# 014
「へぇーこのメガネでパラメータがねぇ」
ひとまず花のことを笑ってしまったことは素直に失礼だったなと思ったため俺は先ほどクリスからメガネをもらったことやメガネの能力についてひとしきり話した。
すると今度は花はメガネの方に興味がわいたようでしきりにメガネを見てくる。
どうでもいいがメガネは今も普通にかけているのでちょうど花がジロジロとメガネを見ていると花と目が合うような形になってコミュ障としては気まずい。
「それって自分は見れないの?」
「え?自分?」
「そう、自分の手とか体とか見たら数字が出てきたりすれば強くなったりしたのがすぐわかるでしょ?」
「うーんちょっとやってみるか……」
花に促されるままに俺は下を向く形で自分の手足に照準を合わせる。
そうすると確かに花の言うとおり数字が出てきた。おそらくこれが俺のパラメータなのだろう。
「おぉ、出てきた」
「マジで!?どんな感じ?」
「えぇっとなになに……?攻撃0、射撃1、防御1、回避3……」
あまりに絶望的な数字は思わず絶句し、花は爆笑する。
「ぶっははははは!なにそれ!!ちょっとほかにもパラメータあるんでしょ!?教えてよ」
「……言いたくない」
「ってか攻撃0って何!ほかのもAll1だしあたしのパラメータよりひどいじゃん受けるんですけど!!」
「……てか回避3ってなんだよこれ。なんでそこだけ3とかになってるんだよ。なんか逆に悔しいわ」
「あはははは、なんでだろうね!?あたしから奴隷だったときとかに私から蹴られたりしてたから?あぁーーもう無理。お腹痛い!!」
無礼なほどに、そして倒れ込んで笑い込む花に俺は何も言い返すことができう唇を噛み締める。
「くっそぉー……」
「だ、大丈夫ですよ聖さん」
っと、傷心の俺の背中にシーナが手を当てる。
「聖さんは確かに今はまだ戦闘技能は低いかもしれないけれどでもとても仲間思いの優しい方だって私知っていますから。だから今もこうやって集落にいれば安全なのに仲間を探しに行くために危険な森を冒険してるんですよね」
「し、シーナちゃん……」
バブ味という言葉を時々聞くがおそらく、いや間違いなく自分で実際に体験するのはこれが初めてだった。
あまりに優しいその言葉に俺はつい涙がこぼれ落ちてしまう。
それに花が慌てて、
「ししし、シーナちゃん!私も!私も仲間思いだよ!シーナちゃんを守るためなら命かけられるよ!」
そう言って花がシーナに抱きついて来たため、シーナが慌てて逃げる。
「ちょ、ちょっとまってシーナちゃん!」
「や、やめてください!聖さん助けてぇー!」
「ちょっと花ちゃん!先は長いんだから無駄な体力を消耗するようなことは……」
とシーナを追いかけるのに夢中な花の顔を掴んでなんとかシーナを救出することに成功する俺。このような調子で果たしてほかの鈴や馨を見つけ出せるのか。ますます不安になってくる。
不安といえばパラメータの件もそうだし、もしこの間の巨大熊よりも強い敵が来たらどうすればいいのだろうか……などと考えていた時である。
後ろからさらにその不安を煽る声が聞こえてくる。
「あぁもう無理~疲れて歩けない……」
と後ろから花の情けない声が聞こえてくる。
「嘘だろ?まだ半分も歩いてないぞ?」
「いやまぁそうなんだけどさぁ~。山道の20kmってきつすぎない?花もっと余裕って思ってたし~……」
「んまぁ……」
確かに俺も弱音を吐くほどではないにしても確かに思ったよりも体が疲れているという意味では花の言葉を強く否定できない自分がいる。
「ちょっと休憩しますか?」
っと、前の方を先導するように歩いていくれていたシーナが腰元に下げた鈴をチリンチリンと鳴らしながらわざわざ戻ってきてくれた。
そういえばシーナは常にこの鈴を腰から下げているがおそらく先ほどのベアードと呼んでいた巨大クマを寄せ付けないためだろう。
「いい?」
「歩き慣れていないとなかなか辛いと思います。このために水を持ってきましたし休憩しましょうか」
そういって笑いかけるシーナ。
本当にこの子は天使だなぁと思いながら俺は荷物の中から持ってきていた竹筒の水筒を
「はい、これ花ちゃんの分ねっと」
っと花に投げて渡し自分もごくごくと水筒の中の水をぐっと飲み干した。
いや飲み干すつもりはなかったのだが喉の渇きに任せて水を摂取していたらいつの間にか飲み干してしまったという方が正しい。それほど山道の旅はなかなか厳しいものだ。
休みがてら俺は次の街の情報でも聴くことにする。
「シーナちゃん、今から行く街ってどんな場所?」
「うーん、そうですねぇ」
シーナは少し考え込む。
「次の街はアインの街と言って隣のクルリタイ・ハン国と近いということもあって今みたいに戦時じゃなければクルリタイ人やレギオン人の両方で賑わう街です」
「へぇー……」
そういえば先ほどシーナの父親はクルリタイ・ハンとの戦いでなくなったとクリスが言っていたなと俺は思い出しつつ水筒を傾けたがもう水は一滴も出ない。
「アインの街はレギオンのクルリタイ・ハン国との最終防衛ラインと言われる難攻不落の街でとても大きいのが特徴ですね。もともとこの辺に作られた街のほとんどはそもそもレギオンの兵士さんたちが作った街が多かったので、たくさんの商人さんたちがここに集まっている兵士さんを目当てに商売をしようとして人口が増えたそうです。私も聞いた話なんですけど」
「そうなんだ」
ゲームの中とは言え商売人というのは逞しいものだなと思いつつ俺はでもしない水筒の水を飲もうと必死に傾けるのだった。