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一幕 始まりの村 二話「対話」

 ご覧頂き、本当にありがとうございます。

「どうしろって言うんですか?」

 俺は途方に暮れていた。あれから二日。血まみれの死体は、キレイなお兄さんにチェンジしていた。


「お前が拾って来たんだから、何とかせい」村長は大抵そっけない。


「ワシらは忙しい。収穫祭の準備もあるしの」クヴァシル師匠、視線を合わせないって事は、何か隠してるのかな?


「取ってきた薬草も放ったらかしだ。さっさと乾かさんと、駄目になる」ベスタ婆は、もう歩き出してる……元々人の言うことなんか、聞かないし。


「ゴラン爺の世話も上手かったしな、お前に任せるわ」リュダ婆はしわくちゃな笑顔で……やっぱり上手いな、言い方が。仕方ないか、と思わされる。


 あ、もしかして、村長が不機嫌そうに見てるのは妬いてるのかも。すげぇ仲良いんだ、あの年で。ヤバい、にやけそう。


 あーあ、言いたい放題言って、さっさと行っちゃった。俺は口数は少ないけど、言いたい事がないわけじゃないのに。


 こっちに生まれなおして……転生して、か。変な事を言ったら疎まれるんじゃないかと不安で、なかなか話せなかった。他に子供がいないから、真似することもできないし。

 自慢じゃないが、前世では母一人子一人。乳児や幼児には縁がなかった。仕事も年寄り専門だし。発達行程なんか分からない。


 三歳になる頃に、リュダ婆が薬師の(俺は魔女と呼んでる)ベスタ婆に相談してた。

「喋り薬を作ってやろう」ってベスタ婆が返事したのを聞いて、翌朝から喋るようにした。

 だって魔女の薬は、とんでもなく苦いんだ。ギョロ目で曲がった高い鼻で、ヒヒヒって笑うし。夢にまで見たぞ。思い返せば、あれはわざと聞かせたんだろうな。


 リュダ婆は、病気でもあるのかと心配してたらしい。喋り始めた俺を抱えて、泣きながら笑うんだ。

 前世で受験に合格した時の、母親の顔が重なって……リュダ婆には弱いんだよな。

 まぁ、その他の爺さん婆さんになら強い、って訳でもないけど。 


 ぼんやり思い出して、逃避してた俺に、穏やかな声が掛かる。イメージしてたよりも低めで男前な声だ。

「助けてくれてありがとう、デレヴリャー族のイアリロだ」


「いえ、ルーグといいます、ルーと呼んで下さい。俺は何もできなくて。足、痛むでしょう?」


 お兄さんは、目を見開いて、花が綻ぶ様に笑った。

「倒れてるのを君が見つけてくれた。それにあの時、待っててと言ってくれただろ、本当に助かったんだ。どうすればいいか、分からなくなってたから」 


 死体だと決めつけたり、その後の騒ぎを、お兄さんのせいだと感じてた罪悪感と、どうにも大げさな感謝の言葉に、俺は固まってしまった。


 微笑む貴方に惚れそうだよ! 茶髪碧眼、肌は白くきめ細やかで……ちょっと艶まであって銀色っぽい? それに、耳がちょっと尖ってないか?

 首を傾げた俺に、お兄さんはクスクスと笑ってる。


 緊張するよ。なにせ普段、ざんばら白髪に白内障で濁った目、日焼けしてシミシワだらけの連中しか見てないから……

「何か言うたか?」振り向く魔女達。リュダ婆の眼力も心なしか強い様な。ガクブルってこういう事か。ごめん、もう行っていいから!


 イアリロ様、と声をかけたら本気で怒られた。

 イアリロは、聞き上手で話上手だった。助かった……それに案外よく笑う。 

 こういう人を、ヘルパーのおばちゃん達は「ゲラ」とか言ってたかな? 環境のせいで、俺の思考はかなり上の年代寄りだが、何となくしか分かってない事も多い。



 一週間程のイアリロのお世話は、楽なもんだった。日に何度か、赤い顔で渡される尿瓶(しびん)を片付ける。イアリロが恥ずかしがるから、朝は古い桶や壺を使って貰って、そのまま埋めてる。

