# 020
突然俺とシーナを部屋に連れ込んだその黒いドレスを着た細身の占い師はドアにガッチリと鍵をかけふぅーと大きく息を吐く。
そしてこちらをジッと見つめて、
「あなた本当に聖なのよね?」
と尋ねる。なんだか彼女が俺の名前を知った風なのが気になるが嘘ではないため、
「そ、そうっすけど……」
と答える。
「本当に?立花聖なの?」
「そ、そうですけど?」
「……ふぅ、よかった」
何やら安心した風でその女性はその小ぶりな胸に手を当てたかと思うとつかつかと俺に歩み寄り突然抱きついてきた。
突然のことに驚く俺だったが、それ以上に大きく目を見開いて驚いたのはシーナであった。
「な、何してるんですかちょっと離れてください!」
と俺とその占い師の間に銃を入れて必死に引き離そうとするものでその占い師はよろめくように後退りをする。
「な、何なんですかあなたいきなり……」
「ちょ、ちょっとシーナちゃん?わかったから銃は下ろしてあげて」
俺はそう言って俺を守るためなのは分かっているが相手の占い師に銃を向けるシーナを落ち着かせる。
双方ようやく落ち着いたところで俺は部屋の椅子に腰掛けて、彼女も同じく部屋の中にあるソファに座った。
「私は占い師のリズ。ここから北にあるルクバトで修行を受けた占い師です。まぁというのは表向きの姿で……」
そういって彼女は軽く片目を瞑った。
「実は私たちルクバトの占い師はプレイヤーの助言者として各地に派遣されているいわばサポートキャラクターでプレイヤーたちがつつがなくスーデル国の復権を成し遂げられるようプレイヤーたちがどこにいてもお助けするためにこのように各地にいるのです」
「そ、そうなのか……!」
ようやく出会えたお助けキャラに俺は地獄で仏にあったような面持ちとなり思わずテンションが上がるが、シーナはリズの言葉の意味がよく分からず要領を得ない表情をしていた。
「うーん、よくわからないですけど味方だということ、ですよね?」
「もちろんですよ」
そう言ってリズはソファにさらにもたれかかるように深く腰をかけた。
「もうとにかくこちらはこちらで大変だったんですから。何が何やら訳がわかりませんがどうもこの世界の生成バランスが不安定でなかなか安定しないんです。5人来るはずだという神託の救世主も4人しか到着しないし何が何やら……」
そのリズという子は世界観を崩さないよう言葉を選んで発言しているが要はゲーム世界に何らかのトラブルが起こっているということを言いたいのであろう。
「一体原因はなんなんだ?」
「わかりません、ですがここまで挙動が安定しなかったなんてことは歴史上例がありません。となるとこの世界の管理システムに悪意のある誰かが干渉した可能性も考えられます」
「いったい誰がそんなことを?」
「わかりません、もしかしたら外からやってきた4人の救世主のうちの誰かかもしれないし……もしくはこの世界の管理者の誰か……」
その言葉に俺は考え込む。
(おいおい、誰かがこのゲームに改造を施したとでも言うのか?いったい誰がなんの目的で……?)
っと俺はここまで考えが至ったとき、磯貝社長の言葉を思い出した。
『この技術を狙って産業スパイが耐えないんだよ』
(産業スパイ……。そうか、これだけのゲームなんだし誰かがこのゲームの技術を盗もうとこのゲームに侵入した結果何らかのバグが起こった、っていう可能性だって)
そこまで考えが至ったが、そうなればどうすればこのゲーム世界から抜け出せるのか……と俺は次の段階へと思考を移らせていく。
「一体どうすれば俺たちは帰れるんだ」
「神託によれば救世主たちは乱れたスーデルの悪政を正しその後神の世界に戻るとあります。ですからスーデルに行き、カッタスの悪政を終わらせてジョン王子を王位につける以外に方法はありません」
「うーん……」
簡単に言ってくれるがことはそう簡単ではない。なにせ俺は先ほど見たとおりステータスが不良の通知表のような数字なのだ。
「そうだけど俺ははっきり言ってクソみたいなパラメータなんだよな。はっきり言ってほかの連中も似たようなものだろうし正直これでスーデルに攻め込めるなんてとても思えないんだよ」
「それは、大丈夫です。救世主様にはそれぞれ特技があってそこを活かして戦闘をすることができるんです。例えばそのメガネをかけたまもう一度自分を見てみてください」
リズにそう言われ俺は半信半疑ではあったもののもう一度自分を見るため下を向いた。
先程は低いパラメータばかり見ていたので途中で見るのをやめてしまったがそこで俺は息を呑む。
「攻撃0、射撃1、防御1、回避3……、え?筋力95!?それに耐久100!?」
「なるほど、あなたはパワーファイター型の戦士みたいみたいですね。どんな重い武器だってへっちゃら。それに高い耐久力で味方を守ることもできるまさに人間シールドなわけです」
「お、おう……」
俺はその言葉の響きの格好良さに思わず声を出してしまうのであった。