# 032
俺が意識を取り戻したのはあまりの寝心地の悪さと寒さであった。
体中に素晴らしい違和感を感じながら俺は体をよじってなんとか起き上がるもののやはり体中に無理をさせている感覚は否めず、軽く体をよじる。
おそらく仮想空間でなければ体中がバキバキに傷んでいたであろうなと思いつつ身を起こして、あれだけ頑張ってどれくらいステータスが伸びたのかという興味心がわいて、メガネをかけて自分の体にピントを合わせる。
(攻撃30、防御27、回避37、器用さ28……)
夜通しキハールに厳しく叩き込まれたにしてはなかなかにしょっぱい伸び率だったなとは思いつつ、大幅にステータスがアップしているのはありがたいことだ。
とここまで確認したところで、あたりがが騒がしいことに気づく。
キャンプの入口の方へといってみるとなにやら誰かが言い争っているのが聞こえる。
片方がおそらくギーシュ頭領だというのはわかったがもう片方の声が聞こえないため近くに行って確かめてみるとようやくはっきりと声が聞こえてくる。
「……無法者諸君!今のうちに降伏することをおすすめする。それでも拒むつもりなら大怪我ではすまないかも知れないぞ?」
「……大怪我が怖くて逃亡奴隷なんてやっていられるか。ってそう答えたらどうするんだ?その人数で俺たちを戦うのか?」
その人数……という言葉を聞いて俺が相手の方を覗き込むとそこにいたのはレギオン帝国兵の制服を着た男たちが20人ほど立っている。
そしてその中に見慣れた姿もあった。
ちょうど先ほど喋っていた男。つい先日剣を交えた男だったのだ。
(あの小男……確かスキピオとか呼ばれてたやつだ!)
確かに300人ほどがこもるキャンプを攻めるには少々心もとない人数のようにも見えるがおそらく先日のあのスキピオの強さから考えて彼が連れてきている彼らもおそらく相当な強者ぞろいなのであろう。心なしか数人のレギオン兵の表情にも恐れはな異様に見えた。
「ここは国境沿いだ。今でこそ我々はクルリタイ・ハン国との講和に成功しているがもし国境沿いで大規模な軍勢を動かせば又しても紛争になりかねない。とすれば我々が国境地帯にいる逃亡奴隷を回収する手段は少数精鋭の軍勢でキャンプを制圧すること。少人数なのは承知の上だ」
「つまりこれからレギオンの精鋭部隊のおてなみ拝見ができるというわけか」
ギーシュの方もせっかく得た自分と仲間の自由をただで引き渡す訳もなく挑発するように牙をむいてみせる。
「……愚かな」
スキピオがかすかにそう口を動かした時だ。ギーシュの後方から、黒い影が飛び出してきたかと思うと、突如スキピオに襲いかかる。
ギーシュにピントを合わせていたスキピオはこの襲撃に対する対応がやや遅れ、なんとかグラディウスで受け止めるものの、キハールは第二第三の攻撃を繰り出していく。
そのキハールのスピードに押されやや受け気味になるスキピオ途中で体勢を立て直してから前に飛び出てキハールに一太刀浴びせ、キハールの腕から鮮血が飛び散る。
「し、師匠!」
つい先日数百回と呼んだ呼び名で俺は少々体勢を崩したキハールを庇う形でスキピオと対峙した。
「ぬぅ、聖くん。何を……」
「師匠の助太刀です!」
「す、助太刀か……」
体勢を崩したキハールは呻くようにそうつぶやく。
ギーシュはそれを見るとその手下たちに
「おい!客人ばかりに戦わせるつもりか!?行くぞ!」
とほかのレギオン兵に向かっていく。
だが、一方でスキピオは俺の顔を見るなり、
「お、お前は……この間の夷賊か!」
と叫んだ。
さすがに昨日の今日であるから覚えていたらしい。好都合だったのは俺の顔を見たときに一瞬構えが緩んだことだった。
それを見計らって俺は襲いかかる。
勝ち筋があるとしたらどんな小さい隙も見逃せるほど余裕勝ちできる相手ではないのだ。
(攻撃80、防御70、回避90……。相変わらずの高ステータスだ。まともにやりあって勝てる相手じゃないな)
だが今は手負いとは言えキハールもいる。そう言い聞かせ、スキピオと打ち合うが、やはり数合と打ち合わないうちにスキピオの剣が足をかすめて傷を負わされる。
「ぐっ……!」
このままではまた出血ダメージになってしまうがおそらく包帯などを巻いている暇はないであろう。
なにせスキピオはいつでも襲いかかれるようにグラディウスを構えているのだ。
足の怪我がかすり傷程度で済んでよかったと思いつつ俺は訓練用に持ってきていたサーベルを構える。
「死ね!この夷賊!」
先に動いたのはスキピオであった。
俺もスキピオの動きを確認してからまず最初の斬り払いを受け止めるが二合目がやはり避けきれずに顔をかすめていき、スキピオはその状態から肘鉄を俺の顔面に食らわせてくれた。
痛みはないが一瞬視界が揺らぐ。
「聖くん!」
ここで戦線復帰したキハールがスキピオに襲い掛かり、俺もスキピオに打ちかかった。
数の優位に立った俺とキハール。
さらにダメ押しに、
「聖さん大丈夫ですか!」
と横合いから銃を構えたシーナもやってきてスキピオは三方を囲まれる形となった。
先ほどの劣勢から一転、今度はこちらが相手を押し込める形となった俺たち3人。
問題のスキピオはというと剣を俺とキハール、そしてシーナと交互に油断なくせわしなく向けてはいたものの焦っている様子は全くなくむしろ平静を保っているように見えた。
そして少し口元が笑っているのだ。
(ったく……これでもまだ余裕だっていうのか?)