 後はベスタ婆が昼に傷を見に来るから、それに合わせてお湯を沸かして体を拭いたり。食事は婆さん達が届けてくれるし、のんびりしたもんだ。


 優秀な患者だからか、添え木で固定した足の痛みも、随分ましになってきたらしい。俺考案・ゴラン爺作の松葉杖モドキで、ひょこひょこ歩き出した姿にほっこりする。

 厠は和式だから、もう暫く使えないだろうけど。次はポータブルトイレでも考案しようか。


 ゴラン爺はとにかく器用で、簡単な絵を描いて説明すると、時間はかかっても、だいたいイメージ通りの物を作ってくれる。色んな村を回る中で、そんな仕事が増えてきたらしい。

 師匠に目をつけられて便利に使われ、ややこしい注文ばかりされたからだと怒ってたけど、物を作る時は楽しそうだ。


 この間に我らが村の爺さん達は、防護柵(半分以上は盛り土だし、木というより、枝でできてるけど)の高さや厚みを倍程にした。


 鍛冶打ちの音もずっと聞こえてる。普段作ってるのは、物々交換用の装飾品が中心だからな。狩りや日頃使うには、鏃も斧も石製でなんとかなってたんだ。


 婆さん達は保存食作りと、ご馳走(秋の祝いは決行するらしい。それはそれ、と言ってた)の下ごしらえにかかりきりだ。


 放牧してた馬や牛や豚といった家畜達も村に入れられてて、色んな所で鳴き声がしてる。


 ベスタ婆の家の煙突からは、紫やどす黒い煙が立ち上ってる……実験台は断るからな! 眠り薬で二日起きなかった時はさすがに反省してたけど、また変な物を作ってそうだ。


 俺はお世話の合間に、イアリロから「一般常識」を教わってる。何かお礼をしたい、と言われて、何でもいいから話をしてほしい、と頼んだ。


「何を教えたらいいか……」と最初は悩んでたけど、今は

「知ってたら止めてくれ」と断りながら、楽しそうに話してくれる。


「え、知らない?」とか、ちょくちょく驚いてたから、村では実戦的な事が優先だから、とフォローしてるけど、

「ホントに丸投げかよ」的な呟きや舌打ちが聞こえたり……? いえ、幻聴ですよね!


 もうすぐ「お世話」も終わりそうだし、今日は、気にかかる事や、なんだか引っ掛かってた事を質問させて貰う事にした。

 

「この辺りはアイオライト、っていうんでしたよね」どこかで聞いた事がある気がするんだ。確かに初めて教わったのに。


「そうだよ、西に行くとアングレサイトがある。領主の息子も有望らしくて、同盟を考えてるそうだ」


 血の気が引いた。

 十八年近くも気付いていなかった事がショックだ……!


 俺は前世で、この世界の事を知っていた。

 というか、読んでいた。


 ――――――――――――――――――――――


 小学生の頃、携帯ゲームが流行ってて、皆で同じソフトを持ち寄って遊ぼう、って誘われることが多かった。クリスマスと誕生日にしか、新しいソフトを買って貰えない俺は、毎回は混ざれなかった。


 母親や先生は一人で過ごしていると心配するけど、図書館にいるなら、と笑ってくれたから週に数日は通ってた。例に違わず、好きだったのは冒険小説。


 夢中で何度も、何度も読んだ『ネフライト物語』。主人公の決め台詞なんて、そらで言えるくらいになってた。


 舞台は古代のヨーロッパに似た世界『ネフライト』。

 剣と魔法の世界を、英雄と騎士とドラゴン、魔物や魔女や獣人達が、馬や船や魔獣達に乗って、駆け巡るんだ。


 主人公は『アングレサイト』という国の王子で、物語は彼の初陣から始まる。

 東の国の戦士に出合うが、彼は、滅亡した祖国に魔物が溢れていると伝えて息を引き取る。

 王子は国境の砦に急行し、押し寄せる魔物を、水際で食い止めるのだった。


 ―――――――――――――――――――


 この村から西に行くと『アングレサイト』という国がある。

 イアリロは、その間にある山脈で魔物の増加について調査中だった。

『アングレサイトの東の国』は、溢れるほどの魔物の襲撃を受けて滅亡した。


 吐きそうだ。


 ご覧頂き、ありがとうございます。よろしければ、続けてご覧くださると嬉しいです!

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