# 031
夜のこの逃亡奴隷盗賊村のキャンプにはかがり火がたかれている。
キャンプのいたるところにランダムに置かれているように見えて実はテントなどに燃え移らないよう考えられているらしい。
なんにせよかがり火や松明が煌々と焚かれたキャンプはまるで夜中でも昼間のように明るい。
そんな明るいキャンプの中、俺は地面に投げ出されていた。
もはやこれももう今日何度目かもしれない俺だがやはりこのように乱暴に吹き飛ばされれば痛みはしなくても体がダメージを受けているのは感じる。
おまけに疲労は感じるものだから体がクタクタだ。
(っていうか確かに修行をするとはいったけど、するといって直ぐにやり始めるものか普通……)
俺はそう考えながら俺の前に細いレイピアを持って立ちはだかるキハールを恨めしげに睨みつける。
「どうしたか?まだまだこれくらいでへばっていはいないだろう?」
(へばってるんだよ……!)
そう目で訴えるもののキハールは気づいているのか気づいていないのか全く無視して俺に立ち上がるように促す。
「ちょ、ちょっとたんま……」
俺はなんとかその言葉を絞り出して猶予を乞う。
それに対しキハールは少し考えながら、
「むぅ……確かに少々初日から無理をさせすぎか」
などと独り言を言いつつその場を離れたキハール。
ひとまずは命拾いをしたようで俺はホッと息をついた。
「いやぁ~なんか大変そうだねぇ~」
横で花が鉄串に刺されたなにかの肉にかぶりついている。
そういえば先程イノシシが取れたなどといっていた。おそらくその肉というわけか。
「全くだよ、こっちは飯も食ってないっていうのに……」
「まぁ強くなって私たちを守れるようになってね~」
「聖さん大丈夫ですか?」
肉を見せびらかしながら食い散らかす花と打って変わってシーナが心配そうにまるで女子マネージャーのように甲斐甲斐しく肉のついた串を持ってくる。
「すいません、さっきとったときは熱々だったんですけどすっかり冷めちゃって……」
「いやいや、全然いいよ」
確かに訓練はキツイが、このように優しいシーナがいれば力も出てくるというものだ。
さて、もう一頑張りと立ち上がった時である。
「いやぁ、しかしあんた、随分キハールに気に入られてるみたいだね」
と声をかけてくるものがいた。
この盗賊キャンプの頭目ギーシュである。
俺はその言葉にイマイチ要領を得ずに首をかしげる。
「そうなんですか?なんかあんな一方的にやられてなんだか嫌われてんじゃないかって気さえしてるんですけど」
「いやいや」
ギーシュはこれだから若者はとでも言いたげに手を振る。
「あのキハールというのはちょっと不思議な男でな。自分が気に入った相手であればあるほどぶっきらぼうに振舞っちまうんだ。逆に警戒している相手には人当たりのいい男に見えるっていうちょっと変わった奴なんだ」
「ふーん、なんかツンデレみたいな感じなのかな」
横から花が茶々を入れるので俺は黙ってろとばかりに花を睨みつける。
「ギーシュさんはキハールさんとは古い知り合いなんですか?」
「いやいや、そういうんじゃない」
ギーシュは俺の質問に答える。
「実は何回か俺がレギオンの兵士に捕まりそうになったところを助けてもらったことがあってな。それ以来ちょっとつるんでいるのよ」
「キハールさんっていうのは一体何をしている人なんですか?本人は貴族崩れだとか言ってましたけど……」
「それが……実は俺も詳しくは知らないんだ。あまりあいつは昔の話をしたがらないからなぁ。だがあんたらも知ってるだろうがあの剣の腕前は一級品だ。俺も剣術に関してはプロじゃないがあの太刀筋は只者じゃないってのはよくわかるよ。貴族崩れってのが本当なら昔は相当大物貴族だったんじゃないかな」
とそのように話すギーシュに俺はまるで何かギーシュが何かを隠しながらしゃべっているような気配を感じて思わず聞き返した。
「ギーシュさんもしかして何かキハールさんのことを何か知っているんですか?」
「ふふふ、勘がいいな」
ギーシュはそう言いつつもまるで気づいて欲しかったかのような笑みを浮かべる。
「実はな……」
そう言ってギーシュが声を潜めた時である。
「休憩終わり!訓練を再開するぞ!」
とややしわがれていつつも野太い大声を発しながらキハールがやって来る。
「さて、先程まではサーベルで訓練をしていたが君はなかなかに力が強い。おい、ギーシュこのキャンプに重武器はあるか?」
「あぁ、その辺にごろごろしてるよ」
ギーシュが指さした先にはまるで傘立てのような武器立てが置いてありそこには武器がギーシュの言うとおりゴロゴロしている。
キハールはその武具たてを指し示して、
「さぁ、好きなのを選ぶといい」
とアバウトな説明の元俺は重武器と言われたのでその中から重そうなものを選びボックスから抜く。
が、そういえば勝手にさっきから武器を使わせてもらっているが大丈夫なのかと不安になりギーシュの方を振り向く、がギーシュは俺が武器をジャラジャラ選んでいるのにも構わずシーナや花と話しこんでいた。
俺もあまり気にしなくていいのかと判断してゲームにしか出てこないでかさの大剣を担いでキハールに対峙する。キハールは相変わらず細いレイピアで俺の方を向く。
「さぁ、それでは……再度始めるとしようか?」
キハールはそう言ってまた訓練とは思えないほどのスピードで俺に向かってくるのであった。




