5.The Love Comedy Is Sudden(Death Match)☆
Q.あなたの命に関わる修羅場とは?
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そして、ラブコメは始まる
「これらの資料は保健室からのプリントで、しばらく先の事ですが健康診断について書かれています。保護者の方に見せた後、自宅で保管しておいて下さい。授業日程はしばらく変則的なので最初の1週間はとりあえずこの日程表を確認して行動して、裏面に校内の地図があるので迷ったら参考に。明日からは昼食があるので持参するか購買で買うかを考えておいてくださいね」
今は自己紹介も無事に終了し、湯上先生が要点を話しながら書類配布を行っているところだ。
入学初日ということもありかなりプリントが嵩張る。特に保健室から来ている書類は何枚もあって難しいことが沢山書かれていた。
昼食は俺がお弁当を3人分作るからあまり関係の無い話だが、1度くらいは学食クオリティのご飯を食べてみるのも悪くない気がする。どこかのタイミングで立ち寄ってみよう。
......久しぶりに生春巻きと揚げ春巻き食べたいなぁ。
「湯上先生、1組~4組の案内が終わりました。次は5~8組なのでそろそろ準備をお願いします」
昼食の事を考えていたのもあって今日の晩御飯のおかずを何にするか悩んでいたら、別クラスの女教師が湯上先生に校内案内の順番が巡ってきた事をを知らせに来た。
「あ、はい。皆さん、校内の案内と簡単な説明をしますから名前の順で着いてきてください」
ガタガタと席を立つ音がクラスに響き渡り、ぞろぞろと扉から皆が廊下へと出て湯上先生の後ろを着いて回る。
最初に紹介する教室はそんなに離れてないらしい。
「ここが視聴覚室です。授業内容によっては映像作品の視聴をする事があったり、プロジェクターを使った方が説明しやすい場合もあります。そんな時に使用する教室ですので頻度は多くありませんが覚えておいてください。あ、この教室の角にある小部屋が放送室になっているので放送委員の人は使うことが多いかもしれませんね...それに、小さいですが各クラスにもモニターがありす。文化部が自主製作した映像をここから流すこともあるみたいですよ」
ほう?
つまり、放送委員で文化部になればこの放送室を使ってふゆちゃんとゆきちゃんの可愛いところを放送できると。ホームビデオを焼き増ししておこうかな...いや、有象無象に見せることもない。惚れられたら困るしな。
と、そんなことを真剣に考えていると───
「あっくぅーーん!」
「げほぁっ!?」
痛い痛い痛い!!
背中に何かが突っ込んできてその反動により首が嫌な音を鳴らし、直接的に重さを受けた腰がガクガクと震える。なにか一瞬聞こえた気がしたが今はそれどころじゃない。
声にならない絶叫が掠れた息を吐き出す音に変わる。それでも、背中にある質量はまだそこに居た。
「...っ、.........っ!?」
「はぁ...はぁ...あっくんの匂い、体温、柔らかさ。どれも抱き枕じゃ再現しきれなかった...本物は最高!」
首と腰の痛みに震えていると耳元で艶っぽい吐息と首元ですんすんと匂いを嗅ぐ音がし、後ろから抱きしめられる。
「......か、薫か!?」
「えへへ、久しぶりだね。あっくん!学校を案内してもらってたら見つけたから来ちゃった!」
「どゆこと!?」
吹き飛びそうになる意識が何とか平静を取り戻したので振り返ると、居るはずがない幼馴染...柳 薫が俺の肩に顎をのせてこちらを笑顔で見つめていた。
どうやら、俺のクラスと同じように校内を案内してもらっている途中で俺を見つけ、いてもたってもいられず突っ込んできたらしい。
肩越しに振り返った俺と薫の顔がほとんどの隙間を作ることなく近づく。数年前に離れ離れになった時から比べて随分大人っぽく、それでいて可愛らしくなっていた。彼女の携える微笑みはどこか色っぽさも感じてしまう。
昔は彼女にここまでドキドキすることはなかったが、今は背中に昔より大きくなったであろう2つの膨らみも感じている。年頃の男子高校生としては幼馴染と言え意識しないのは無理な話だった。
それでも、まるで普通である様子を装って薫にそもそもの疑問をぶつける。
「てか、おまっ、なんでこの学校に?亮太郎さんの仕事関係で中学の時に引っ越したじゃないか」
