# 005
みどりさんの声が聞こえたかと思った瞬間世界が暗転する。
いや、というかヘルメットをかぶった時には確かに風景は既に暗かったのだが、暗転してからはまるで視界が暗いというよりまるで網膜に暗い映像が映し出されているという感じで人工的な暗さを見せられているかのようだと説明した方が近いかも知れない。
そして不思議なことなのだが暗闇の中だというのに下を見れば自分の手足ははっきりと見えるなんだかまるで暗転したテレビの画面に映し出されているかのようにはっきりと見えるのだ。
「あ、聖!」
っと後ろでがヘルメットから聞こえてくる声なのかどうか定かではないが鈴の声が聞こえた。
聖が振り向くとそこには手をブンブンと振っている鈴が暗闇の中に立っていた。
「鈴!」
聖が名前を呼んで歩み寄ると鈴もまるで名前を呼ばれた犬みたいにこちらへ一心に走ってくる。
「よかった~。ところでここどこ?」
「なんだかよくわからない。このままゲーム世界に飛ばされるみたいな感じであのみどりさんって人は言っていたが……」
とふたりが十分近づいたところでそのように言っていた時だった。
「あ、お二人さん!え、えーっと聖さんと鈴ちゃんだっけ?」
っとこれまた聴き慣れた声に振り返ると今度は見慣れたダボダボのカーディガンの女性が目に入る。軽いギャルメイクにダボダボのカーディガンとカッターシャツ。そしてミニスカート。花である。
「えーっと南部さん?」
「花でいーよ★っていうかここ一体どこなの?」
「わからないけど多分ここは一時待機ロビーみたいなところじゃないか?」
っとそう答えたのはいつの間にやってきていたのか馨が逞しい腕をのぞかせながら会話に入ってくる。
「一時待機ロビー?」
「あぁ、本来ならこのままゲーム世界に行く事になるところを、みんなが接続するのを待つ待機所みたいなところか」
なるほど、となんとなく頭で理解する。
となると今まだ接続し終わってない人物が居るということだ。
そして今ここに来ていないのは……。
「磯貝社長か!」
「なるほど、社長待ちってことね~」
ひとまず社長がくるのを待つしかないのかという雰囲気になったところで突如あたりにマイクのハウリングの時のような頭が割れるかというほどの大音声が響き渡ったかと思うと、急にザザッ、ザザッという雑音とともに音声が流れ始める。
「ザザッ……ようこそ、ザザッ……パンゲラの世界へ。皆さんを、ザザッ……パンゲラの世界へと、ザザッ……歓迎いたします」
切り貼りしたような音声に俺たちは全員苦笑いをする。
「なんか最新ゲームだってのに音質随分悪いんだな」
馨の言葉に一同クスクス笑っているが笑っている場合ではない。
鈴がちょっと笑いながら
「ねぇー社長がまだ来ていないよ~」
と問いかける。
「社長、磯貝社長を、ザザッ……認証中……認証中……」
とその音声は機械音やら雑音やらとともにそのように言いながらフリーズするがすぐに
「磯貝社長を認証失敗。ゲームを開始します」
という声が当たりに鳴り響いた。
「えっ、ちょっと待てよ」
俺は思わず声の主に問いかける。
「このゲームは5人揃わないとゲームクリアできないんだろ?認証してもらえないなら一回ゲームから抜けたいんだけど?」
「ザザッ……申し訳ありませんがこのゲームは途中退室をすることができません。ザザッ……ゲームを退室するには、ザザッ……ゲームをクリアしなければ、ザザッ……なお悪質な退室常習者などには、ザザッ……ゲーム参加に関して深刻なペナルティが、ザザッ……それではゲームを開始……」
「え?ちょいまてって!」
「マジで?始まるの?今から?社長は?」
一瞬のことにパニックになる一同。だがまるでその抗議の声を無視するかのようにその声は粛々とした声を続ける。
「それでは、ザザッ……まず最初に朝倉馨様をゲーム世界に接続します」
「え!?俺?」
そういった次の瞬間に馨の体が少しずつ薄くなっていく。まるで水の中に角砂糖を溶かしていくときのようにゆっくりと暗闇へ溶けていく。
「待って、あ、あああああ!」
っと馨はまるで断末魔を上げるかのように最後は完全に消えていく。
「次、ザザッ……に南部花様を接続致します。
「えっ、ちょっと!」
と花も抵抗する暇もなく
「ちょっと、助、け……」
と消えゆく声とともに暗闇の中に飲まれていく。
「お次に、ザザッ……鈴、様をご接続致します」
「聖!どうしよう」
不安げに聖の腕を固く抱きしめる鈴。
普段のノー天気な表情と違う非常に不安げなその目に俺は勇気づけねばと鈴の腕を握り返した。
「だ、大丈夫だ俺が必ず助けに行くから。それまで待ってろ!」
「わ、わかった。わかったよ……」
といった次の瞬間には鈴の体は消え始め、そして最後にはやはり暗闇の中に溶けていった。
「最後に、ザザッ……立花、聖様」
その声に俺はやはり恐怖を感じる。先程は鈴を勇気づけるためにああはいったもののやはり不安だ。
だがここは覚悟を決めるしかない。
「くっそぉ、一体何がどうなってるんだよこれ……」
といっているうちに手がだんだん粉のように溶けていくのを感じる。
「ったく、とんだバイトだなこれは」
そう言った次の瞬間には俺は意識を失っているのだった。