# 030
凄みを聞かせた顔で花に詰め寄っていくギーシュ。
心なしか盗賊団のほかのメンバーもこちらに詰め寄ってくるように感じる。
「あんたその格好奴隷商の制服だよなぁ?まさかあんた奴隷商なのか……?」
そういって顔面蒼白な花にギーシュがどんどんと詰め寄っていく。
どうしようかと俺が迷っているとギーシュの前に小さい影が立ちはだかった。
「ま、ママをいじめるな!」
そう言って立ちはだかったのはメリルである。彼は小さい体を精一杯いからせて震えながらもすっくと仁王立ちでギーシュの前に立っている。
ギーシュはその子供を見て、
「奴隷の子供……のママが奴隷商?」
と非常に不可解そうに首をかしげる。
そしてキハールのほうを向くと、
「なぁ盟友。一体こいつらは何者なんだ?」
と尋ねる。
キハールは少しヒゲを触りつつ、笑いながら
「その子の言っている通り家族なのでは?」
といまいち質問の答えになっているか微妙な返答を返すものでギーシュも呆れたように目線を戻して今度はこちらを向いた。
「おい、あんたがこの家族のリーダーってわけか?」
「えっ!?」
突然の問いに俺は素っ頓狂な声をあげてしまうが、すぐに質問の意味を理解し、
「は、はい……一応」
と生返事をする。
「ひとつだけ教えてくれ。あんたら、俺たちの敵勢力に属してるってことはないだろうな?」
「そ、それはありません……!断じて」
と棒読みで答える。
嘘をついているわけではないものの大丈夫であろうかと緊張してしまう。
「ふーん……確かに帝国の人間ってわけじゃなさそうだな」
ひとまず信じてもらえたようで俺は思わずほっとして聞き返した。
「信じてくれるんですか……」
「あぁ、帝国の内偵にしては肝が据わって無さ過ぎる」
一応信じてはもらえたものの、なんだかそのような理由で納得されたというのもなんとなく複雑な気分になり俺は顔をしかめる。
「疑ったのは悪かった。実は帝国の内偵にキャンプをいくつか潰されていてな。よそ者にはどうしても神経質になっているんだ」
「そ、そうなんですか……」
周りの盗賊たちも俺達が安全な人間だとひとまず信じてくれたのかあたりに散らばっていく。
「いくつか……このようなキャンプはほかにもあるということでしょうか?」
シーナの問いかけにギーシュが頷く。
「俺たちはこのアインの東の森林地帯のいたるところに無数に散らばる小規模な原住民のキャンプに紛れて生活している。アインのレギオン兵もこんな森の奥にわざわざ逃亡奴隷のキャンプの一つ一つをチェックしている暇はないからな。身を隠すにも打って付けの場所というわけだ」
そう言ってからギーシュは俺の後ろで花に抱きついているメリルの方を見つつ、
「見たところあんたたちも逃亡奴隷を連れてるみたいだな。そう言う奴はなおさら大歓迎だ」
人助けというのはしておくものである、でなければここでギーシュに疑われ続けたかもしれないと俺はホッと胸をなでおろした。
だがそれもつかの間今度はギーシュが次はこちらの番だと言わんばかりにこちらに質問を返した来たのだ。
「さて、俺は自分のことを話した。今度はお前らが答える番だぞ」
「はい?」
「一体お前らは何者なんだ?逃亡奴隷なんかを連れてなぜ旅をしているんだ?まさか俺たちに加わりたいってわけじゃないだろう?」
「あぁ……」
そういうことかと俺は思いつつどこまで話していいものやら少々頭を悩ませる。
「んーっと、実は俺たちは仲間を探しているんです」
「仲間?」
「はい、実は俺たちはスーデルの復権派と合流したくて……」
「スーデルの復権派……」
この言葉にギーシュだけではなくキハールも反応をする。
「スーデルっていやぁ、ちょっと前にクーデター騒動があった場所じゃないか?確か首謀者の名前が……」
「カッタスだ」
突然会話にキハールが入ってきた。
「そうそう、カッタスとか言う奴だ」
「キハールさんも何か知ってるんですか?」
まるで何か詳しく知っているかのような雰囲気を醸し出すキハールに俺は思わず身を乗り出すが、キハールは手を振って、
「あぁ、そうではない。諸国を巡っていれば噂というのは自然と耳に入るものでな」
「そうか……」
「ただし」
っと、ここでキハールは口を指を当てる。
「ここで私に出会ったのは運が良かったと言えるかも知れぬ。私は多少武術に心得があり、指南ができるかもしれない。察するに君たちはこれから戦いを避けて通ることはできない。そうではないか?」
「そ、それは確かにそうです……」
突然のキハールの申し出に俺もさすがに戸惑いを隠せないがキハールの言っていることは事実のため強く否定もできなかった。
「決まりだな。ここには武器も豊富にある。有意義な訓練ができるぞ」
まるで押し切られるかのように決まってしまった訓練の約束。
俺はそのメガネでひとまず自ら師を買って出たキハールの後ろ姿を確認した。
「攻撃85、防御75、器用さ90に筋力は40、射撃30……か」
なかなかのハイスコアな数字に仰天しつつ突如自分たちの教師となる人物に俺は少々一抹の不安と期待を寄せるのであった。




