何処か冷静な部分が頭の中に感想を浮かべて、男を睨み続けた。
そんな私に男が食らい付くその瞬間、乾いた破裂音が響いた。
「・・・えっ?」
その瞬間、全てが理解でき無くなった。
いきなり覆い被さっていた男の顔が、スイカの様に弾けて無くなったのだ。
上体を起こして見下ろしていた男は、首から上が消えて無くなり、そのまま後に倒れてしまう。
「は?」
素っ頓狂な声を上げたのも無理は無いと思う。
目の前で起こった事への理解が追い付かない。
そんな所に背後から声が掛けられた。
「大丈夫ですか?お嬢さん?」
振り返って見上げると、そこに居たのは、濃い茶髪の少し悪そうな感じの紳士だった。
「間一髪って所かな?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる紳士は、手にしていた拳銃をジャケットの中にしまった。
「あ、あああ・・・」
何かを言おうとした時、ふと見ると身体中にベッタリとした赤黒い汚い液体がへばり付いている事に気が付く。
それが何なのかを理解すると同時に、血の気の引いた私は、そのまま意識を手放した。