# 011
なんとも釈然としないシーナとの応酬をしていると、隣のドアががらっと音を立てて開いたかと思うと、なんとも顔色の悪い花が足を引きずりながら歩いてくる。
「ああぁー。いでぇ……」
「は、花ちゃん!」
「大丈夫でしたか?」
無事復帰した花に駆け寄る俺とシーナ。
「あぁ、聖か……。そうか、あの時みんな巨大グマにやられて……」
「何寝ぼけてるんだ。助かったんだよ。このこっちのシーナって子のおかげでな」
っと俺は何やらぼんやりしている花の注意を俺の隣にいるシーナに向けさせようとシーナの方を指し示す。
花は未だぼんやりした目で隣にいたシーナの方に目線をやるが、シーナを見た瞬間先程までのぼんやりとした表情の女性とは別人のように目を見開き、シーナに駆け寄る。
シーナはその花のあまりの勢いに一瞬とじさりするほどだ。
「な、何この子。小柄な体にそれに不釣合いなでっかい銃?それにこのモフモフの毛皮も。可愛い!」
「あ、あの、えっと、ありがとうございます?」
お礼を言うべきかよくわからない苦笑いした表情でシーナは少し照れながらそう答える。
「うわぁ声もすごく可愛いんですけど」
「ちょっと花ちゃん。初対面なのにそんな気安く……。これでもさっきあの巨大グマを追い払って俺たちを助けてくれたんだから」
「えぇ!この子が!?」
いちいち大声で今度は俺の方を向きながらそう騒ぎ立てる花。
少々うるさい。シーナも苦笑いをしている。
「すごいなぁこんな小さくて可愛いのに強いなんて。ちょっとごめんけどハグしていい?っていうかするね?」
「え?あの……」
もはやシーナが抵抗するのを待つこともなく勝手に花はシーナを固く抱きしめてすぅーと息を吸う。
シーナは激しく手足をじたばたさせながら抵抗するが花の力が強いのとまた体格の違いからかどうにも抜け出すことはできない。
花も小柄だがシーナはそれに輪をかけて小柄だった。
しばらく暴れていたがどうにも抜け出せないとわかると、涙目でこちらを見てくる。
「ひ、聖さん……。助けてくださいー……」
そのように半べそで頼まれては俺も見捨てることなどできずようやくの思いでシーナと花を引き離すのであった。
「ふぅ~満足」
と満足気な花と、小走りで俺の後ろに隠れるシーナ。
「ったく、怪我は大丈夫なの?」
「うん!さっきまでなんか意識がはっきりしない感じがしたけどシーナちゃんを抱きしめてたらなんか治っちゃった」
「……そうか、それは何より」
っと、俺は俺の後ろで非常に警戒しながら花を横目で見ながらこの話題は早く終わらせることにする。
というのも、実は俺は先程は奴隷商から逃げるのに必死で聞けなかったものの気になっていることがあったのだ。
「ところで花ちゃん。ちょっと聞きたいんだけど」
「ん?」
「いや、さっき俺が奴隷として捕まってたとき、俺のことをよく聖ってわかったよな?姿とかも全然元の姿と違うのになんでわかったんだ?」
「あぁ、それはね」
花はそう言って俺の左腕を掴みぐいっとねじ上げる。
突然のその行動に俺は思わず左手を中止するが、左手の手首に何やら見慣れないものがあって目を留める。
「え?なんだこれ」
よく見ると緑色の長い棒のようなもの手首と並行に描かれている。
だが、絵の具か何かで書かれているというよりまるで体の中に液晶があってそれが透けて見えているかのように映し出されているように見えるのだ。
そしてその横に小さく「HP:950/1000」と書かれている。
「HP……つまり体力ゲージ?」
「まぁ多分そうじゃない?私にも付いてるの。ほら!」
そう言って花も自分の左手首を見ると確かに俺のと同じ。いや俺のより少し長い緑色の棒のゲージが映し出されその横には「HP:1000/1000」となっていた。
「んでほかの人には付いてなかったからこれはプレイヤーにしかついてないのかなって。んで仲間の奴隷商とか奴隷をひとりひとり確認してたら聖についてて、んであとは所作とか動きとかが聖っぽいかなぁって」
なるほど、なかなかいきあたりばったりに行動しているようでこの花という女性は色々と考えているらしい。花が早く気づいてくれたのは非常に助かったと言える。
「ねぇねぇ、ちょっと一体何の話ですか?」
っとここで話には入れない様子のシーナがまたしてもむすくれた顔で俺の方を見ていたが、思わず俺はそのシーナの左手首を確認していた。
なるほど、確かにシーナの細い左手首には何も書かれていない。これはひとつの目印になりそうだ。
「いやいや、お互い再会できてよかったって話だよ」
「ふーん、そうなんですか?」
疑いの目でシーナはこちらを見る。
どうやらこの子はどうも仲間はずれにされるのが嫌いらしい。だがこういうと怒るかもしれないがあまり怒っていても怖くないのも特徴だ。
シーナがそのように不機嫌そうな顔をしているとそのシーナにまたしても花が抱きつく。
「大丈夫だよシーナちゃん。シーナちゃんを仲間はずれになんかしないから~」
「う、うわぁ!別にそんなんじゃ、やめ……。聖さん~助けてくださいー!」
っと、なんだかデジャブな風景を見つつ俺はため息をつくのであった。