# 018
マダムの家にて。
うまい食事が次から次へと息つく暇もなく出されていき、そろそろ食べるのにも飽きたかといった頃、マダムがタイミングを見計らったかのように話を切り出してきた。
「さて、そろそろあなたたちの物語を聞かせてくれる?」
「え?私たちの物語?」
花がお交わして持ってきたスープ皿に入れたスプーンの動きを止めずに聞き返す。
「そうよ、どう見てもあなたたちはアインの人間ではないでしょ?あなたたちは何をしにここに来たの?これから何処へ行くの?それに私はとても興味があるの」
「そうですね……」
俺は少し悩む。
このマダムという人物は悪い人ではないのかもしれないがどこまで話していいものやらと悩んでいたのである。
「俺は聖って言います。こっちは花でそっちはシーナちゃん。実は俺たち仲間を探しているんです」
「それは新たに仲間を増やそうとしているということ?」
「いやいやー、そうじゃなくってはぐれちゃった仲間を探してるの」
花が代わりに答える。
するとマダムは興味深そうに頬に手を当てた。
「へぇ、どんな仲間なの?」
「うーん……」
その問に俺と花は考え込む。
どんな仲間と言われてもおそらく二人共こちらでの容姿は俺たちと同様変わっているだろうからおそらく現実世界の見た目を説明しても意味はないだろう。
「それはちょっとよくわからないのですけど……」
「あらあら……」
軽く笑いながら応えるマダム。まぁ呆れられてもしょうがないかもしれない。
「それと王子を探してるんだよね」
っと、ここで花が王子のことを話した。
俺とシーナはそこまで言っても大丈夫なのかと心配そうに互いに顔を見合わせたが、花は全くそんなのおかまいなしに喋る。
「王子?」
「うん、スーデル王国の」
「スーデル王国って言ったら確かに15年ほど前に内部クーデターが起こって政権交代したあのスーデルよね?その王子というと……もしかして先代のルークの王子ということ?」
「えっと……」
先ほどの話をちゃんと聞いていなかったのか答えに窮する花の代わりに俺が
「そうです」
と答える。
「先代ルークの親類縁者はすべて殺されたって聞いたけれど」
「いや、それがまだ生き残りがいるんです。僕らはその王子を探し出して王座に据えようと奔走しているところだったんです。ですけど……」
「仲間とはぐれちゃったのね?」
「そういうことなんです……」
理解の早いマダム。
もう花が話の大筋を言ってしまったためもう俺はどうにでもなれと言わんばかりにマダムにも全てを話してしまうことにした。
中途半端に話して勘繰られるより全部話したほうが協力が得られると思ったのだ。
「ごめんね、仲間や王子の情報とかはないけれどもし旅立つんだったら国の情報はあげられるかも。ちょっと待っててね」
そう言ってマダムはしばし席を外して奥へ行ったかと思うと、それから5分ほどで戻って来て一枚の紙を差し出した。
「マダム?これは?」
「これは世界地図よ。この大陸のすべての国が載ってるの」
「ほ、本当ですか!?」
俺が喜々としてその地図を手に取ろうとした時だ、突如横から手がにゅっと伸びて素早くその地図を自分の方へと引き寄せてしまう。
「お気遣いどうもありがとうございます!でも今のところまだ、わ!た!し!が!持ってきた地域地図があるのでしばらくこれは使わないとは思いますけどお気持ちは頂いておきます」
っとなぜか俺の向かいに座っているシーナが不機嫌そうにそう答えて世界地図をカバンへとしまいこんだ。
そして一体何が不服だったのか分からないが、何やらこちらを睨みつけていたが、マダムはふふふと笑うだけだった。
「本当可愛い子達ねぇ……」
― ― ― ― ― ―
食事が終わる頃にはもうすでに夜も更けていた。
俺がなんとなく家にいる癖で皿を片付けているとマダムが
「召使いたちがやるから大丈夫よ。それよりみんなお風呂に入ってきたらどう?風呂場はこの部屋を奥に行って突き当たりを右よ」
と、とんでもないことを言い出したため一同驚いた顔をする。
「あ、あの。それって……?」
「あら?言ってなかったかしら。私が食事に人を招くときは基本的に一泊の宿泊付きよ?」
「初耳ですけど……」
「今聞いたでしょ?入る順番で喧嘩をしないようにね」
とそれだけ行って去っていくマダム。
「……なんだか、不思議な人だね~」
「でも食事に誘ってくれるだけじゃなく泊めてくれるなんて親切な人だね」
「……そうですね!」
俺がマダムを褒めるとなぜか不機嫌そうに答えるシーナ。
そのシーナに花が抱きつく。
「じゃまず私とシーちゃんが一緒にお風呂入るから!聖はそのあとね!」
「えっ!?っていうかシーちゃんってなんですか?」
っと突然のことにバタつく暇もなく花に引きずられていくシーナ。
「さぁ、シーちゃんお姉ちゃんと一緒に行こうねぇー」
「や、いや!ひ、聖さん!助けてくださいー!」
と必死に助けを求められる俺だったが、まぁたまに仲間同士のスキンシップもいいかとそれを手を振って見送ることにした。
さて、彼女たちが出るまでどう時間を潰そうか。どうせ暇ならマダムの召使いたちの手伝いくらいできないかと食堂の方に戻ってきてみるといつ戻ってきたのかマダムがテーブルについて暖かい紅茶を飲んでいた。
しばらくゆっくり紅茶を楽しんでいたマダムであったが俺と目があうといつものような不敵な笑みをたたえてこちらに手招きをしてきた。
「聖くん、食後にティータイムなんてどう?なかなか美味しいわよ?」
不思議と拒否するという選択肢は全く考えつかず俺は席に着く。
その俺の前に老齢の執事のようななりの召使いの一人が手際よくお茶を持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます」
と俺がお礼を言ったときには既に彼は素早く片付けの作業に戻っていき、代わりにマダムが話しかけてきた。
「ちょっと話があるのだけどいいかしら?」