「今年からこっちでマンションの部屋を借りて仕送りを貰いつつ一人暮らしすることになったんだ。ほんと、お父さんもたまには役に立つよね。私とあっくんの仲を切り裂きやがったからいつか同じ会社に入って上の立場になったらコキ使ってやろうと思ってたけど今回の一人暮らしで許してあげたんだ」
「そ、そうか...まぁ、仲良くしろよな?」
「うん!.........ちっ、あっくんに免じて許してやるか」
「なんか言ったか?」
「ううん、何も!」
そうか、薫は親元を離れてこっちで一人暮らしをすることにしたのか。彼女が父親である亮太郎さんの都合で引っ越すまではずっとお隣さんだった。
懐かしさや寂しさを感じていてくれたのかもしれない。前々からスキンシップが激しいとは思っていたが、今回は昔の比じゃなかったからな。俺もふゆちゃんとゆきちゃん以外では一番大好きな人だったから当時はそれなりにへこんだ。それこそ家族のように思っていた。ほぼきょうだいみたいなものだ。
でも、今年からは一緒の学校に通える。
正直かなり嬉しい。この数年で聞きたい事、話したい事がたくさんできた。放課後は家に薫を招いて昔話でもしよう。
「ふふ。あ、ちなみに私は8組だからいつでも来ていい......ちっ、結構早かったな」
何かに気がついた薫が話を止めて悪態をつく。
「茜くん、何を、しているのですか?」
「ひっ...ふ、ふゆちゃん」
底冷えするような、殺気と怒気を孕んだ声が後ろから聞えてくる。それは俺の3つ子の姉、冬華だった。
えっと、なんでそんな怒って...?てか、怖いな!?目力が凄い、その視線だけで射殺されそうなほど鋭く険しい。
ふゆちゃんは数秒俺の事をその目で見つめると、すっと俺の後ろに視線をずらした。
「柳さん、お久しぶりですね。こちらの学校に通うことにしたのですか」
さっきまでの殺意が嘘のようになりを潜め、とても穏やかな雰囲気で薫へと質問をする。ふゆちゃんは薫がここにいる事情を多少でも知っているのだろうか?
昔はウマが合わないのかそこまで仲が良かった記憶はないんだけども、今のふゆちゃんを見る限りはもうそんなことないらしい。
「は?なんでそんな喋り方してんの?あっくんの前だからって猫かぶってんじゃねぇよ」
「あ?」
がっつり仲悪かった。
こっわ、まさに一触即発。心なしかここらへんの温度が酷く寒くなった気がする。
「......」
「あ」
こちらの様子を怪訝な表情で伺う湯上先生が居た。
そうだ、今は校内の案内中。俺達の...というかふゆちゃんと薫の喧嘩で予定が滞るのも不味いだろう。さぁ、先生!2人の仲裁を!俺に加勢をっ!!
助けてっ!!
俺は必死にアイコンタクトで救援要請を送る。
「............こっちが保健室で──」
湯上先生っ!?
なぜっ!?ねぇ、助けてっ!?
湯上先生は何かを悟ったよに手をぽんと叩くと俺を見捨てて先に進んで行ってしまった。クラスメイト達はやばいものでも見るよな目で俺達を一瞥すると、先生に続いて歩いて行ってしまう。
くっ...何故かは分からないが、最後の頼みは...光輝!!
「...」
あいつは俺に視線すら向けなかった。冷や汗が頬を伝っているので気がついていないわけではないらしい。あいつ、関わらない方がいいだろうと俺を見捨てやがった。後でコロス。
俺の救援要請が却下されている中、横では...
「あは。冬華、ボコボコにしてあげる。もう昔みたいにはさせない。あっくんは私だけのもので私はあっくんだけのもの。あっくんの考えていることは全部わかるしあっくんの全部を私は認めて受け入れてあげるの。だからさ、いい加減邪魔すんなよ。私あっくんと別クラスになってすでに結構キてるんだよね」
「ストーカー行為を平然と行う女狐が調子に乗らないでください。バラバラにしますよ?茜くんは私のです」
ストーカー行為って何...?詳しく聞きたいけど聞いたら戻れない気がする。今分かるのは俺が理由でふゆちゃんと薫が言い合っているということだけ。
取り敢えず、ここは古来から伝わる様式美を言わせてもらおう。
「2人とも、俺の事で争わないで!」
「「茜くんは黙っていてください」」
げぼぉあ。
A.茜「姉と幼馴染が俺を争って喧嘩(尚、理由は不明)」
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ほら、ね?ちゃんとラブコメ始まりましたよ?
えぇ、ラブコメです。誰がなんと言おうとラブコメです。