一幕 始まりの村 四話「四聖獸」
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この世界の始まりは、眠りの神・ヒュプノスと、死の神・タナトスによって生み出された『ヒュプノスの夢』だ。
ヒュプノスは俺達の前世の『地球』では、ギリシアの神々の一柱であり、彼に執着した兄・死の神タナトスに追われて『夢』に逃げ込んだ。
兄タナトスは弟を取り戻したい一心で、彼の『夢』に『死』を持ち込んでしまった。
しかし、死は生、夜は昼、闇は光、苦しみは喜びと表裏一体で『夢』に陰陽をもたらす。
タナトスの弟への執着は、結果的に『ヒュプノスの夢』に命を育む土壌を作り上げた。
徐々に、死に魅入られたり現実に疲れた人々の夢に加え、強い願いを抱く魂や『夢』が来世であってほしいと望む魂なども引き寄せられ、『ヒュプノスの夢』に多くの人々の夢と思念が重なった。
強い思いはエネルギーであり、集まって大きな『力』となり、そこに『世界』が生まれた。
後に、ヒュプノスは神々の世界に戻る事になったが、彼の子どもの『黄龍』がこの世界で生きることを望んだ。
ヒュプノスは、子どもの世界が穏やかで優しくあるように、と望んだ。
住人達自身が『夢』と出合い、この世界で生きることを選び、喜びを感じてほしいと願った。
こうしてこの世界に、古代ヨーロッパで信じられていた神々の加護が与えられた。
ヒュプノスはこの世界を『ネフライト』と名付け、世界の要(龍脈)を守る『黄龍』と、その四方を守護して悪夢の浸入を防ぐ、四聖獣を生み出して、去った。
この世界は、黄龍とその夢に支えられている。
黄龍が苦しみ、泣き、悶えると、地震や災害が起こるそうだ。
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師匠とベスタ婆、イアリロと俺達は、その四聖獣なんだって。
師匠・クヴァシルは『玄武』尾が蛇の大きな黒亀、北を守る。
ベスタ婆は『朱雀』不死鳥でもある赤い鳳凰で、南を守護する。
イアリロは『蒼竜』緑の西洋風ドラゴン。東の守護者だ。
俺の父は『白虎』文字通り白い虎、西を守っている。俺はその後継。
本体は聖獣で、人間の姿には擬態してるだけだから、年齢も性別も容姿も変えられる。
聖獣は雌雄同体とかで、そもそも性別はない。片親は人間の事が多く(他は何?)、卵生だそうだ。
三人とも、近いうちに本体を見せてくれると言う。
「見ないと納得できないわよ」と、ベスタ婆はなげやりだ。
……うん、納得も理解もできてない。
普通は親である聖獣から教わるか、輝石化した親の記憶を引き継ぐらしい。
でも俺は親とは会えず、引き継ぎも受けていない。
俺の父親の白虎・ジャービスは、俺を生み出した時のトラブルで弱り、西方を守護する為に眠り続けているそうだ。
母親は俺の卵と父親の力の一部である輝石を預かって、この地に来たらしい。その「白虎の片目」が俺の守り石なんだって。
母親のペネロペは、俺が孵ってすぐに亡くなった。
師匠とベスタ婆は俺を託され、この地の領主と村長夫妻に助けて貰いながら、この村で俺を育てることにした。
両親の事は、俺に聞かれた時に話すつもりだったんだって。
でも、俺はいつまでたっても何も聞かないし、転生の事も隠してるから、どうしたらいいか分からなくなったらしい。
長い話になった。交替しながら、出来るだけ簡略に話してくれたけど。創世から聞く必要があったのかなぁ。
頃合いをみてたのか、リュダ婆が食事を届けてくれた。
豆のスープをよそいながら、昔の事さ、と、師匠とベスタ婆に出会った時の話をしてくれる。
リュダ婆はシャーマン(巫女)だから、すぐに二人が人間でないと分かったらしい。
「『純粋な力の塊』が歩いてくるんだから、どうしたもんかと慌てた」と笑う。
「あなた、平然としてたわよ?」ベスタ婆は疑わしそうだ。
「うちん人とクヴァシルは、その場でケンカを始めたの」リュダ婆は可笑しそうに言うが、
「あなたが仲裁してくれなかったら、どっちかが死んでたわよ!」マジかよ?
「そりゃ、殺られる訳にはいかなかったからな」師匠、イアリロが「のうきん」て、くちパクしてるよ。
リュダ婆が晩飯を片付けて、ちょっと俺に笑いかけて部屋を出て行った。
師匠が、姿勢を正した。
「団長……村長に以前から、しっかり話すように勧められていたが、先延ばしにしてきて悪かった。自分から聞けなくて当たり前だと思う。実子じゃないだけでも悩むだろうに、転生なんてややこしい状況だし」少し考えて、
「転生者だとは分かっていたが、どの程度の記憶があるのか、白虎の記憶が少しでも引き継がれているのか、どう話せばいいかなど悩み出すと、どんどん話せなくなった」一気に言って、頭を下げる。
「わたしも親が鳥で、自分も鳥の姿で生まれてなきゃ、信じられなかっただろうと思うと、言えなくて。クヴァシルはあなたが可愛くて、疑われたり嫌われたりするのが怖かったのよ」
「ベスタ?」師匠、声がでかい。
「この際だもの。わたしも村長達も、ルーを我が子同然だと思ってる。前世でも子供嫌いだったのに、こんな事になるなんて自分でも信じられないわ」ベスタ婆も大声だし、早口で頬が赤い。
「うん、大事にされてるとは分かってました。俺も、嫌われたり、気持ち悪がられないかと思って怖かったんです。育ててくれて、ありがとう」今言わなきゃ、言えないかもしれない。
思いはきちんと伝えなきゃいけないって、転生して分かってた筈なのに。今度こそ、思い残す事がない様に生きたい。
三人で、赤い顔を合わせられないでいた。
穏やかに見つめていたイアリロが、ぽん、と俺の頭に手を載せた。覗きこんで来る目は優しい。
「十八年分話すには、時間が必要だな。信じてくれても、信じられなくても、こちらの事情は、一通り伝えた」
「さてルー、それで何に気付いたんだ?」空気が変わった。頬の熱が冷めていくのを感じる。
そう、俺にとっては、これからが本番だ。
「前世で『ネフライト物語』って、読んだことないですか?」読んでたら、話に出てきたと思うんだ。
「知らんな」「知らないわ」「その題名って……」口々に、鋭い言葉が返って来る。
「子供の時に好きだった本なんです」自分でも信じられない話だけど、白い虎に変身するくらいなんだから。
古代のヨーロッパに似た『ネフライト』という世界が舞台で、英雄や騎士、ドラゴン、魔物や魔女、獣人達が出てくる冒険小説である事。
主人公はアングレサイトという国の王子で、春に、滅亡した東の国の戦士を看取る。彼は
「祖国では国中に魔物が溢れている」と言い残した。
王子は夏の初めに、国境の砦で押し寄せる魔物を食い止めた。
推測は交えず、思い出せる限り、冒頭の部分の内容をゆっくりと話した。
三人は各々、腕を組み、頬に手を当て、折った足を擦りながら、考え込んでいた。
それから、質問が始まった。
戦闘が行われた場所の地形、天候、魔物の群れの規模、対抗した戦略、装備など、多岐に渡り、微に入り細を穿ち……
いつの間にか、ベスタ婆はいなくなってた。
師匠とイアリロは、戦力を想定しての模擬戦を卓上で始めた。
俺は、寝落ちした。
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