11.俺達の世界を巡る聖戦☆
Q.「世界の平和が侵されていたら、あなたはどうしますか?」
「よし、さっそくやってみようか!順番はー...うん、私から時計回りにしよう。で、最初は出た目に合わせて職業が決まるからね。じゃ、いくよー」
廊下からは授業が終わったことを喜ぶ生徒達の声が聞こえ、窓の外からは部活動に勤しむ生徒達の声が聞こえ始めた頃。FLGをノノから順番で始めることが決まり、元気よくサイコロがふらる。
コロコロと数回転して止まったサイコロは真っ赤な点が見事に真上となった。
出た目は1。
「おぅ...職業は、勇者!はいキタ!勝ち組決定〜」
どうやらノノの職業は勇者になったらしい。職業カードというものの中から勇者のカードを手に取っている。
おぉ、カードのデザインかっけぇ。
「次は私ですか...では」
ふゆちゃんがノノからサイコロを受け取り、真剣な眼差しでサイコロをふる。
出た目は6。
1つ前のノノとは正反対の最高数が出た。
「ふふ、幸先が良いですね。職業は...冒険者ギルド受付嬢ですか」
出た目が1番大きい6だったことに少し嬉しそうなふゆちゃん。職業は冒険者ギルドの受付嬢ということでカードには可愛らしい女性のイラストが描かれている。
「次は俺だな。龍堂寺が勇者、冬華ちゃんが受付嬢。なら、俺は...っ!」
そして順番が回ってきた光輝がすごい勢いでサイコロを転がした。何度か跳ねてそのまま幾度も転がり、机から落ちるギリギリのところでやっと止まる。
出た目は3。
くふっ...あれだけ息んで3、良くも悪くもないど真ん中の3!まさに安牌。光輝、お前は3が良く似合ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!
痛っ!コイツ、俺の視線だけで何考えてるか分かったのか!俺の小指を踏みやがって...まぁいいや、で、職業はなんだ?
「...」
「どうした、光輝?」
職業確認した瞬間絶望したかの様な表情になったが、どうしたんだろう。
ノノも不思議がって身を乗り出し、職業の確認をする。
「えっとー...ぶふ!村人Aの友達の従兄弟ってなに!ふふ、ふふふ。あー、お腹痛い」
「なんだよ村人Aの友達の従兄弟って!?遠い、遠いわ!もはや誰だよ!モブ以下じゃねぇか!」
村人Aの友達の従兄弟とか...ぶははは!
やべぇ、めっちゃ面白い。それもう登場人物じゃないだろっ!
「く、くふっ...つ、次は私がやり...ぶはっ」
「白雪ちゃん!?なんで笑うかなぁ!」
「は?笑ってないし。気安く話しかけないで」
「んー、この」
ふふ、ゆきちゃんもツボってるの笑いを堪えてるけど、堪えきれずに吹き出してる。
しかも光輝はボロクソに言われるし...哀れなりモブ以下よ。
そしてゆきちゃんの出た目は5。
「職業はチンピラ...は?このゲームナメてんの?」
「ぴったりじゃないか」
「安達とか言ったっけ?死ぬ?もぐぞ」
「ねぇ、俺にだけあたり強くない?」
「クソ兄貴よりはマシだ」
「それは本当に嬉しい」
「光輝死ね」
は?なんか光輝とゆきちゃん仲良くない?え?え?なんで?
