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二幕~旅の仲間~十話「オネイロスの門」

ご覧頂き、ありがとうございます。

二幕~旅の仲間~は明日のエピローグで終了です。

「起きたことは、大きく分けて二つですね」休憩後、再びイアリロが話し始めた。


「一つ、祠と村の間の道で襲撃があり、村人と精霊が被害にあった。娘五人と精霊達の安否が確認できていない。二つ、我々はその道で待ち伏せている二隊に出合い撃破した。その内、魔狼三十匹を率いていた一匹は、ウールブヘジン(人狼)だとの疑いがある」皆が頷く。


「今後の対策を考える上で、もう一つ情報があります。夢見による黄龍の預言で、検証が必要ですが」

 ゴランが目を見開いたが、イアリロはかまわず、昼の記録を読み上げる。俺は目を閉じてそれを聞き、疑問点を整理した。

  

「検証に入りましょう。この預言は、この地域とこの祠を暗示しているのか」読み終えたイアリロが皆を見つめて問いかける。

「『東の祠』はここだ。それに『大きな樹を祀る祠』は知る限りではここしかない。夢見が示すのは、この祠と東スラブ地域のことで間違いなかろう」ゴランが答える。


「『領主』は父ミロスラフの事だろうか」リュドミラが考えながら答える。

「ミロスラフは元気だし、息子は三人。長男が跡を継ぎ、次男のスタニスラフが補助する予定だの。黒い海、北の海との交易は聞いとらん。先のことは分からんが」

「では、これは保留」イアリロの声は冷静だ。


「泊まった村の村長の言葉。『女子供を口減らしの為に奴隷に売る』『ルサーリィが行えない』のは何故かしら。ここ数年は豊作で、村人とルサールカ達の関係も良く、問題は起きていないわ」モコシは悩んでいるが、誰も答えられない。


「首都に異国人が多いのは確かです。次兄スタニスラフの長男、スラヴェンが留学から帰ってから、色々な国の客が訪れている。先日会った次男のスロボダンは相変わらずで『遊んでないで働け』と、スラヴェンに怒られていました」イアリロの言葉に皆が苦笑する。

 リンダを愛していたお兄さんは、スタニスラフと言うんだね。


「夢見では東から祠へ向かうのよね? あなた達に同行してくれるレーシーが、雨が多い割に湖の水量が増えないと気にしていたわ。あと、バーバ・ヤガー。確かに彼女は娘を保護しているけど、閉じ込めてはいない。娘の方が外に出ようとしなくて、困っているの」モコシが続ける。


「倒れそうになって見つけた泉はここで間違いないと思うわ。というのが、泣いていたルサールカ。彼女は『自分は結婚したことがない』と答えたけれど、普通は、ルサールカになる以前のことは覚えていないの。あなた達に同行する彼女は、独身だったことと生家の位置を覚えていて、これはとても珍しい事なのよ」先に聞いていただけあって、考えを詰めてくれている。


「扉の前で聞いた女性の声についてだけど、モコシの他に、託宣できる存在はいるの?」イアリロが訊いた。

「今はいないわ。四聖獣なら可能だけど、他の精霊達は聞く事ができても、答えられない」


「四聖獣なら、この祠にいなくても可能ですか? 男神が声音を変えるとかは?」俺も訊いてみた。

「その時にちょうど他の祠にいたら、声を届けることはできるわ。かなり力を使うから、急には難しいし、例えば、眠っている白虎には無理でしょう。声音は、変えようと思えばできるけど、その必要があるかしら?」頷いた。


「レーシーは、森に悪意を持っていたり、警戒する状況でなければそうそう悪戯はしないわよ。対策は合ってはいるけど、実際にした人を見たことはないわ」クスクス笑うモコシの言葉に、皆も笑った。


「『吸血鬼』については、イースコロステニと他の領地、各首都・街で噂を調べて貰おうと思う。あとは『狼』だが、『ルー・ガルー』の事はクヴァシルに伝えておこうと思う」皆が頷いた。ここでは分からないものな。


「南の領国から、ダンピールに来て貰うことはできるのか?」ゴランが尋ねた。

「依頼すれば可能だろうけど……」イアリロが言葉を濁す。

「確証なく頼むことはできない、と」ゴランも頷く。

 

「バーバヤガーの家は、レーシーもドモヴィーハも知ってるから、ちょっと寄って様子をみてあげてほしいの。預言がなくても、頼むつもりだったのよ」え? 皆もキョトンとしてる。

 それに、ドモヴィーハって毎日お世話になってる、家憑きの妖精だよね? その名前で呼んじゃいけない、という。なんでここで出てくるの?

