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庭師の女性たちは次の作業場へと移って行った。

サラは明るい日差しに照らされながらゆっくり本を読んでいると、急に頭上に影が差す。

何だろう?と視線を上げると、一人の男性がサラを見下ろしていた。

「やあ。勝手に入ってすまないね。美しい庭園に見とれていたら入り込んでしまったようだ」

青年は悪びれもせずに言う。

確かに生垣はあるが、城壁のような堅固なものは無く、彼が子供であれば言い訳も通じただろう。

しかし、分別のつく大人では苦しい言い訳であった。

「宿屋の主人の奥方だね?彼が仕舞い込む程の秘宝を眺めてみたかったのだよ」

許せ、と彼は言った。

サラは成る程と思った。

「ご挨拶もせず申し訳ありませんでした。妻のサラと申します。失礼でなければお名前を伺っても?」

サラは立ち上がり礼をする。

「そうだね、ジャンと呼ぶといい」

彼が名乗ると、聞き慣れた声が割って入った。

「ジャン様、不躾が過ぎます!自宅にまで上り込むなど!」

クロードが息を切らして近づいてきた。

「すまなかったね、クロード。同じ遠征軍時代の君の奥方を一目見たかったんだ」

クロードは三年前の遠征軍に参加した際の上官であるとジャンを紹介した。

「熱心に手紙を送る君の宝をいつか紹介すると約束したのに、君は会わせてくれないなんて酷いじゃないか。痺れを切らして来てしまったよ」

イタズラが成功した子供のようにジャンは笑った。

「一方的に取り付けたものは約束とは言えません。サラ、屋敷の中に入れ。今日は部屋から出ないで欲しい」

サラは頷きジャンに一礼した後、部屋に戻った。




その日の夕方だった。


慌てた下女が、サラの部屋に駆け込んで来た。









クロードは死んだように眠っていた。


クロードが寝かされた寝台。

二人で朝を迎える寝台にクロードが一人。

その横の椅子にサラは座している。

サラの肩にジャンが手を掛ける。

「本当に申し訳無かった……」

力無くジャンが謝罪する。

クロードはあの日の午後、ジャンとクロードの船で遊泳に出たという。

小さな船が風に煽られ、バランスを崩したジャンを庇ってクロードが船から落ちた。

すぐに助けられたが、クロードは意識が戻らない。

医者の話しによると、落ちた先の岩礁に頭を強くぶつけた事が原因だということだった。

水は吐き出し息をしているが、状態は良くなく、クロードは青白い顔で眠っているだけだった。

「私は今日帰らねばならない。また近いうちに足を運ぶ。最愛の夫君をこんな状態にしてしまった私には会いたくないだろうが」

サラは小さく、いえ、とだけ答えて目を伏せた。


クロードがーーー。

クロードが目を開けない。


いつもサラを満たしてくれるクロードが目覚めない。


サラが自失にも似た感情を抱いている中でも時は無情に過ぎた。


だが、サラの喪失感だけを抱く事を周囲は許してくれない。

サラは宿屋に関わる本来の仕事を義父から命じられ、慣れない仕事をする事になった。




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