んー?おい、目を逸らすなモブ以下よ。
「次は私か。あっくん、見ててね。私、あっくんのお嫁さんになってみせるから」
「そもそもそんな職業あるのか?」
「出目の2に人妻ってキャラならあるからニアピンでは?」
「あるのかよ」
はいはい、見てますよーと適当に相槌を打ってサイコロを早くふれと促す。
薫の出た目は2。
「やったぁぁぁぁ!本当に人妻キターー!」
「おぉ...すげぇな」
「ん...?ちょっと待って。なんか小さくかっこで何か書いてある」
人妻(未亡人)
「あっくん...死んじゃってても愛してるからね」
「勝手に殺すなよ」
なんか妙に堂に入ってるんだよなぁ。なんでか。
「ハッハッハ。満を持して俺の番だな」
ついに俺の出番が来た。
このゲームは役職被りもあるらしいから狙い目は1の勇者である。絶対になっちゃいけなちのは村人Aの友達の従兄弟で、次点でチンピラかな?そういやまだ出目の5が出てないが...まぁ、なるようになるか。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!」
掛け声とともに勢いよく転がるサイコロ。力を込めすぎて机から落ち、床の上で止まったサイコロの目は5だった。
おぉ、見事に全員違う数字が出たな。これはこれでかなり凄いんじゃないか?
よしよし、じゃあ職業の確認を...えっとー、これか。......ん?
『職業:草』
は?
「......」
「さすがクソ兄貴、今日だけは期待通り越しすぎて尊敬するわ」
「茜くんの雑草魂が見事に反映されてますね」
「ちょ...さすがに面白すぎるっしょ」
「草と結婚した私って実は私も草なんじゃ?」
「ほんま草。村人Aの友達の従兄弟より不遇で草」
......。草の上位職業とかあったら森なのかな。
俺はそんな意味不明な事を本気で考えていた。
いや、そもそも草って職業じゃなくないか??
そうやって全員の職業(?)が決まり、ノノの進行で全員が日常の仮面を取り払われ、もう1人の自分になったつもりてゲームが終着点を目指して動き出す。
☆★☆
「な、なんだよこれ...」
「くそ!ふざけんな、どういう事だよクソ兄貴!」
「俺に言われても」
「「このゲーム...」」
「「胸熱展開すぎる...!」」
いや、だってどう考えても胸熱だろう。
世界を救うはずの勇者ノノが実は魔王軍と繋がっていて世界の半分を貰う代わりに魔王軍の侵攻を見て見ぬふりをする。
ある日それにたまたま気がついてしまった受付嬢冬華。後暗い真実が世に出回らないようその命を奪おうと躍起になる勇者ノノ、それを止めて受付嬢冬華を助け出したのが普段は素行の悪い冒険者ギルドでも嫌われていたチンピラの白雪。
命からがら逃げることには成功したが重症を負った2人を助けたのが、生計を立てるために薬草採取を山の中で行っていた人妻(未亡人)の薫だった。
そして無事に傷も癒え、これからどうするかを相談する受付嬢冬華とチンピラ白雪、どう考えても勝算は望み薄で、このまま辺境の田舎で人妻(未亡人)の薫と共に薬草採取で日々を過ごそうかと考えていた所、草の亜人であるグラスマン茜に遭遇。
彼は種族と職業が草という訳の分からない肩書きのせいで故郷を追われ、終わりのない絶望の中で自らの真の力に気がついた最強の草だったのだ。
グラスマン茜の力は植物などを自由に操るという異能、"自然"。彼のその力を借りて受付嬢冬華とチンピラ白雪は魔王軍の撃退を始める。
何者の攻撃をも通さない世界樹の盾、全ての護りを貫く黄金樹の槍。それは魔王軍の力にも匹敵する強力な武器となった。
しかし、そう上手く話が進むはずもなく、途中で現れた魔王軍幹部によって戦いは膠着、次第に劣勢へと変わっていく。
「くっ...俺達は、ここまでなのかっ!」
誰もがそう思い諦めた時、1人の青年が突如3人の前に現れた。埃の舞う薄暗い廃屋で身を寄せあっていたまさにその時である。
