# 013
なんの変哲もないメガネだと思って思わずかけてみたそのめがね。
かけてその辺を見ても特に変わるところはないと思っていたが、そのメガネでクリスを見たときであった。
突如メガネに何かが映し出され俺はメガネを落としそうになった。
少し落ち着いてそれを眺めてみると何やらクリスの横に青い四角の線でいくつかの青い文字が囲ってあるようだ。
「なんだこれ……?攻撃23に射撃41?防御は15……」
「どうかなさいましたか?」
おそらくブツブツと小声で何かをつぶやいている俺を不審に思ったのであろうが、タンスの中にほかに使えるものがないかと探していたクリスが振り返ったので、俺は一回そのメガネを外してみることにする。
「クリスさん。このメガネは一体……?」
「あぁ、それですか。これがなかなか面白い代物でして。だいぶ以前のことですが普段ここらへんを通らない行商の一団が持っておりましてね。どこまで本当かどうかは知りませんが連中は遥か遠く、リベンから来たとか言っていて、んでこのメガネはなんでもリベン王朝では祭儀に使うものなんだとか。んで、これをかけると見ての通り相手の大体の強さなどがわかるということだそうです。なかなか狩りの時これが重宝するってんで息子が買ってきたのですが。まぁ私は果たしてどこまで本当なのやらと疑ってはいるのですが」
「それは確かに……興味深い一品ですね」
「もし興味があるのでしたら差し上げましょう。なんの役に立つかはわかりませんがね」
「え?いいんですか?」
「えぇもちろん。あいにく私もうこれ以上メガネをかけられませんから」
そう言ってクリスはふふっと笑いながら今まさにかけているレンズの厚いメガネを指差す。
「なんか本当に何から何まで……」
俺はそう言いながら大きい体を曲げてクリスに頭を下げることしかできなかった。
→ → → →
さて、着々と俺たちが準備をしているときである。
正直言うと量としては旅を始めるにしては色々と心もとない物資だが、地図によればここから一番近いところだと20kmほど歩いた場所に市場のある町があるという。
それくらいであれば頑張れば1日で歩ける距離だと思うしひとまずはそこまでの物資ということであればたくさんの食料品がいるというものでもないだろうという希望的観測だった。
「それと山道を歩くんだったら水!重いかもしれませんがこれも絶対に欠かしちゃいけませんよ?それから聖さん。あなたは武器を持っていないんですからこの短剣だけでも。あまりいいものじゃないですけどまぁないよりはましですし……」
「ありがとうねシーナちゃん」
シーナの厳しい荷物チェックも終えてひとまず荷物をまとめた俺と花。
というか俺たちが持ってきたものよりも持たされたものの方が多くなっている気がする。
というのも、向こうで売れるからとクリスやシーナが毛皮や動物の肉や、骨で作った加工品などをたくさん持たせてくれたのだ。なんとお礼を申し上げたらよいやら……という感じである。
「クリスさん本当にありがとうございました。シーナちゃんもいろいろ持たせてくれてありがとうね。本当になんとお礼を申し上げればいいやら」
「なんのなんの、聖さんたちの旅の無事を祈っておりますぞ。あぁ、その代わりと言ってはなんですが……」
っとここでクリスが少々横目で隣に立っていたシーナをチラ見しつつ頭を下げる。
「どうかここにいるシーナを連れて行ってはくださいませんか?」
「え?」
「え?」
俺とシーナが聞き返すのは同時だった。
もっとも、俺のえ?は純粋な驚き。そしてシーナのえ?は喜々として聞き返したといったほうが近い。
「おじいちゃん、いいの?」
「いいのもなにも……。お前がわしに隠れてこっそり荷物をまとめていたのがバレていないとでも思っておったのか?」
「……あ、バレてたの?」
なんともバツが悪そうな顔でそう聞き返すシーナに俺は苦笑いをした。
(こっそり付いてくるつもりだったのか……)
だが情けないのを承知で言わせてもらうと、はっきり言ってシーナが付いてきてもらうのは心強かった。なにせ俺と花は先ほど森のくまさんにさえも何もできず一方的に半殺しの目にあわされる始末だったのだ。
山のノウハウを知っているシーナがついてきてくれるのは非常に心強かった。
「私たちは構いませんよ。むしろ心強いくらいです」
「こ、心強い……」
と、俺の言ったことを目を輝かせながらオウム返しをするシーナ。
「心強い……心強い……」
「それはありがたい!どうかこの子に広い世界を見せてあげて下されば幸いです」
「おーい、早く行こうよー」
っとここでさっさと一人支度を終わらせて待っていた花が俺たちに呼びかける。
「えぇ、わかりました」
と、俺は答えつつちらっと先ほどの例のメガネをかけてシーナを見てみる。
(攻撃29、射撃は……67!?防御は12、耐久は10、回避35……)
なかなかハイスペックなキャラの加入に俺は心を躍らせる。
「ったく、早く行こうよー。まーだー?」
っともう待ちくたびれてしまったのかついに直談判にやってきた花。俺はその花の方もメガネで確認してみる。
(攻撃1、射撃1、防御2、耐久3、回避2……)
と出来の悪い通知表かというほどの素晴らしいほどのパラメータに俺はふふっと笑ってしまうが、花はそれが気に入らなかったみたいで、
「ちょっと、なによ人の顔を見るなり急に笑って」
と不機嫌そうに聞き返す。
「いや、別に……ふふっ」
「はぁー?なんか感じ悪ーい」
っと俺を殴ってくる花。
「おうふっ!」
痛みこそ感じないものの攻撃1の割に強烈なパンチに俺は思わずよろめく。
(結構強い?いや、俺のパラメータがそれ以上に低いだけか?)
と何故か冷静に判断してもう一度シーナの見事な高スペックを見る。
(これプレイヤーを集めるよりシーナみたいなNPCを集めていくほうが早いんじゃないのかなぁ……)