# 015
さて、休息を十分に取ってから俺たち3人は再び歩き出した。
途中すぐに花がごね出したりなどのトラブルもあったが、おいていくぞと言って脅したりなどしてなんとかアインの街まで歩いてもらい、アインの門が見える頃にはもう夕方に区分するべき時間になっていた。
「疲れた……もう一歩も歩けない……」
「ご苦労さん、よく頑張ったね」
「宿屋を探したいところですけどお金がないのでまずは持ってきたものを売りましょうか」
シーナの提案に異論があるわけでもなく俺たちは高い壁の城壁門を通って街の中へとはいる。
国の前線ということもあって城壁は高層ビルほどあるのではないかという見上げるような高さであるにも関わらず城壁の上の方では更に高く石を積み上げる作業をしている。
そしてその作業をしているのはみすぼらしい格好をしている奴隷だった。
そして奴隷もそうだが街にはたくさんの兵士も溢れていた。
ローマがモデルになっているということもあって多くの兵士はよく映画に出てくるような板金鎧に赤いマント。そして鎧に覆われていない場所には赤い麻製の服で身を覆っていた。
といいつつも戦時ではないためか帯剣こそしているもののかぶとや盾などは持っていないようだ。
「よう兄ちゃん。兵士たちが気になるか?」
俺が兵士たちをジロジロと眺めていると市場のオヤジが露店から顔をのぞかせながら話しかけてきた。
「あんたみたいによそから来た人は気になるだろうよ。だが誰でもレギオン帝国兵になれるってもんでもないんだ」
「そ、そうなのか?」
俺は驚いてそのオヤジに聞き返す。
「あぁ、軍団兵どものほとんどは5000デナリ以上の資金を持っているレギオンの市民権を持つ国民だ。逆にその条件を満たす市民は兵役の義務がある」
「なんと……お金を持っていると兵士として徴収されるっていうのか?」
「あぁもちろんそうさ」
オヤジはそう答える。
「お金を持っているということは装備を買い揃えることができるっていうわけだからな。当然金がないから御免こうむるなんて言い訳も通用しない」
「装備を自分で買っているっていうわけか……」
なんとも機能的なシステムに俺は思わず感心してしまう。
「ただ遠征費用とかは国が出すんだがな。最近じゃ給料なんかも出るらしい。昔は無給だってんだから笑えるよな」
そういってオヤジは最後に「どうだ?ここで喋ったのもなにかの縁だし買っていかないか?」と話を販促で締めくくった。本当にゲーム中とは言え逞しい人達である。
「失礼、おじさん。私たちは品を売りに来たのですが」
っとここで俺の横からシーナが入ってきてそのオヤジに持ってきた品物を見せ、また俺や花が持っていた荷物の中身も見せた。
「うーんどれどれ……中身はおもに動物の毛皮に肉か」
「どれくらいで売れますか?」
「なかなかたくさんあるな。これだと……全部で2デナリってとこだな」
「こんないっぱい持ってきたのにたったの2デナリ!?」
「えぇー2デナリー!?」
これに対しシーナに加えて花までもが抗議する。
にしても、シーナはともかくとして花は一体2デナリというのがどれくらいの価値かわかって抗議しているのだろうか……。
「ちょっと安くないですか?もうちょっと払っていただかないと私たち今日宿に泊まれません」
「それはこちらの都合だろ?お嬢ちゃん。こっちも商売なんだから納得してもらわないとな」
「でもこんな安く買い叩かれたんじゃ納得できません……」
そう言ってシーナとそのオヤジの間で火花が散らせるていた時である。
「あぁお嬢ちゃんちょっといい?」
どこから現れたのか突如シーナの後ろからひとりの女性が声をかけてきた。
「はい?」
シーナが思わず振り返り、俺と花もその声の主の存在に気がついて着目する。
「えと、あなたは一体?」
俺が質問をするとそのよく海外の生殖者が切るような黒いローブを纏った女性はまるでその言葉を待っていたと言わんばかりに大仰に手を振りながら自己紹介を始める。
「私の名前はマダム・スミシー。どこにもいないようでどこにでもいる女」
「なるほど、スミシー……」
「ノンノン」
そう言ってそのスミシーと名乗る女性は顔の前で指を振る。
「マダム・スミシーよ?間違えないで」
「ま、マダム・スミシーさん……ですか」
その圧に押されて俺はつい敬語になってしまう。
そのマダム・スミシーという女性は女性にしては随分と大柄で、俺より少し低いくらいである。
推定だが俺の今の身長が190cmくらいだと思うのでその女性はおそらく180cmくらいかそれに近いほどの身長があると思われる。
顔つきはおそらく素の顔は非常にシンプルで素朴な顔なのであろう顔に厚化粧を施していた。
「それで?マダムか何か知らないけど一体何か用なの?」
先ほど市場のオヤジとのいざこざがあったからかわからないが、気が立っている花がやけに喧嘩腰にマダムに食ってかかかる。
がそのマダムは全くそれを意に介さない様子でむしろ逆に笑っている。
「まぁ、随分と威勢のいい女の子ね。私あなたみたいな子。嫌いじゃないわよ」
「むぅ……」
小馬鹿にされたような言葉に余計に花はイラつくが、それを宥めるように俺とシーナで花を落ち着かせる。
「まぁまぁ落ち着いて。これはあなたたちにとても悪い話じゃないはずだから」
そのように笑いながらいうそのマダムの言葉に俺たちは注意を向ける。
「私ならその品物を全部で10デナリで買えるんだけど。どう?」