「えーと。それはどういうことだい?」イアリロも戸惑っている。


「彼女に預かって貰っている娘は、大地母神となる力がある精霊なの」引きこもっている娘が? 各々がおかしな顔をしたらしい。モコシが笑いながら答える。

「土地神は、長年信仰の対象となった自然や物、岩とか樹とか山や湖などに、精霊が宿ることから生まれるの。娘は精霊に成ったばかりなのよ」なるほど。

「分かった。何をしてほしいか、何をしたらダメなのか、後で教えてくれ」うん、さすがイアリロだ。


「最後に考えてほしいんだ。『領主の親族』について、警戒する事の他に、何かできることがあるかを」イアリロが、皆に軽く頭を下げる。


「スタニスラフにルーを会わせた時に、彼がどんな反応をするかによると思うの。先に、ミロスラフとドラガンに手紙を送っておいたらどうかしら」モコシが提案する。

「それはいい。それと、一足先にわしとゴランが都に入って、調整しておこうかの」


 俺の存在や、イアリロと俺の関係は、受け入れられないってことかな。イアリロが、泣きそうになった俺を引き寄せた。

「ルーを歓迎する者が殆どで、反発する者はごくわずかだよ。あとは、獣人の血を引く事がどう影響するか、くらいかな」

 イアリロ、背中を撫でる手が愛撫に変わってきてるから止めて。ほら、ゴランの顔が怖くなってる。


「ミロスラフとドラガンは昔から予想してたわよ」モコシが朗らかに言う。

「そうだの。イアリロとルーに関わってきた者は、大抵こうなると思うとったの」リュドミラも笑う。

「だから、成人前には会わせられん、と言われたんだ。予測通り、自制もできんとは情けない」ゴラン、拳骨は作らないでって。


 イアリロが俺を見て笑う。

「なるほど。皆の言うことが正しかったんでしょう。彼の成長を傍で見たかったと、ものすごく悔しくて怒ってたんですけど、怖がらせたかもしれませんものね。感謝しなきゃいけないか」爽やかに笑うイアリロ。皆はため息を吐いてる……?

 まだ会ってない人や、昔の話が混じると、訳が分からないな。俺は、首を傾げるしかない。


「預言での『領主』がミロスラフなら、『親族』はスタニスラフの家族だとは思う。ボルィムィールの所は呑気過ぎる」ゴランが頭を掻いて言う。

「そうやの、確かにあの家族が何か起こすとは思えんの」リュドミラもモコシも笑ってる。呑気?


「だけど預言では、スタニスラフは後で『寝込んで』済むんです。息子達がヴァンパイアになったとしたら、彼は自分で討伐して、自害まで考えそうですよね?」

「それはそうね、スタニスラフは人一倍、名誉を重んじるもの。もう少し遠い関係、例えば奥さんの身内とか?」

 モコシは一時期イースコロステニに居たって言ってた。それでかな、詳しいなあ。

「そう言えば、奥さんの部族がいた。確かポリャーネ族ですね。この機会に会ってみましょうか」


「この辺りはドゥレーブィ族の土地だろう。『領主一族』はどうした?」ゴランが尋ねた。

「そう、我々の親部族でもありますね。族長は高齢で、孫が継いだ筈なんですが、連絡をつけようとしても、見つからないんです。ヴォルィーンシキーにも、ブシクにも村人達はいるし、鍛冶も続けられているんだけど」


「村長は知ってるんだな?」ゴランの目が鋭くなる。

「私が来る前に伝わってますよ。元々山の調査の後で、そちらへ回る予定だったので。他の連中が行ってくれました。そうか、広域で考えると、山の魔物の増加と、ドゥレーブィ族の不在も関連してるのかもしれないですね」


 今夜はここまで、と、各々が考えながらの解散となった。

 問題山積だ。成人も婚約も、嬉しいだけではすまないね。


ありがとうございます。

明日の夕方、エピローグを投稿致します。

新年から半月走り続けて参りましたが、ちょっと立ち止まって、二幕終了に合わせて、登場人物紹介等をさせて頂きますね!


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