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3. 魔力測定です!!

お腹壊しました。今年はまだかき氷食べてないのに………


 「わぁ………」


パーティーを行う大広間の中央に、3つの支柱に支えられた魔水晶(ラクリマ)。見る角度によって輝きが変わってみえるそれを初めてお目にかかるアルティナはきらきらと目を輝かせていた。

この魔水晶は魔力測定が出来る限られたものであるため、市場を出回ってはいない。そのためオーヴィンも見るのは久しぶりだが、確かに綺麗だと思う。


 「初めましてアルティナ嬢。私は第四魔法師団所属の魔法使いエドワードと申します。本日はアルティナ嬢の魔力測定に参りました」


魔法師団のローブを身に纏う青年。モノクル越しに見える瞳は知的な雰囲気を漂わせ、いかにも魔法使い、という感じだ。

地面に下ろされたアルティナは、オーヴィンを見ながら礼をとる。


 「それでは早速魔力測定をしたいのですが、その前にお嬢様は魔法のことを詳しくご存じですか?まずはそれについてとこの魔水晶の説明をしたいと思うのですが……」

 「忘れていると思うのでお願いします」


アルティナに伺う様子もなく即答するオーヴィンと、後ろで何度も頷くアルティナに愉快そうに笑いながらエドワードは話し出す。


 「魔法には4つの属性があります。火、水、風、地の4つであり、1人1つの属性を持ちます。まあ例外の方もいますけどね。そして上位互換と呼ばれる属性もあり、水なら氷、風は雷、地は天体といった感じです。これは修行して身に付ける人もいれば、初めから持っている人もいます。また世界で1人もしくはごく少数の方にしか発現していない属性を固有属性と呼びます」

 

 「お父様は水ですよね?」

 「水だけど、練習して氷も使えるようになったよ」

 

おー、と手を叩くアルティナにエドワードは微笑む。


 「はい。そして何故この魔力測定が行われるまで魔法を使ってはいけないのか。それは体がまだ負荷に耐えられないからです。魔力は生まれたときから持っていますが、魔法を使う負荷に耐えられず暴走してしまう可能性があります。そのため7歳になってから自分の属性を知り、それを使う勉強をしていくんですよ」


 「なるほどー」

 「分かっていただけましたか?」

 「大丈夫です!」


右手を高くあげて答えたアルティナの頭をオーヴィンが優しく撫でる。エドワードは一つ頷いて、


 「それでは魔力測定をします。掌で魔水晶に触れてください。魔水晶が属性を表す色になります。私のようなプロもいるので安心して触れてもらって大丈夫ですよ」


エドワードの言葉に頷いて、オーヴィンを見つめる。僅かに緊張がよぎるアルティナの瞳に、強く頷き返した。

覚悟を決め、深呼吸をしてから手をかざす。魔水晶の周りは不思議な磁場が発生しているようで、吸い込まれるように触れた。掌がじんわりと熱を持っていく。だんだんと強くなっていくそれは痺れに変わってきて、手を引っ込めようとした頃に魔水晶に変化が現れた。


 「これは水属性の色ですね。お父様と同じです。よかったですね………───え?」


あからさまに動揺しているエドワード。モノクルの奥の見開かれた瞳が驚愕に染まっていく。


 「?」

 「そんな、嘘だろ………。───全属性持ちだなんて」

 

 「───え……」

暫くの沈黙の後、オーヴィンからなんとか絞り出されたのはそれ。

一人だけ異常さに気づいていないアルティナは重さを増していく右手から全身へ熱が移っていく状況に苦しんでいた。


 「熱い………重い、です」

 「っ!お嬢様もういいですよ!」


腕を押さえて肩で息するアルティナをエドワードが驚きを隠せない様子で呆然と見つめている。


 「わたくしの属性は………?」

 「………4属性全てです。こんなこと初めて見ました」


固まっていた表情からだんだんと興奮で紅潮していくエドワードに対して、オーヴィンは険しい表情のままだった。


 「おとうさま………?」


暫く思考を巡らせていたオーヴィンは一度目を閉じてから、ゆっくりと瞳を開いた。


 「ティナ。ステータスを見てみろ」


『ステータス』それは自分にしか見れないもので、体力と魔力量、持っている人にはスキルが表示される。これも魔力測定によって解禁される。

父の意図が分からないが言われた通り開いてみる。心のなかで願うと目の前に自分にしか見えない透明な板が現れる。


 「体力や魔力量はどう表示されている?」


通常人のステータスを尋ねることはタブーだが、この時はエドワードも咎めなかった。


 「ええっと………体力180、魔力17800、ですわ」


まだ下に何か書かれているが、取り敢えず数値のところだけ読み上げた。言われた通りやったが反応がないため二人を伺うと、どちらも表情筋がひきつったまま仕事を放棄していた。


