# 010
「はい、これがここのあたりの地図です。すいません、世界地図はあいにくなくて。大体今はここのあたりにいます」
「ふむ……」
俺は地図に目を落とす。地図にはグランダ共和国、レギオン帝国、などのいくつかの国の名前が載っており、シーナはそのうちのレギオン帝国と書かれた領地の中にある一点を指さす。
「つまり今俺たちは、レギオン帝国っていう国の領内にいるわけか……」
「そうです、ここはレギオン帝国という国の中で首都のビチカンには皇帝が、レギオンには元老院議会があります」
「へぇ、皇帝と元老院は別別の場所にあるのか」
「はい、レギオン帝国はたくさんの奴隷で経済が成り立っている国なのでおそらく聖さんもその奴隷の移送の一環でここの山道に連れてこられたんだと思います」
シーナの説明に俺はみどりさんの説明を思い出す。
『パンゲラ大陸には数多くの国が存在します。日本をイメージして作られたリベン国。フランスをイメージして作られたグランダ国、ローマをイメージして作られたレギオン国……』
(そうか、ここはレギオン帝国。ローマをイメージして作られてるって言ってたし、皇帝や元老院やらがいるってわけか)
とひとりで勝手に合点がいったところだがまだどうしても知りたいことがある。
「スーデル国ってどこにあるかわかる?」
「スーデル国……ひょっとして結構前にクーデターが起こってとかっていうあのスーデル王国のことでしょうか?」
どうやらシーナも知ってるようである。
「スーデル王国はこの地図には載っていないですね」
「とすると遠いのかな?」
「はい、ここからですといくつかの国や地域を超えていかないといけないですね……」
「そうなのか……」
目的地が遠いということを知り俺は少々悲嘆に暮れる。そんな俺を見ながらシーナもまるで一緒に悩むかのように悲しそうな顔になるもので俺は申し訳なくなる。
「あぁ、ごめんね?なんか心配かけちゃってるね」
「い、いえ……、そんなことは」
シーナは慌てて両手を振って否定する。
きっと本当にいい子なんだろうなぁと思いつつ、努めて明るい表情を見せようとしていると、今度はシーナが尋ねてきた。
「聖さんのお仲間はあの花ちゃんだけですか?」
「いや、あと二人いるんだ。その二人も見つけなきゃいけない」
「仲間を見つけてからはどうするんですか?」
「それは……」
シーナにどこまで話してよいものか俺は悩むが、シーナは命の恩人でもある。
いっそのこと全てを話してしまってもいいかと決断する。
「実を言うと俺たちはスーデルの復権派で、先王ルークの血縁者を見つけ現王のカッタスの悪政を終わらせようとしているんだ」
「そ、そうなんですか?」
シーナは驚いて思わず目を丸くする。
「でもルーク王の血縁者はひとり残らず殺されたとも聞きました」
「いや、実は遺児がひとり。ジョン王子というんだけどいるんだ。俺たちはその方を王座に据えてカッタスの悪政に終止符を打つため旅をしているんだ」
「……でもおふたりはお仲間なのにどうして奴隷と奴隷商に?」
「んまぁそこはちょっといろいろあって……」
好奇心で目を輝かせながらそのように痛いところを突いてくるに俺は思わず口ごもる。
(っていうか確かにあの状況はおかしいよな。何がどうなって俺が奴隷で復権派の仲間であるはずの花にどやされてたんだよ)
と俺は少々不思議に思いながらも地図をまだじっと見ている。
「ところでスーデル王国っていうのはどっちなんだ?」
「スーデルはここからもっと西です。地図には載っていないけど……。手前にはグランダ共和国やカイザー連邦などがあります」
「東には?」
「東にはポリス帝国にクルリタイ・ハン国。さらにその先は……リベンという王朝があると聞いたことがありますけど……」
「ふぅむ」
どうやらこのゲーム世界が俺が思っている以上にかなり作りこまれているようだ。
今は亡き磯貝社長が誰も見たことのないVRゲームと銘打つだけのことはある。
「この広大な世界から仲間二人。それに王子も探し出さなければならないということか……」
「……あの、聖さん?」
地図とにらめっこする俺をシーナが呼び止めたかと思うと、彼女は突如その細い体で俺の太い腕に抱きついてきた。
「やっぱりその仲間と王子を探しに旅に出ないとダメ?もし聖さんがよければここにもうちょっといても大丈夫だよ?この家はどうせおじいちゃんと私しかいないしおじいちゃんもきっと快く許してくれると思う!だからその……」
っと、抱きつきはしたもののそこからどうしたらいいのかわからないのか戸惑うシーナ。
だが正直俺の方も抱きつかれたはいいもののどうすればいいのかわからないのでできれば彼女の方に何かアクションを起こして欲しいのだがそれも望むべくもないようなのでひとまず、震えた声で
「心配してくれてああありがとうねシーナちゃん。でも大丈夫だから」
っとそうお礼を述べつつ、シーナの体を俺の体から引き離す。
我ながら紳士的対応だったのではないかと思うのだが、何故かシーナは非常に不機嫌そうな鳶色の澄んだ瞳とむすくれた顔でこちらを睨みつけるのであった。