「まだ...まだ、諦めないでください!真の勇者、グラスマン茜様!あなたは自然そのもの...ならば、自然は植物だけではありません!」
そう。村人Aの友達の従兄弟、光輝だ。
彼のその言葉にひらめきを得た茜達は1度後退を余儀なくされるものの、試行錯誤の結果グラスマン茜の異能、"自然"は"自然理論"へと進化を遂げた。
その異能はただ植物をあやるつなんていう能力から大きく変わり、永遠の時間も、あらゆる存在も、有形無形問わない全ての概念をも操作する超絶能力。
その力を惜しみなく使い魔王軍幹部達を次々と撃破、ついに辿り着いた魔王と勇者ノノとの最終決戦。
全ての力を解放して戦う3人。しかし最強の能力を持ってしても再び状況は膠着。その理由はグラスマン茜の事象を操ると言っていい能力と対になる力、"過去改変"を持っている勇者ノノのせいだった。
お互いがお互いの事象を捻じ曲げ、それでもなお拮抗し、全てが正しく全てが普遍でその全てが歪である未来が紡がれる。
その戦いは終わることなく三日三晩続いた。
そして、そこでタイミングよく起こるのがサブキャラ達のパワーアップイベント。
受付嬢冬華の能力は仕事で重宝していた"記憶"。
今まではちょっと人より記憶力がすごい程度の力で受付嬢という仕事をサポートしているだけだったが、実は彼女、元Sランク冒険者であった事が回想シーンで判明し、その後に能力の進化が起きた。
"記憶"の進化先は"記憶者"。全ての出来事を『こうである』と認識し固定する能力で、勇者ノノの"過去改変"を無効化する。
さらにチンピラである白雪の能力、"自己中"が"天上天下唯我独尊"に進化を遂げた。その力は軍神に至る程に苛烈で勇猛。
"自然理論"に加え"過去改変"の無効化と圧倒的戦闘能力を前に、魔王と勇者ノノはついに討たれる。
そして世界にもたらされる平和。
英雄受付嬢冬華と英雄チンピラ白雪は籍を共にし、数年後に産まれる一人娘と3人で末永く幸せに暮らした。
英雄グラスマン茜はその勇姿を称えられて王国王女と婚約し、無事に結婚。3人の子宝に恵まれてその後は国王に。晩年の最期までその力を発揮し世界を泰平の世へ導いたという。
そしてお互いがお互い、英雄達の手助けをしたことがきっかけで知り合った人妻(未亡人)の薫と村人Aの友達の従兄弟である光輝は、少しずつ自分達のことを知っていき、お互いの心の溝を埋めるようにして結ばれた。
おしまい。
「いやぁ...ただの俺TUEEEE冒険譚になるかと思ったら壮大な話になって面白かった」
「ですね。私もまさか白雪と結婚することになるとは思いませんでした」
「ほんとそれ。てか、クソ兄貴が草人間とか訳分からない種族なくせに強すぎて草通り越して森だった」
「分かるわ〜。いやね、まさか勇者が敵でグラスマンが真の勇者かよ!ってなった時はそれはそれで燃えたけど、草が超強化されるなら村人Aの友達の従兄弟である俺も超強化されるべきでは?」
「なんで、わたしが、あっくんいがいと、けっこん、しなくちゃいけない、の...?」
「まぁまぁ、かおるっち。ゲームだから、ゲーム!」
陽が傾き赤みを帯びた光が窓の外から教室を照らす。
「あ、そろそろ下校時間だね」
「んじゃ、帰るか」
「明日はこれのVer.2の方やろうねー!」
「Ver.2とかあるの!?」
「5まであるよー」
「大ヒットかよ」
そして全員が席を立ち、教室の鍵を閉めて学校を後にした。
いやぁ...結構楽しかったな。
『くっくっく...我がこのままで終わると思うなよ。我の能力"並行世界之王"があればっ!』
「ん?ふゆちゃん、ゆきちゃん。何か言った?」
「何も言ってないですよ?」
「言ってねぇーよ」
あれ?
...気のせいか。今日の晩御飯なんだろうなー。
A.茜「チート能力オンパレードからの良いタイミングでOP曲流してクライマックス案件に持ち込む」




