# 016
「じ、10デナリ……!?」
「そ、そんなに!?」
っと驚くシーナ。
一緒に驚く花に関してはもはや突っ込む気にもなれなかった。
「そ、そんなにいいんですか?」
「10デナリっていうのは最低限それくらいは出せるってことよ?実際にはもう少し出せるかも知れないんだけど。まぁそこは私たちも商売なので私らの取り分ってことで、ね?」
そう言って舌を見せるマダムであるが、俺には価値がいまいちよくわからないので反応しづらいところだ。
そこでシーナに耳打ちをする。
「なぁ、さっきから言ってるデナリってのはどれくらいの値段なんだ」
「え?どれくらいの値段って?うーん……」
シーナは少々考え込む。
「デナリはレギオンで使われてお金の単位で1デナリが1日の大体の賃金だと言われてます」
「1デナリが1日の賃金か」
(そうなると1デナリ1万円から2万円くらいってところか?となると10デナリとなると10万円以上の値段?なかなかの値段だな)
瞬時に頭の中で換算しつつ俺はその疑問をマダムにぶつけようとすると意外な人物が代わりに尋ねてくれる。
「な、なんだと!?なんでそんな値段で買い取れるって言うんだ?」
先ほどの2デナリといった市場のオヤジである。
マダムはその質問に呆れたため息をつきながら答える。
「全くあなたは商売人のくせにそんなこともわからないの?商品をよく見なさい」
「商品……?」
「この肉のほとんどはボックスの肉よ。しかも農場で飼われてまるまる太ったボックスじゃない。この引き締まった肉は間違いのない100%天然の肉。残念ながら鮮度が今一つではあるけれど量がこれだけあれば欲しがる人は数しれないわ。これだけまとまった量があれば3デナリで買っても倍のお釣りが来るわね」
っと、そう言ってお次は彼女は俺が縄でくくって持ってきた毛皮に着目する。
「そしてこの毛皮。もちろんなんの毛皮かわかって値段をつけたのかしら?」
「……」
「これはベアードの毛皮よ。もちろんご存知あの山で最も凶暴とも言われるベアードの毛皮。軍の制服にも使われることがあれば最近はファッションで着こなしたがる貴族や富裕層も多い。でもその割には凶暴すぎて狩れるハンターがいないことから常に市場ではこの毛皮は枯渇気味。需要に供給が追いついていない状態なの」
そう言ってぺろっと彼女は指を舐めつつ毛皮を手に取って眺める。
「そうね……まぁ安く見積もって6デナリくらいは払ってあげないとこの子達が可哀想ってものじゃないかしら?」
「す、すごいです。全部あたりです……」
その言葉に市場のオヤジが目の色を変える。
「ま、待て!俺も同じ値段を出す。10デナリだ」
「あら?私と張り合おうって言うの?全く同じ値段で?」
「ぐぬ……」
そう言ってマダムは口をぽかんと開けている俺たち3人を誘って「さ、行きましょう」と連れて行く。
それを見ていた市場のオヤジはくそっと毒づきながら独り言を言っていた。
「ったく、なんてやつだ。マダム・スミシーだと?ふざけやがって……マダム・スミシー?いや、待てよマダム・スミシーっていえば……」
などと独り言を言ったことに俺たちは気が付いていなかった。
→ → → →
「ちょっといいですか?」
行きましょうと言って先を行くマダムに俺は声をかけた。
「あら、何かしら?子犬ちゃん?」
「さっき肉に3デナリ、そして毛皮に6デナリ出せるとおっしゃってましたね」
「えぇ、そうね」
「しかしさっきはマダムは10デナリ出すとおっしゃってくださいましたがどういうことですか?」
「ふふふ、なかなかいいことに気がついたわね」
なぜか不敵な笑みでそのように笑うマダム。
先程からなんとも掴みどころのない人である。
「残りの1デナリはこれから対価を支払ってもらうのよ」
「これから?」
思わず俺は聞き返す。
「私は常にこのパンゲラ大陸を飛び回っている。その中で私の一番の娯楽は客人の話を聞くこと。常に旅をしている身であるからこそそこでの出会いに感謝して大切にする。それこそが私のような商売人として最も大切にするべきことだと思う。そうは思わない?」
「人との縁を大事にする……ということでしょうか?」
シーナが聞き返すとマダムはパチンっと指を鳴らす。
「そう!なかなか飲み込みが早いわね。東方には一期一会っていうことわざがあるって知ってるかしら。常に人との出会いをこれを最後だと思って大事にするという意味なの。私はこの言葉がとても大好きで大切にしている座右の銘なの。まぁお金をもらいに行くついでに茶飲み友達の家に行くとでも思ってね?」
そう熱心に誘うマダム。これに花が俺の袖を引っ張って脇の方へ連れて行く。。
「なんかちょっとこの人怪しくない?やっぱりさっきの市場のおじさんにお金をもらってでてったほうがよくない?」
「私もそう思います。家にまでついて行くってのはちょっと……」
途中からシーナもやってきて女性二人が反対する形となったが、俺はどちらかというとこの女性に興味があった。
「いや、この人なんだかこの世界に詳しそうだし何か仲間たちの手がかりがもらえるかも知れない。ここで仲良くなっておくのもいいんじゃないかな?」
俺のこの言葉に顔を見合わせるシーナと花。表情はやや硬い。
「どう?会議の結果はどうだったかしら?」
そしてその後ろではマダムが笑顔で俺たちの返答を今か今かと待っているのであった。