一幕 始まりの村 五話「論点整理」
ご覧頂き、ありがとうございます。そろそろ一幕の佳境に入る、つもりです。
まつ毛長いなぁ。肌も真っ白でプル艶。ちょっと尖った耳もカッコいい。綺麗な男……ん? 男じゃないのか。綺麗な竜? まぁいいや、なんでも。
目が覚めたら、抱き枕にされてた。
久し振りだ。前回こんな状態で起きたのは新年の朝か。宴会の後で師匠が酔っ払って帰って来て。酒臭いし、翌朝は離して貰えず朝飯に遅れてベスタ婆に怒られるし、散々だったんだ。
朝飯には遅れないようにしなきゃ。イアリロなら、起きてくれるだろう。
緑色のドラゴンか。どれくらいの大きさなんだろう。空も飛べるのかなぁ。いつ見せてくれるかな。
俺はまだ、変身? は、できなさそうだけど。なんか、ワクワクしてきた!
肌寒い朝を、抱きしめられた温もりの中でのんびり過ごした。
朝飯を支度する気配がしてきて声をかけたら、ゆっくり目を開けて微笑んでくれた。
動けなくなったくらい、綺麗な笑顔だった。
ベスタ婆は師匠の所で寝たんだな。
あくびしながら出てきたところに挨拶したら、真っ赤な顔でどもってた。
いや、大人(年齢は聞いてないや)なんだから別に……。
リュダ婆、ニヤニヤしないであげてよ。
明日は秋分、収穫祭だ。なんかバタバタしてて、それどころじゃなくなってたけど、俺の成人祝いでもある。
毎年祝って貰うのが照れ臭くて、ちょっと気兼ねだったけど、今年はちゃんとこたえてお礼を言わなきゃな。
前世の成人式は行こうとも思わず、同窓会にだけ参加したら、中学の担任がスピーチしてた。
「人生は節を作った方が強くなる。竹の様にな。節目を大切にしろ」今なら、ちょっと分かる気がする。
自分を見つめたり、区切りをつける機会がある方がいいって事なのかな。
祭の前でも俺は特に支度もないし、いつも通りイアリロの傍に居た。
村長が書き物用の皮と筆(ただの削った枝)、墨を持ってきた。
「昨夜纏めてた情報を書いてくれ。報告書の書き方はイアリロに聞け」
情報、纏めてた? イアリロを見るとにっこりするから、頷いておいた。
文字は覚えたけど、何せ書く機会がないから自信がない。イアリロに言われる通りに、綴りを確認しながら、何とか書いた。
リュダ婆が予知夢を見た事になった。
登場人物は
「主人公と戦士だね」ウェルク王子と東の国の戦士が出合う。
東の国への魔物の襲来は、
「冬から初春、深い森から。熊、狼、猿、猪、鷲、鬼型の魔物に警戒。火の系統の魔術師がいる恐れもある」
東の国が滅亡した後は、
「まだ雪の残るアングレサイトの国境の砦へ、狭道から魔物達が雪崩れ込む。晴れた昼過ぎは特に注意しろ」
魔物に有効とみられる対策は、
「革鎧だけでなく、急所は金属で保護する。槍は折れるのを前提に、数が要る。魔物は種類が多く機動力がある。山岳地帯だから重装兵・重い盾は使えない。軽装歩兵や移動・伝令用の馬が必要。投擲や弓は発見時の他は当たらないだろう。反対に剣や刀が有効、混戦時の対策で短剣等があれば尚いい」
防衛準備としては、
「戦闘準備ができない規模の集落は諦めろ。住民に越冬準備を整えさせて、早目に拠点に集めた方がいい。小規模での派兵は無駄だ。今年の貢納は控えさせて、備蓄を優先しろ。配給の手がかかるだけだ」
注意点は
「水魔法は複数箇所では使えない。火魔術の対策が急務だ。重要拠点の難燃化と、緊急時の消火準備を」
凄いな、昨日聞かれた事を考察したら、こうなるんだ。
「最後に、万が一これが陥計であった場合、他の方角から大規模な襲撃があるだろう。騎馬民族や、北・南からの動きにも注意が必要だ」
一瞬、目の前が真っ暗になったが、何とか書き終えた。
「怒ってるかい?」吸い込まれそうな瞳。強い青緑、碧っていうんだったかな。
「何に?」ちょっと驚いた。
「私に。信じて貰えないのかと」見つめる、ってこういう事なんだなぁ。
「信じる、とかじゃないでしょう。大勢の人の命がかかってるんだし。罠かもしれないって、考えてもみなかったことに驚いて、落ち込んでます」
見つめられたまま腕を引かれ、そのままベッドに座った膝の上に、横向きで載せられる。足、痛くないかな……?
