# 007
「え?南部さん!?なんでここに?」
その奴隷商の言葉に思わず聞き返してしまった俺に花は思わず手に口を当てる。
「しっ!しーっ!」
「おい、どうした新人」
っと騒ぎを聞きつけてか仲間の奴隷商数名がこちらに注意を向けてきたがその花を名乗る金髪の女性はその手をはなさないまま仲間の奴隷商に振り返り、
「いえいえ、この奴隷がうち……じゃなくて私に生意気な口を聞くもんですから。こ、この出来損ないめ!」
そう言って花はぎこちない所作ながら思いっきり俺の頬をひっぱたく。
例によって痛みこそ感じないものの一瞬視界が揺れる。
顔を殴られるという感覚を痛み抜きで感じたのは間違いなくこれが初めてであろう。
「そうか、程々にしとけよ」
なんとか誤魔化すことに成功(?)したものの俺の頭の中は疑問符でいっぱいである。
が、花はほっと一息ついて俺の顔をもう一度睨みつける。
「まず最初に、花のことは花って呼んでいいから。そして言っておくけど花も質問に応えられるほど状況把握してるわけじゃないから。なんか目が覚めたらここにこんな格好でなんか奴隷?とかいう人が周りにいっぱいいてもうわけわかんないですけど?って感じ?」
「俺もだ。気づいたらこの状態だし一体何がなんだか……」
ひとまずお互いの現状報告を終えてその絶望的な状況に落ち込むがそうもしていられない。
花が奴隷商のうちにいるとするなら尚更一緒に逃げたほうがいいというものだろう。
「とりあえずほかのふたりを探さないといけない……。あとどれくらいで奴隷市場に着くかとかわかるか?」
「あ、え、えーっと。奴隷市場かわかんないけど次に到着するのはファームっていう場所らしいとか言ってたけど」
「それだ!ファーム……つまり農場で俺たち奴隷を一気に売るつもりだ」
「え!?マジで?でもそれあともう少しで着くとか、なんかあと数時間で着くとか言ってたよ?」
「数時間!?」
思っていたより時間がないことがわかり今更ながら事の重大性に気づかされる。
「それは今すぐにでも逃げる必要がありそうだな」
「……わかった。ここは花に任せておいて」
そう言って花は非常に自信有りげにウインクをしてみせる。
俺はそれを見て大丈夫だろうかと思いつつ少々花がどうするかを見ていたが、花はすっくと立ち上がるとほかの奴隷商のもとへと近づいていく。他の奴隷商たちもそれに気づいたのか、
「おう、新人。気は済んだか?」
「あ、えーっとはい!でもこいつ、ちょっとトイレに行きたいとか言い出しまし、やがって……」
「便所だぁ?奴隷の便所なんざそのへんでさせりゃいいだろ?」
「あ、えーっとそれがなんかこいつ人に見られてちゃできないとか……」
なんだか随分と苦しい言い訳にも聞こえるが大丈夫かと俺は思わず心配になる。
案の定奴隷商たちも互いに不審そうに顔を見合わせている。
奴隷商たちは非常に不審そうな様子で顔を見合わせたあともう一度花の顔を見る。
花の顔は見えないが冷や汗を垂らしているに違いない。
「お前、随分あの奴隷を気に入ったみてぇだなぁ……」
「え?そ、それはそのぉ……」
そう言って花がどう言おうかごまかそうかともじもじしていると奴隷商たちはが何故かいっせいにぷっ、と吹き出すと誰からともなく急にゲラゲラと笑い出す。
「ったくお前もしょうがねぇなぁ。でもやるんなら俺たちの目のつかないところの茂みででも手早くやってくれよ」
「しっかし新人もずいぶん物好きだなぁ!あんなただでかいだけのやつの何がいいんだかねぇ……。男の趣味が悪いんじゃねぇか?」
「よせって、それは個人の自由だろうよ」
「あぁ、それとわかってはいると思うが、お熱のあまり足かせを外したりするんじゃねぇぞ?」
っと、何やら勘違いをしているようだが、あっさりとOKが出る。
「あ、えーっとありがとうございます!」
と花はお礼を言いつつ俺の手を引いて奴隷商の一団から離れていく。
(ったく、男ってのはゲームの世界でもこうなんだなぁ……)
脱出することができたことを喜びつつ俺はひとまず脱出することができてホッとした。
奴隷商たちが見えなくなってからは足かせなども外してかなりの距離を走っていく。
「ふぅー……、ここまで逃げれば安心だろう」
「……」
森の奥の方へとどんどんと逃げていったところでようやく一息ついた。
しかし奴隷スタートとは思っていなかったため、思わぬ災難に余計に疲れたような気がする。
「ひとまず喉が渇いたし食料も必要だし……っていうかそもそもここがどこなのかもよくわかんねぇし、地図の入手も……」
「ねぇ立花」
ブツブツとそうつぶやいていたとき突然花が声をかけてくる。
「ん?どうした?」
「いやさぁ……」
花は何やら要領を得ないような表情でこちらをしばらく見てから口を開いた。
「あの人たち何言ってたのかなぁ?なんでこんなあんなあっさりトイレ行くの許してくれたんだろう?」