三幕~花の墓標~六話「新たな問題」
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すみません、投稿予約できてなかった(汗)ので、今日の分投稿します!
長い話を聞いて、皆が吐息をついた。チェロヴィクが白湯を配ってくれる。
思い詰めた様子のルサールカが口を開いた。
「そう、私はマリーチカよ。私とヴィルは元々、湖のある山の西の国、隣国側の麓の村の出身で幼馴染みだったの。村は水不足で作物が育ちにくく、私とヴィルの家族は飢えて死んだわ。私は長を、ヴィルはシンを誘惑して湖の情報を引き出す様に命じられて、送り込まれた」
「ヴィルは上手くシンと恋仲になったけど、今の長老、当時の村長は亡くなった妻を想い続けていて、私には靡かなかった。女戦士のミュリナは、私が村長に振られたのだと思って慰めてくれた。それで親しくなったの」
「ミュリナと恋をしてこちらで暮らすうちに、雨が少ない時には湖の水量が随分と少なくなることを知った。そして、自分の村に水を流すと、こちらの村が水不足になるのだろうと分かったわ」
「私はヴィルに、村の人を騙すのは止めて自分達の村に帰ろうと言ったの。でもヴィルは、シンから地下水脈がある事とおおよその場所を聞いて故郷に伝えたと言ったわ。もう少し探って戻れば土地と家を手に入れられるから、一緒に暮らそうと」
「ヴィルに湖に行こうと誘われた時、私は彼を説得しようと思ったの。彼が私を好きな気持ちを利用して。でも彼は『お前とミュリナが恋人だと知っている。お前がいればミュリナはおれを殺せないから一緒に逃げるんだ』と嗤ったわ」
「私は彼の後ろに、それを聞くシンの顔を見たの。この間シンに『バケモノ』と言われた時に、全てを思い出した。あの時と同じ顔をしてたわ」ルサールカは自嘲した。
「シンに崖から突き落とされた時、仕方がないと思った。私はヴィルの気持ちを利用しようとしたし、二人とも村の人を騙していたから。でも、遠くにミュリナの姿が見えて、愛していたと伝えたいと強く思ったの」
「私はミュリナが私を待っていてくれると信じて、ルサールカになった。でも、帰りたいという気持ちしか覚えていられなかったの。ミュリナは、湖の守り神にまでなって待っててくれたのにね」
堪えていた涙を流すルサールカを抱きしめて、一緒に泣いた。リュドミラも加わって、暫く三人で抱き合っていた。チェロヴィクも目を擦っている。
「新しい問題が三つ」俺達が落ち着くのを待って、イアリロが話し始めた。
「一つは、湖の水脈は奪われたのか、奪われていれば取り戻せるか。これはルサールカ、いや、マリーチカとミュリナに掛かっている」マリーチカに語りかける。
「とにかく、ミュリナに会わないといけないわ」マリーチカは考えながら頷く。
「二つ目は、ドゥレーブィ族の族長が、行方不明になっていること。最後に出掛けた時、彼は族長会に行くと言っていたそうだ。だが私は父から、族長会のことなど聞いていない」リュドミラが思案する様に腕を組む。
「三つ目。ドゥレーブィ族から北の国に、かなりの量の武器の材料が渡った。今までの物より良質で、しかも族長不在の今、止める手段すらない」ゴランは大きく顔をしかめた。
「皆の得た情報も、加えてくれるか?」イアリロが問いかける。
リュドミラが口を開いた。
「ドゥレーブィ族の族長の不在には、女性が絡んでいる」族長会に行ったのに?
