7.危険はあなたのすぐ側に☆Side.真冬
Q.「ストーキングアイテムを見つけた場合、どうするのが正解ですか?」
「ただいまー」
おや、もう帰ってきましたか。
私はともかく、あの子の性格ならすでにクラス内で新しく友人を作り、結構遅く帰ってくると思っていたのですが。
「あれ、冬華だけ?」
「はい。お父さんとお母さんは今日は遅くなるらしいです。もしかしたら両方とも帰らないかもしれないので、夜ご飯は自分達だけで食べてくれと電話で言われました」
リビングのドアを開けて白雪が入ってきました。部屋の中を見て帰ってきているのが私だけなことに少し驚いたようです。
お父さんは仕事関係で、お母さんは知人のお見舞いで病院へ。帰ってくる時間は両方とも遅くなってしまうとすでに連絡が来ています。
お父さんは仕事の内容上、もしかしたら今日は帰れないかもとのこと。お母さんは面会時間ギリギリの21時手前まで病院に居て、帰りは体調を崩しがちな祖母の元へ寄り、場合によっては1泊してそのまま会社へ行くそうです。
つまり、今日はきょうだい3人で過ごすことになる可能性がありますね。
「クソ兄貴は?」
「......新しく出来た友達と少し遊んでから帰るそうですよ」
同じような事を考えたのか白雪が茜くんの事を聞いてきます。まぁ、隠すような事でもないですし、茜くんから来たLINEの内容通りに伝えれば充分でしょう。
「へぇ?あのシスコンに入学初日から友達が出来たんだ」
「はい。1人はなかなか器量の良い男子生徒でしたね。もう1人は......金髪ギャルで「は?」...す」
白雪が食い気味に私の言葉へ割り込んできました。まぁ、分からなくもないです。あの茜くんに『早速友達ができた!』と写真付きでLINEが送られて来た時は私も驚きましたから。しかも、1人は軽い印象が先走って目立ちますが、紛れもなく美少女でした。
「いやいや...え?マジ?」
「はい。ですが、別にお互い何かしらの気持ちがある訳では無いでしょう。問題は、もっと他にあります」
「ふーん...で、問題って?」
かなり動揺しているみたいですが、私からすればそこまで気にする事じゃないと思いますよ?少し情報収集をしましたが、彼女はおじ専?という趣味趣向らしいです。1つ懸念があるとすれば、男子生徒の方が男色であるぐらいですかね。
ですが、そんな金髪ギャルの趣味趣向や男子生徒の男色疑惑はどうでもいいのです。今は、第1級特異点の話をしなければいけません。
「柳 薫───ストーカーがこちらに戻ってきました」
「はぁ!?」
柳 薫。彼女が帰ってきたという事実をやはり白雪は知らなかったようです。まぁ、私も知らなかったのでそうだろうとは思っていましたが。
「これは由々しき事態です。しかも、少し話しただけですが、すでに茜くんの動向を把握しているらしい発言をしていました」
「あいつっ!」
あの女狐の正体を知っている人はそう多くありません。しかも、彼女がどれだけ恐ろしいか...その最奥を知っているのは私と白雪だけでしょう。
その一端、序章とでも言うべきは"なぜか茜くんの動向を全て知っている"という件です。
その事実を知っていて、危険性を理解している私と白雪は彼女を茜くんから全力で遠ざけようとしましたが、忌々しい事にあの女狐、人に取り入るのが異常に上手いのです。
クラスメイト、教師、地域の住人...そして私達の両親。
再三にわたって「柳 薫は茜くんにとって良くない存在だ」と皆に伝えましたが、「そんな訳ないだろう。あの子はとっても良い子だ」と一蹴されるのみでした。
そんな中、転機が訪れます。
そう、彼女の父親が理由の引越しです。
あの日はまさに天啓を得たりと言った感じで、無神論者だった私でも神の思し召しだと思った程でしたよ。神曰く、東雲 茜の近くに柳 薫は居るべきではない...とね。
あの日を境に茜くんの近辺から盗聴器、盗撮カメラ、GPS等のストーキングアイテムの根絶に初めて成功したのです。それまでは見つけて回収しても、またいつの間にか設置されていましたから。まぁ、茜くんは気がついていない様でしたけど。
だと言うのに、またあの女狐が帰ってきたのです。しかも、すでにどこかしらに機器が取り付けられているのでしょう。もしかしたら、今この瞬間も、私達の会話を聞いてほくそ笑んでいるのかもしれません。
取り敢えず、白雪と共有すべき情報は一旦この程度でしょうか?
