1. 嗚呼意識よ、さらば
書きたくなったので書き始めました。
最後までいけるか分からない見切り発車で駆け出しますが、どうぞご乗車下さい。
───夏ですね。毎日お昼寝してます。私もお花畑で眠りたい。というか開放的なところで寝たい。でもほどほどに涼しい場所がいい。あと、虫はいらないよ~
チューリップがその身いっぱいに風を受けて、のんびりと揺れているのが視界の隅に見える。
───ああ、いいなぁ。羨ましいなぁ。
先ほどまで目の前の男の子に向けられていた意識はすっかりそちらに向かい、アルティナは焦点がだんだんと遠くに合っていくのを感じた。
赤と白と黄色のチューリップがお互いを邪魔することなく自由に咲いている様子は、風に吹かれているのも相まって、まるで空を漂っているようだ。
男の子が何かアルティナに言っている。
しかし残酷なことに彼女には聞こえていない。かなーり真剣に話しかけているようだが、真剣すぎて無視されていることにも気づいていないようだった。
揺蕩うチューリップにあわせてアルティナの体がだんだんと左右に揺れだす。ドレスの裾が短く生えている草たちと擦れて、かさかさとたつ音すらアルティナの意識を蝕んでゆく。
かくんと膝の力が抜けて、視界いっぱいに青が広がり、やべ、と気の抜けた2文字がアルティナの頭に浮かんで最後───アルティナは幼く小さな体を地面に沈めた。
───ふわぁ~気持ちぃぃ………
抱き締めるように体を丸くする。遠のく意識の中、焦ったように自分の名前を呼ぶ複数の声と、手を握って体を揺すってくる感覚がした。
五月蝿いのも揺すられるのも別に平気だけど、ちょっぴり鬱陶しかったので、握ってくる手を両手で包み込むように握り返し、顔の横に寄せてすりすりする。どうやら動きが止まったので万々歳だ。アルティナは心地よい風と花の匂いと、誰かさんの左手を安眠材料にして、深いふかーい眠りの底へと沈んでいった。
マークシャルル伯爵家長女アルティナ。5歳の事である。