「オネイロスの門というのがあるんだ。神々は二つの門のどちらかを通して夢を送る。片方は真実、片方は虚偽だ。予知夢を見た場合、夢占いでどちらを通って来た夢かを判別する」
理解したか確認するように見られ、頷いた。
「君の記憶が夢に相当するのかは分からないけど、眠る白虎を通じて夢が送られたと考える事もできるね。リュダの夢見だと報告するのは、妄信せずに裏を取れ、という意味でもある」
顎を掬われる。いつの間に、俯いていたんだろう。これが顎クイなんだろうか、とバカな事を考えてる。
「私達の行動には、確かに多くの命がかかっている。だけど、私達にも感情があるよね。自分が真実だと感じて、他者の為にと真剣に考えているのに、それを真実かは分からないと言われたんだ。怒りを感じるのは当たり前の事だよ」
顎の指は軽く添えただけなのに、外せない。
「君は、私に怒っていい」
この竜は、優し過ぎる。
涙が溢れてるのが分かるけど、隠す気にも止める気にもならなかった。
ゆっくり抱き締められ、硬いけど温かな胸元に額を押し当てて、まだ言えていない事も思い返して、泣いた。
優しく髪を撫でられているのを感じた。
「可愛いよね」
「子虎ってより、子猫だわ」……子虎? 子猫?
ふと気付くと、ベッドで横になっていた。
寝ちゃったのか。昨日もいつの間にか眠ってたし、疲れてるのかな。
ベスタ婆とリュダ婆が傍に椅子を置いて、覗きこんでた。
「起きた? お腹すいてない?」ベスタ婆、その姿にその口調で通すつもり?
「イアリロなら、クヴァシルと一緒に寄り合いに行っとる」視線を走らせたのが分かったらしい。
「すっかりなついちゃったのね、可愛いがってきたのに」ベスタ婆、なんでため息?
イアリロになら、なつくっていうか傍に居るのに慣れた、という感じだけど。
「仕方ないわの、自分を一番に思ってくれる人やで」
「分かってるけど。まだ早いわ。クヴァシルとは一回やりあうでしょうね」
何を話してるのか、さっぱり分からないよ……?
「盤上の模擬戦なら、昨夜してましたよ?」
「そら、すごいな」なんで?
「へぇ、クヴァシルが相手にしたんだ。やるわね……というか、それで遅かったのね」ベスタ婆、何か怖いんですけど?
「ほらの、そなたらはお互いを取るやろ」
「……あーぁ、やっと手に入れた家族なのに」ベスタ婆、髪がグシャグシャになるから、止めてってば。
「家族なのは変わらん。な?」リュダ婆、突然同意を求められても。分かってないんだけど。
「ベスタ婆も師匠も、村の皆も大事ですよ?」これでいい?
「わたしも愛してるわ!」まぁ、良かった事にしよう。
腕も胸も、見た目より柔らかくて気持ちいいし。
「何やってんだ?」村長と一緒に、師匠達が帰って来た。呆れてるよ。
「ほら昼の支度するで、手伝って」
「あー、花嫁の母の感傷が……」連れていかれちゃった。
「花嫁?」俺に聞かれても分かりません。と、首を振っておいた。
昼食を食べながら、村長と師匠の説明を聞く。
机も椅子も足りないから、イアリロはベッドに、俺と女性達は床に敷物を広げて座ってる。
「じゃ、明日届く馬で明後日に出発ね?」どこへ?
「イアリロの足が治ったら、一瞬やろうに」足が治らないと竜になれない、竜ならすぐに着くって事か。
「いや。春まで四聖獣の姿はなるべく見せん様にしたい」師匠も村長もイアリロも、厳しい顔だね。
「わたし達がいる事なんて、魔物にはすぐバレるじゃない」
師匠がヒヤッとするような声で言う。
「魔物以外の敵がいる可能性がある」
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