「族長会には女は参加しないんだがの。彼は出掛ける前に、友達に女絡みのやっかみを言われたり、からかいあっていた。それに、長期間の不在は初めてではない。去年も三か月程出掛けていて、帰った時は随分威勢が良かったらしいの」初めての不在じゃないから騒がれなかったのか。
レーシーも話し出す。
「北の国との取引では、燃料や材木、金属が手に入るらしい。それでまた鍛冶が捗るという流れだ。熊や狼の毛皮も届くが、そう多くはないようだ。次の取引は来週ブシクであり、かなりの量を納める予定。鍛冶組合は旅の準備を始めている」ブシク。北の町だったよな。
チェロヴィクも小声で話してくれる。
「野菜も魚も、手に入りにくくなっているそうです。鍛冶が盛んになってから、川魚がたくさん浮いたり作物が育ちにくいとか。子どもの病も増えたようです」公害か。難しい問題ばかりだ。
ゴランは言う。
「鍛冶の親方ご自慢の矢尻は、確かに性能がいい。熊やヘラ鹿を貫通できるんだ。勿論、皮鎧もかなり遠くても貫くだろう。防壁もなく警戒していない村など、すぐに制圧されるな」予測通りだね。北国はもうすぐ雪が降る。来襲は春かな。
俺の夢の話は場違いだけど。
「ミュリナはマリーチカを待ってるよ。毎晩、君の夢を見てる。早く会ってあげて」そっと伝えると、マリーチカはまた涙を流しながら笑った。
チェロヴィクに手伝って貰って寝支度を整えていると、リュドミラが訪れた。
「ルー、一緒に寝るかの?」どうして? 首を傾げた。
「酷い扱いをされるなら取り返していい、とベスタに言われてるでの」顔が真っ赤になるのが分かる。
「大丈夫です」リュドミラは笑って、額にキスしてくれた。
「お休みなさい」俺もキスを返した。
「拳骨を貰って来たよ」明日の予定を話してくる、と部屋から出ていたイアリロが、頭を撫でながら戻って来た。涙目になってる。ゴランの拳骨だものな。朝の事、どこで聞いたんだろう。
視界に黒い影が走る。探知にも架かった。
「どうしたの?」イアリロが蠍に聞く。
「この家の様子を伺ってた人を、ウロスが追っていった。足が速い、追っててこの町に帰れない。モノケロスに言われて来た」
「本当だ。ウロスが全速力で駆けてる。これは馬だね、北へ向かっている」北。黙って、イアリロを見つめた。
「今、出来ることはないよ。ウロスが上手くやってくれるさ」笑って頭を撫でられる。
「危なくないかな?」あんなに小さいのに。
「アイツが悪戯した時なんて、絶対捕まえられないんだよ。最後はエサで釣るけど」イアリロが笑う。
でも、ちゃんと元気に帰って来てよ。ウロスを思い浮かべて、無事を祈った。
蠍は厩に戻って行った。
俺はいつもの様にイアリロの胸に抱かれて、うとうとと眠り始めた。
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「ねぇ、ミュリナ」マリーチカが訊く。
「あなたはどうして、この村に来たの?」
「なぜだったかな。もう忘れたよ」ミュリナが笑う。
「もう。教えられないような事なの?」
「いや、たいした理由じゃ無かったよ。旅に出たくて堪らなくなったんだ」明るい笑顔に、マリーチカの肩の力が抜けた。
「だけどあなた、アマゾネスじゃない。ずっといていいの?」
「いいよ、誰も待ってないし。君がいればいい」ミュリナの笑顔は変わらない。
「ばか」マリーチカも嬉しそうに笑った。
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夢の中で、ずっと気になっていた事を思い出した。
ミュリナの鉄剣に半月型の盾、金の指輪。スキュタイの装備だ。
女戦士だけの部族、アマゾーン。女だけだから、子どもを得るために他部族を訪れ、女の子を産むと連れ帰り、男の子なら父親の元に置いて行くという。
前世で、スキュタイと平和的に協力関係を結んだ、という話を読んだことがある。
この世界は、多神教の世界。
言わば、キリスト教やイスラム教等の、唯一神を信仰する勢力の侵攻がなければどうなっていたか、というシミュレーションにもなっている。
今、俺に分かる違いは、スキュタイ族の繁栄は前世より小規模だったこと。もしかしたら、ゲルマン民族の大移動は起こらないかもしれない。
現在ウクライナに住む東スラブ人は、どうなっていくのだろう。
スラブ人の多くが奴隷にされたり、大飢饉やエネルギー不足、虐殺、チェルノブイリの事故といった前世での暗い歴史は、変わるのだろうか。
お楽しみ頂けてますでしょうか。ちょっと雲行きが怪しくなってきました……
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