# 033
3人でジリジリとスキピオを追い詰めていく。
一方スキピオの方はこの圧倒的劣勢にも関わらず不敵な笑みでも浮かべそうな表情で俺たち3人にグラディウスを代わる代わる向けている。
だが、決して油断しているわけではないため追い詰めているのはこちらの方だというのに不気味な静けさがあたりを支配する。
そして最初にその静けさを破ったのはスキピオの方であった。
「頃合だ!!」
何?頃合?
と考える暇もなくスキピオはそのように大音声であたりに呼ばわったかと思うと三方から囲まれているうちに囲まれていない方向に突破口を見出してそこから一目散に森の中へと去っていく。
全員であとを追うにももはやその姿は遥か彼方に去っていっていた。
ただひとりシーナだけはその後ろ姿に銃を構えながら、
「撃ちますか?今ならまだ当たるかも……」
と俺の許可を待っている。
彼女の射撃の腕と忠誠心は全く頼りになるのだが俺には別の懸念があった。
そのため、
「ちょっと待って……」
とシーナに指示を出してキハールの方に、
「なんだかあっけなさ過ぎませんか?」
「奇遇だな。私も何か嫌な予感がする……」
キハールはそのように言うと、急に駆け出した。
だが、気になるのはその駆け出した方向で、スキピオが逃げた方向ではなくキャンプの方向へと駆け出していったのだ。
「し、師匠!?」
俺も慌ててそのあとを追ってキャンプの中に入っていくが、キハールは更にキャンプの奥の方へと走って行く。
そしてある場所まで走ってきたところで俺は息を呑む。
なんと後方にあるキャンプの一部が荒らされていたのだ。
あたりには抵抗したあとも見える。
「これはひどい……」
俺たちが立ち尽くしていると俺たちのあとを追ってきたのかギーシュとシーナも後から続いてやってくる。
「どうしたお前ら……ってこれは!?」
ギーシュもこの惨状に言葉を失い息を飲んで言葉を失っていたがふと我に返るとキハールに食って掛からん勢いで
「な、なんだこれは!!いったい誰がやった!?」
と軽くキハールの襟首を掴んで詰め寄る。
一方キハールの方もこれに全く動じず、
「わからない……我々が来た時は既にこの惨状だ」
「クソッ!!」
ギーシュはキハールから情報を聞くとあたりにあった大木の幹をしこたま殴りつける。
その様子を見ていたシーナがギーシュに駆け寄り質問した。
「頭領さん、ここにいたのは誰ですか?」
「あぁん!?」
相当気が立っている様子で凄むようにシーナに答えるギーシュだが、すぐに我に返り、
「あぁ、すまない。ここはこのキャンプの後方だ。ああやって奴隷商やレギオンの憲兵らがキャンプに攻め寄せて来た時はキャンプの後方に女子供を隠して男どもでキャンプを守る。それが通例だったんだ……」
「だが、今回奴らはその裏をかいて表で陽動しその隙に背後に回り込んだ別働隊が後方に隠れていたはずの女子供たちをさらっていったというわけか……」
「え?じゃ花ちゃんやメリルも……?」
「全く……連中はハイエナみたいにしつこい野郎だ」
そう毒づきながらかがみ込むギーシュだったがキハールは少々黙り込んでいた。
「なぁ頭領、その奴隷商たち今から追いかけられば間に合わないか?」
「無駄だ、ほらこれを見ろ」
そう言ってギーシュは地面を指差す。そこには馬のヒヅメの足跡がはっきりと残っていた。
「馬の足に追いつけっこない……。完全にしてやられた」
「奴らの連れている馬がどんな馬かは知らないが、我が愛馬、アイビーにかなう名馬を奴隷商やレギオンの連中が持っているとは思えない。今からならまだ追いかけられる」
「なっ……!?あんたもしかして今から追いかけてくれるっていうのか?」
ギーシュが四つん這いになった格好のまま顔を上げて目を輝かせ、またしても飛びつかん勢いでキハールの手を握る。
「恩に着る!あんたには何度も助けてもらってるっていうのに……」
「気にしなくていい」
相変わらずぶっきらぼうにそのように返すとキハールは待機していたアイビーの後ろに乗って俺とシーナの方を向いた。
「聖くん、それにシーナくんも手伝ってもらえるかな?」
「も、もちろんです!」
唐突に名前を呼ばれて反射的にそう答える俺。
シーナももちろん力強く頷いてアイビーの後ろに乗り込んだので俺もその後ろから乗り込むと、キハールは馬の腹を蹴る。
そのままトップスピードに乗るアイビーに俺は思わず後ろにのけぞって落ちそうになり前にいるしーなの肩を掴んだ。
「しっかり捕まっていてくれよ!」
というキハールの声がなんとか聞こえ俺は振り落とされないようにするのが必死であった。
しばらく快速で走っていたアイビー。
キハールが名馬だと自慢するのも納得のスピードでしばらく森の中を疾駆していたが、キハールが突如スピードを落とし前方に注意を促した。
俺たちが促されるまま前を見ると前方に馬を引きながら走っている一団を見つける。
そしてその中には、
「あ、あれは花ちゃんじゃないか?」
「メリルらしき子供もいますよ!」
と俺とシーナは小声で言い合う。
キハールがやはりこれに対するように小声で、
「まさか連中もこんなに早く追っ手が来るとは思ってはいるまい。ここは奇襲するのに打って付けの機会だと思わないか?」
と提案するがシーナがそれに答える。
「奇襲するならここから先制に一発撃ってもいいですか?この距離ならあの馬を引いている人を一人命中させられます」
「……馬上からでもやれるか?」
「はい、やれます!」
そう言うとすぐさま愛銃を構えるシーナ。
目標までは100m以上あるように思えるのだが果たして命中させることができるのか。
俺とキハールは耳を抑えて次の一発を待つのであった。