......あぁ。忘れていました。あの事も、伝えなくてはいけませんね。
「あと、これは私にはあまり関係ないですが、白雪には伝えた方がいいと思いまして。あくまで白雪のためです。えぇ」
「...なに?」
これは、あくまで白雪のために言うのです。えぇ。
「茜くんと女狐が再会を果たした時、様子見のため最初は少し隠れていたんです。その時、彼女はこう言っていました
『あっくんの匂い、体温、柔らかさ。どれも抱き枕じゃ再現しきれなかった...本物は最高!』
と。そして、その後私と話している時に一言...
『白雪はあんなので我慢できるんだね。すごーい』
と言ったんです」
「っ!?」
白雪の顔から血の気がサァー...と引いていきます。真っ青を通り越して真っ白です。その理由がわかる上に、この話題の秘匿レベルを知っている私もきっと同じように顔を白くしているのでしょう。
「もう分かったかと思いますが、入手経路、入手方法、入手タイミング......その他確定的な情報が無く謎は多いですが、彼女は茜くんの匂いがついた私物...恐らく衣類等を手に入れている可能性があります」
あの女狐はストーキングだけでなく、盗難行為を行っている可能性が高い。というか確定でしょう。数年前にも「あれ、薫。そのパーカー俺が前に失くしたやつじゃね?」「え、違うよ。これは、私が、買ったんだよ。お揃いなんだ、偶然だね」なんて出来事がありましたから。
茜くんは騙されていましたが、私達は騙されません。既に、奴の侵略が始まっているのです。今後も以前のような事が多々起きるでしょう...ですが、私と白雪が協力すれば───っ!?
「あ、あば、あばばばばばばばば」
「お、落ち着いてください、白雪。ここはひっひっふー、ですよ」
まずいですね...白雪がショートしかけてます。
何故か?それは前述した通り、白雪に伝えた方がいい...白雪に関係がある話だからですよ。
「なんで...アレは、私だけのものなのに」
頭を抱えてうずくまると、ブツブツと喋り出します。
「まさか!?」
そして、何かに気がついたのか、勢いよくリビングを飛び出して2階の自室へと走って行きました。私も追って白雪の部屋に入ります。
「無い...無い、なんで無いの!?」
「やはり、女狐がいつの間にかこの家に入り込んでいましたか。恐らく、お父さんとお母さんに再会の挨拶でもしたのでしょう。私達には学校で直接会ってから話したいとでも言えば隠せますし」
クローゼットの右下にあるダンボールの中、ベット下の収納スペースの隅、テレビの裏、勉強机の二重底。その後も数々の隠し場所を白雪は全部調べていきました。
ですが、目当てのものは見つからなかったのでしょう。
「で、盗られたのはなんですか?」
私は聞きます。聞かなくてはいけません。柳 薫が今後取ってくるであろう行動を少しでも先読みしなくてはいけないのだから。手に入る情報は全て手に入れ、役立てます。絶対に、あの女狐を茜くんには近づけさせません。
「うえ...うぇぇぇぇん...あかねおにいちゃんの使用済みワイシャツNO.1からNO.7が無いよぉ...」
「......由々しき事態です」
......あれ、白雪もちょっと危険性があるのでは?
A.真冬&白雪「回収して廃棄してやる!!茜くんの部屋から...1つ残らず!!」