実践できるかは別
「今日はこっちから聞いてもいいかな?」
「え、珍しい。つまり今日はあなたがボケ役をするのね」
「違うから。というか漫才をしていたつもりはない。実は小説を読んでいたら、いまいち納得しづらい描写を見つけて」
「どんな描写かしら」
「モンスターを目の前にした冒険者たちが、何故か延々とモンスターの生態や弱点、ステータスについて話し合って、それから戦うっていう描写」
「あら、一体どこがおかしいの?」
「何でモンスターっていう危険生物を目の前にして平然と会話してるのか。しかもどうしてモンスターも襲ってこないのか。時間が止まっているのか? おかしくない?」
「確かに違和感はあるわね」
「こういうの、けっこう見かけるんだよな……わざわざキャラが喋って説明する必要あるのか?」
「あると思うわよ。身も蓋もないことを言うと、それはリアリティより『分かりやすさ』を重視しているからじゃないかしら。説明が全くないよりは、例え不自然さがついて回ろうと最低限書いてある方がマシだもの」
「それにしたってもっと行動で見せるとか、やり方があるんじゃないかな」
「まあね。でも『分かりやすさ』を重点的に置くのは悪いことではないわよ。リアリティだけ追及したら、そもそも魔法なんてファンタジックなもの、登場させられないし」
「確かに想像するしかない代物ではあるけど。炎を使ってくるから水や氷が弱点とか、そういう察知の仕方にはできないのか?」
「それはそれで、炎の弱点が水や氷っていう図式が頭にないと成り立たないでしょう。だいいち、その図式を利用すること自体、分かりやすさを利用している象徴みたいなものだと思うけど」
「うっ……でも個人的には、できれば描写には厚みが欲しいけどなあ」
「その辺は千差万別だし、特にライトノベルだと地の分は読み飛ばす傾向の人もいるからね。だから『あえて目に付く会話文に説明を乗せる』のは立派な手法だと思うわよ。この作品群も会話形式ばっかりだし」
「メタいメタい」
「モンスターの前で会話するな、っていうのも感想としては合っていると思うわよ。ただ作者的には、読者が思っているより遠くにいたり、早口に説明させている流れなのかもしれないから、一概には決めつけられないわね」
「それは書いていないのが悪いのでは?」
「ふっ、その通りね。そこを書くところまで手が回らなかったんだから、しょうがないわ」
「開き直ってどうする」
「でも分かりにくいよりは、分かりやすい方がいいでしょう。こだわるあまり、描写じゃなくてただの資料集みたく書いても意味はないんだし」
「まあね。リアリティにしろ分かりやすさにしろ、配分が大事なのか」
「私……あなた(の奢り)が目当てなの……」
「欲望が分かりやす過ぎる」