 「あのぅ………なんか言ってくださいまし………」

 「………技能(スキル)は?何か持っているか?」


鬼気迫る迫力に慌ててステータスを下にスクロールする。スキルと書かれた横の文字を読み上げる。


 「超学習能力(ハイパーウルトラEX版)睡眠時に発動………?ナニコレ」


見たことのない文字の羅列に首を傾げたアルティナに、またしても固まった二人の視線が突き刺さる。

あまりにも予想外の展開におろおろし始めたアルティナの肩を、鼻息荒くオーヴィンが掴む。


 「ひゃあ!」

 「いいかティナ!この事は絶対に誰にも言っては駄目だ!」

 「な、何かいけないことでも!?」


自身の興奮を押さえるようにオーヴィンは数回深呼吸する。


 「よく聞け。お前は異常だ」

 「んなっ!?」

 「魔力量がまずおかしい。17800だと?大賢者様と同じレベルだぞ。そしてそのスキルはなんだ?恐らくだがお前のその魔力量はスキルが関係しているのだろう。もしこの事が国にばれたら…………何をされるか!そのためにも───っ!」


首が折れるんじゃないかというスピードでエドワードへ振り返ったオーヴィンは、自分の薬指を産み出した小さな氷槍でかききり、飛び散った血を媒介に魔法術式を構築する。途中で何をされているか気づいたエドワードが顔色を真っ青に変えて止めにかかるが、遮った手より先に構築が完成する。血は深紅の鎖となりエドワードの体を這い、その首元に絡み付いた。


 「ぐっ……なに、を………」

 「すまないが他言はさせん」


どくん、と鎖が脈をうち、白い肌へと溶けるように消えた。

拘束を逃れたエドワードは、首元を押さえたまま膝から崩れる。アルティナは肩で荒い呼吸をする彼を、怯えた表情のまま目を離せないでいた。


 「何をしたかわかっておられますか伯爵様。あなたが私に構築したのは禁忌魔法ですよ」

 「え…」


禁忌魔法―――その名の通り悪しき歴史として封じられた魔法で、それを行使した者は重い罪、時には死刑が課せられる。

罰する側であるエドワードは構築した張本人であるオーヴィンを睨みつける。しかし眉一つ動かさない伯爵にため息をついた。彼に構築されたのは術者が許可していない行動を制限するタイプの禁忌魔法。先程オーヴィンは『アルティナの魔力及びスキルについて他言すること、術者に害のある行動を起こすこと』をエドワードに禁止させた。。抗えば首に絡みついた見えない鎖によって窒息する。

エドワードは一団員に過ぎないが魔術師団の端くれ。この魔法の恐ろしさは十分知っている。だからこそそれが構築できる伯爵の技量、そして娘の溺愛っぷりに呆れたのだ。


 「娘に害を及ぼさないと信用する根拠などないからな。多少手荒で悪いが構築させてもらった。それほどこの子がいかに規格外で強力か、貴殿なら分かるだろう」

 「えぇ。私がもし上に報告したら、お嬢様は平和には暮らせなくなるでしょう。伯爵様の行動は賢明ですよ。父としては」


国のためならば最愛の娘であろうと差し出す。それが貴族だとされるこの世界。生憎この国は完璧に平和なわけではない。数十年前までは戦争が続いていた。


貴族として失格の行為をした伯爵家当主オーヴィン・マークシャルルを紫紺色の切れ長の瞳で見つめ、エドワードは再びため息を、先ほどよりも長くついた。


 「まったく…どこまで親バカなんですか。私も貴族の出ですが、こんな貴族初めて会いましたよ。いいでしょう、禁忌魔法の拘束に従い、あなた様のご息女を危険にさらすようなことはしません。魔法使いたるもの、禁術だろうが見たいものは見たいんです。見せていただいたお礼に見逃して差し上げます」


禁忌魔法のことは知識として知っていたアルティナは父がどうなるのかひやひやと見守っていたが、どうやらうまくまとまったようでほっと息をついた。

しかし難を逃れたオーヴィンはにやりと意地の悪い笑みを浮かべて、


 「それだけじゃ足りんな。どうか娘に魔法を教えていただけないだろうか、エドワード殿?」


目の前で笑う男が、自分のことを少なからず知っていることに気づき、エドワードはその端正な顔を苦々しく歪ませた。


 「全く性格の悪い………いいでしょう。付き合いますよ」


一見和やかに見える微笑みの奥で火花がバチバチにぶつかり合っているのを察したアルティナは、ウサギの人形を抱えたまま静かに後ずさったのだった。



 

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