# 006
次に俺の目を覚ましたのは頭の中で鐘を鳴らされているかのような衝撃だった。
「……い!おい!いつまで寝てるんだ。起きろ!」
頭の中で声が響いたかと思うと今度は頭から冷水でも浴びせかけられたかのような衝撃と息苦しさを覚え思わずゲホゲホと咳き込みながら意識を取り戻す。
「ったく、やっと起きたかこのでくのぼうめ。さっさと立て。奴隷市場までまだ半分も歩いてないぞ」
なんだか聞きなれない言葉が連発され情報処理の追いつかない頭を上げ、足を立てようとしたとき足元に違和感を感じる。
何かと思って下を見ると足には足かせがはめられている、というかよく見ると手錠もはめられている。
(お、おいおいなんだよこれ!)
と処理の追いつかない頭で更に考えるがそこで先ほど聞こえた"奴隷市場"という言葉の理解がようやく追いついてくる。
(まさかこれって……)
とさらに考えを進めつつあたりを見回すとよく見れば周りにはパンツ一丁。また、パンツとさらし一丁のような格好のみすぼらしい格好の男性や女性が俺と同じように手かせ足かせをはめられ佇んでいる。
もちろん俺の姿もそれらの姿と全く同じのパンツ一丁という格好だ。
どうやら俺はこの世界の奴隷になってしまっているらしい。
(なんかそれに現実世界よりもなんだか視界が高いような……)
と、顔に手をやると普段は生えていないほどのちくちくとしたヒゲの感触も感じる。
どうやら、ゲーム世界では現実世界とは全く違う体を与えられるらしいということを理解する。
だが、そうとわかればあまりグズグズもしてはいられない。
俺がこの世界に飛ばされているということはおそらくほかのメンバーもおそらくこちらに来ているということであろう。
一刻も早くみんなと合流し、そのジョンとかいう王子を探し出さなければならない。
そうしてゲームをクリアしなければ元の世界には戻れないこともわかっている。
(早急にみんなを見つけ出さないといけないな)
しかしそのためにはこのまま奴隷状態というわけには行かない。なんとか逃げ出して、しかしそのためにはなんとかこの手かせ足かせを外さなければ逃げられない。
(ったく、始まったばかりだってのになんてハードモードなんだよこのゲーム。ってか大体いきなり奴隷から始まるゲームとかあるか普通!?)
だが弱音を吐いている時間はあまりないというものだろう。
そういえばさきほど誰かがいま奴隷市場に行く途中だとかなんとか行ってたような気がする。
ということはいま自分たちをどやしている男たちは奴隷商ということになるのだろうか。
できれば売られるよりも前に逃げ出したいものだ。
なんとかならないものかと辺りを見回す俺
(幸い周りに見えるのは森林地帯。こんな森深くなら足かせ引きずりながらでもなんとか追っ手をまけそうなもんなんだが……)
っと、考えていた時である。
近くの茂みからガサガサという音が聞こえ、内心びくついて見ていると、そこからもうひとりの奴隷商と思われる男がにゅっと顔をのぞかせ、続いて体を見せる。
そしてその次に奴隷商はその逞しい腕で何かをズルズルと引きずってくる。
最初動物かとも思ったそのぐったりとして血まみれになったものが人間であるということに気がついたのはそいつが手枷や足かせを付けているのに気がついてからだ。
「こいつ、ようやく見つけたぜ。全く逃げられるわけがないのに手間取らせやがってよ」
そういって俺たち奴隷たちの中にその傷だらけの奴隷をどすっとまるで品物のように投げつけるその奴隷商。
その様子を見て俺はついさっきこの森林地帯なら追っ手を負けるかもと思った先ほどの考えを改める。
(だめだこれ、まず足かせなんとかしないと無理だわ)
だが足かせは鍵で固定されているし、どうしようかと途方にくれていた時である。
「おい、何をグズグズしてる。そろそろ出発だ!さっさと立て!」
と、甲高い声が聞こえる。
すぐにそれは女の声だと気づく。
(へぇ、奴隷商にも女性がいるのか……)
まぁ別にいてもおかしいというわけではないのだがなんとなくあまりこういうのは汚いおっさんがやってるイメージがあったため、妙にイメージが崩れような気もする。
などと考えているとその金髪で小柄な女性の奴隷商がこちらに近づいてきた。
「ほら、そこのでかいの!チンタラするんじゃねぇ!」
「は、はい!」
小柄な女性がまるで木刀のような棍棒で俺の膝を殴りつけてきた。
ゲームの特性上痛みは感じないがやはり一瞬体を痛めつけられたことで思わずくらっと倒れこむ。
「ひぃっ!」
思わず声を上げるとその女性がつかつかと近寄ってきて俺の髪の毛をつかんで顔を上げる。
「ははは、おいおい新人。あまりやりすぎて商品をダメにするんじゃねぇぞ」
その女性の後ろの方からそう声をかけられるが、彼女はその声が聞こえているのか聞こえていないのかは分からないが、全くお構いなしに俺の顔に詰め寄ってくる。
「ったくてめぇはちょっと甘ったれてるんじゃねぇのか?」
「そ、そんな……」
と、俺は恐怖に思わず目をつぶる。
だが、次の瞬間下の方で小さくかちりという金属音が聞こえ、手と足への荷重が軽くなったのを感じる。
恐る恐る目を開け手と足を見ると、手枷と足かせの鍵が外され自由に外せるようになっていることに気づく。
「な、何を……」
と小声でつぶやきながら思わず前方に詰め寄ってきたその女性の方を見ると、
「立花だよね?うちだよ!花!隙を見て逃げるよ!」
とすぐ目の前で金髪の女性がこちらにウインクしているのであった。