4. 睡眠障害の原因
ちょっと短いです。分量調節ガン無視でいきますよー!
………避暑地はどこですか
「すさまじい魔力やね、ティナっ子」
「ティナっ子は嫌ですわ」
「やはり、なのか………」
日が沈み始めた頃、アルティナの部屋にて。
かかりつけの町医者マルゴが出した診断結果への反応はそれぞれ異なったものだった。
「こんな真っ赤な人見たのワシ初めてやよ」
マルゴは固有魔法の『魔眼』を持ち、魔力の流れを見ることができる。魔力は赤色に表されるらしく、彼女にしか見えないものだが、どうやらアルティナの体は真っ赤に染まっているらしい。
マルゴは発動時の瞳の色と同じく赤色の髪を持つ小柄な女性だが、口調とは異なりまだまだ若い。彼女の出身が地方らしくなまりが強いのだ。そんな彼女は興味深そうにアルティナの体をまじまじと見つめていたが―――お触りもしていた―――、真剣なまなざしを彼女に向けた。
「ティナっ子。ワシが思うにお前さんの睡眠障害はな、そのハイパーウルトラEX………、なんちゃらかんちゃらとかいうスキルのせいやわ」
「ほんとですの?」
訝しげに眉を顰める親子に、マルゴは確信を持って頷いた。
「そうや。そもそもそのスキルはお前さんが寝ている間にあらゆる物を成長させるものなんよ。それは魔力量やったり、おそらくは目にしたものやったら何でもいけるんやと思う。そして今までの7年間、お前さんのそのスキルは寝ている間に、魔力を蓄えるお前さんの『器』を成長させていった。魔法を使ったことがなかったから常にその器はいっぱいいっぱいで、それが体に負担をきかせたんよ。体は休息を欲し、睡眠をとろうとさせる。やけど睡眠はティナっ子にとって毒牙となっただけやった。これがワシの予想やな」
たいした間を開けず一気に話し終えたマルゴは、侍女が用意した紅茶に手を付けた。彼女の座る椅子が、体重移動によってきぃと軋んだ。沈黙が訪れた部屋に、その音だけが響いた。
「ティナが今まで唐突に意識を失っていたのはそれが原因で………?」
オーヴィンの声は震えていた。
「おそらくな。他の原因もあるかもしれんからまた調べてみるわ。………なんやオヴィっ子、そんな辛気臭い顔すんなや。魔法を使うようになったら今までみたいなことは減っていくやろ。それでも心配なら体力をつけさせぃ」
アルティナのステータスは魔力:17800 体力:180だ。あまりにアンバランスすぎるそれが均等になったら確かに負担も減るだろう。
いつのまにか立てられた訓練フラグに、アルティナは全魔力を足に集中させて逃げたくなる。
「まあ現状分かることはない!ぼちぼちやってけばええねん。ティナっ子、眠くないか?」
「今日はあまり。魔力測定の時に吸い取られたからですかね?」
マルゴは垂れ目がちな両目をさらに優しくさせて、アルティナの頭を撫でた。
―――なんだが今日はよく撫でられる日ですわね………
その小さくも暖かい手が気持ちよくて、アルティナは目を細めながらされるがままになった。何回か撫で、最後にポンと一回軽めに叩いてから、マルゴは頭から手を離した。そのまま足元に置いた鞄に手をかける。
「それじゃあワシは帰るわ!そや、オヴィっ子。禁忌魔法とはやるやないか」
「げっ。何で知っているんだ」
「魔眼持ちを舐めんな。ほな達者でな~」
意地悪な笑みをにやにやと浮かべ、手を振りながらマルゴは帰っていった。
扉が閉じた瞬間、残された二人の肩に疲労がどっと乗っかってきた。
「はぁ、全くあの人と会うのは疲れる」
「でもいつも楽しそうですよ?」
「目が悪くなったのか?」
オーヴィンの腕に抱えられたまま、アルティナは頭をなでなでしてやる。お疲れ様、とねぎらっているのだ。それにオーヴィンは嬉しそうに笑い、彼女の長くてふわふわした髪を一房とってキスをした。
「きゃーお父様のへんたいー」
「なんでだ!!」
じゃれあいながら夕食に向かう彼らを、使用人たちが暖かいまなざしで見守る。
こうしてドタバタあった魔力測定は終わったのだった。
そして誰もがこのまま今までのように穏やかな日々が続くと思っていた。
―――この時は、まだ。