# 002
ビルの回転扉を抜けて会社へと入っていく。
中は受付カウンター以外に全く何もない白い壁紙のデザインの部屋で全く誰もいないためまるで不法侵入しているかのような気分になって落ち着かない。
何となく落ち着かないため誰かいないかとあたりをキョロキョロと見回しているとどこから出現したのか、一人の若い男性が立っているのが見える。
若い男性は俺の姿を見ると「おや?」というような顔をして目を丸くする。
「君は一体……」
「あ、えと、俺は、その……」
突然のことに俺は面食らってしまい、コミュ障を発動してしまったこともあって少々どもり始める。
不審者ではないということを伝えようとすればするほど挙動は落ち着かなくなり不審者っぽくなっていくのが自分でもわかるったが、何故かその男は全く俺のことを不審がることなくにっこりと笑ってみせる。
「あぁ、もしかして表の張り紙の希望者です?」
「あ、え、えと。はい!」
「あぁやはり。ありがとうございます。私アースネット社長磯貝といいます」
「あ、あなたが社長さん……」
まさかのその若い男はこのビルの会社の社長だという。俺より少し若いだけで物柔らかな表情の男のように見えて相当な人物なのだろう。
俺は驚くあまりしばし言葉を失う。
「まだ若いのにすごいっすね」
「いやいや、そんなことはないです」
そう言ってその磯貝という男性は手を振りながら謙遜する。
「ところで、今回のそのデバッグして欲しいゲームって……」
「あぁそのゲームなんですが……」
磯貝は少し髪の毛を触りながら少し考え込む。
だが何を言うかを考えているというよりは言うべきか言うべきでないかを考えているようにも見えた。
なんにせよなんだか不思議な雰囲気をまとっている男性だ。
「詳しい話は明日話します。また明日の朝9時にここに来て頂けませんか?」
そう言って又してもニッコリと笑う磯貝。
別にそういうつもりはなかったのかもしれないがゲーム自体にも興味があったためはぐらかされたような気分になる。
「わかりました。じゃ明日は教えてくださいよ」
「えぇ。これも差し上げておきましょうか」
そう言って磯貝が表に貼ってあるのと同じ印刷物を一枚俺に渡す。
「あぁどうもありがとうございます」
とその時はなんとなく受け取ったのだが、これが後にあらゆる災難の種となることをこの時は夢にも思わなかった。
翌朝。
一応面接ということになるのかと思い、カッターシャツとスーツを身に付け、外に出る。
その日は非常にいい天気でいい出勤日よりである。
(んまぁ仕事にありつけるかどうかはわからないわけだが……)
そう考えながら家を出てちょっと歩いた時である。
考えうる限り一番今会いたくない人物が目の前をうろついているのに気が付く。
「あ、聖」
「げ」
そう声を出したときはもう遅くその髪の毛をちょんまげのようなポニーテールにしている鈴がバカのようなスピードで近づいてくる。
「どしたの、そんな格好して。今日どっかに面接行くって言ってたっけ?」
「いや、これはあの……」
と俺は口を濁す。
それもそのはずだ、ゲームのデバッグをしに行くなどといえばこんな奴に言えばきっと面白がって「面白そう!私も」などと言い出しかねない。
さてどうごまかそうかと頭をひねっていたが、さらに悪いことに鈴が俺のリュックからはみ出していた張り紙に気がつき俺が阻止する暇もなくパッと横取りした。
「え、なにこれ!めっちゃ面白そう!」
と鈴は約束された反応を見せ、
「私も行きたい!」
と言い出す。
「は?ダメに決まってるんだろ」
「やだー行きたい!連れてってよ!」
「連れて行く訳無いだろ」
と俺は凄んでみせる。鈴もそれに負けじと睨み返すが、すぐにニヤニヤと笑いながらこちらを見返してくる。
俺はその不敵な笑いが妙に不気味に思えて
「……なんだよ?」
と聞き返す。
「別にー?聖がどんなに嫌だって言ったってどうせ聖の後をついていけばそこに行けるってことでしょ?」
「くっ……!」
普段バカなくせに遊ぶことに関しては冴えている彼女の方が今回は一枚上手だったようだ。
もはや付いてくるなという気力すらもなく
「ったく、邪魔するなよ」
とだけ言ってもう好きにさせることにした。
さて昨日のビルは家から歩いて20分ほどの場所にある。
「へぇ、ここなんだ」
と言いながら鈴はさも当然のように昨日聖も潜った回転扉へと。
「あ、おい鈴。まだ時間にはなってないんだぞ!」
腕時計を見ながら鈴を止めようとするが鈴は聞こうともしない。
「いやでももう開いてるみたいだし」
と扉に手をかけながら入っていく。全く本当に奔放なやつである。
「全くお前ってやつは……」
「聖は入んないの?」
「あぁーもう入りますよ」
これは落ちたかと内心ため息をつきながら聖も回転扉へと入っていくのだった。