二幕~旅の仲間~九話「宣戦」
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二幕もあと少し。旅の仲間が揃い始めます。
「あなたが生まれた時、リンダが笑って言ったの。『幸せな恋、幸せな結婚、愛する家族との幸せな暮らし。こんな幸せから、絶対に悪いことなんて生まれない。イアリロは愛に満ちた、素敵な人生を過ごせるわ』って」モコシが芒洋とした笑みを浮かべる。
「『ヤリーロという名前が負担にならないかな』と心配したミロスラフへの返事だったわ。あの子が愛した家族、私達の大切な森と優しい人々に、辛い思いなんてさせるものですか。イアリロ、何が原因か突き止めて。絶対に防ぐわよ」毅然とした幼女が、仁王立ちで宣言する……格好いい!
「はい」イアリロも、俺の腕の中で頷き、ゆっくりと顔を上げた。いつもの凛々しい姿だ。
「クヴァシルがいない今、自分達で考えるしかない。ルー、訊きたいことがある」見上げるイアリロの目は厳しい。
「リュドミラ達にも伝えてからにしませんか?」きっと、夜中までかかると思うんだ。
「そうね。考える頭は多い方がいいわ」モコシも頷いた。
「食事の支度を手伝いに行くわ。できたら呼ぶわね」モコシがウィンクして出て行く。
「ルー」二人になった途端、イアリロが手を伸ばす。
キス、抱き寄せる、手を繋ぐ。イアリロの声や目の色で、何をしたいのか、分かるようになってきた。
今はキス。そうだ、プロポーズしてくれたのに、それどころじゃなくなってたね。
妖精が呼びに来てくれた。泉で手を洗い、食事に向かう。イアリロは俺の肩を抱き、腰を抱き、とうとう抱き上げて歩いてる。最初は抵抗したけど効かないし、諦めて好きにさせた。
大きな小屋の前に、宴会場が設えられ、歓声で迎えられた。
婚約かぁ。すっかり番い扱いされてたけど、ちゃんと表明するのは初めてだもんね。
みんな笑顔だ。ゴランだけ、ちょっと憮然としてるけど。
イアリロの目が潤んでる。皆が家族同然なんだろうな。俺の育った村、ヤレムチェみたいに。
リュドミラが手を広げるから、二人一緒に抱きしめて貰った。
「おめでとう、愛する子ども達。ここにいなくても、家族みんなが、あなた達の幸せを願っているわ」
ゴランも頷いてくれて、良かった。イアリロもホッとしてる。あの拳骨、痛いもんなぁ。
美女になったモコシが、俺達の頭に手を翳した。いつ変わったんだろう。もしかして、日が沈むと大きくなるのかな?
「この森の女神として、二人の婚約を認めます。祝福は、またの機会にね」クスクス笑う。
酒は出なかったけど、和やかな食事会だった。ビプネンが参加できないのが、残念だった。
食後、皆と片付けている時に、ちょっと祠を覗いてみた。昏々と眠る大きな姿に泣きそうになった。
負担ばかりかけてごめん。早く元気になって、と魔力が籠らないよう気をつけて、頭を撫でた。少し表情が和らいだ気がした。
小屋の前に、不思議な面々が並んだ。
まず、ルサールカ。泉で俺に悪戯した緑の髪の娘だ。その傍にくっついたユニコーン。更に、小さめの毛並みの良い猪、それに跨がる小人。長い白い髪と髭を蓄え、古い箒を抱えている。
この四人? が付いて来てくれるの?
「チェロヴィク! 一緒に来てくれるの?」リュドミラが満面の笑みで、猪? に話しかけている。
「レーシー殿、心強いが、宜しいのか?」ゴランには珍しい笑顔で、小人に話しかけている。
「ルサールカ。ルーはあげないよ?」イアリロの威嚇に娘はニコニコしているだけで、返事もしない。
俺は、ユニコーンを見返していた。じっと見つめられているが、特に反応がない。ルサールカにくっついているから、彼女の馬だと思えばいいのかな?
うーん、ぱっと見では、戦力になりそうなのは、ユニコーンくらい? なんだけど。一角獣という名の通り、魚の一角の様な長い角で、まるで槍だ。
でも、三人が喜んでいるようなので、きっと各々、凄い力があるんだろう。
明朝はまだ雨らしく、天候の回復を待って、明後日の夜明けに出発したい、とイアリロが説明している。皆が納得した様子で、和やかに解散した。
四人で大きめの小屋に入ると、武具が並んでいた。弓も剣も刀も盾も、新品の様に磨かれている。
「ルー」来たぞ。怒られるな。
「明日は弦の張りを調整する。かなり力が強くなった様だな。刀はお前には早いと思ったが、使えている。流石クヴァシルだな」あれ、怒らないの? 首を傾げると
「充分ではないが、基本的な手入れは出来ていた。後は経験と、時間をかけることだ」と、頭に手を載せてくれた。
「まだまだ、身体が変わる。明日は少し鍛練しておくぞ」
「はい」でもやはり、厳しい師匠だ。
「イアリロ。この槍はもう寿命だ」
「ありがとうごさいます。とうとうですか」
「リンダ様の形見だな」ゴランの声が柔らかい。本当に愛されてたんだな。イアリロも槍を撫でている。
「お茶が入ったでの。ぼちぼち始めるかの」リュドミラの優しい声で、着席を促された。
モコシと五人で、車座になって座る。イアリロと俺の席はくっついてるけど、もういいや。
イアリロが書記の準備をして、話し始めた。
「さて、まずここへ来た時の事だけど。猿の魔獣が十五、狼の魔獣が三十、村と繋がる道で待ち伏せていた。猿は村の方を、狼は祠の方角を警戒していた」
「九月の初めに、村祭りの行列が襲われているわ。村人が十人殺され、五人の娘と精霊達が拐われた」モコシが報告する。
「娘はともかく精霊達はどうやって拐う?」ゴランが尋ねた。
「魔術師か魔女なら可能でしょうね。道具や準備が必要だけど。精霊達は村人の人形からは自分で逃げ出せるし、人形は壊されて残っていたわ」
「では、寄り代に閉じ込める方法を知って、用意してきていたということだの」
ふむ、と皆で考える。特に変わった道具はなかった。今回の対象は違ったということ?
「待って。拐かされたのは確実ですか?」嫌な予感がする。
「どういう意味?」モコシはピンと来ない様子。
「精霊達から力を奪ったり、消滅させることはできますか?」言いたくない、けど。
「できるわ。魔獣の中には魔力を奪う魔術を持つ者がいる。魔力を全て奪われれば、精霊は消滅するの」皆が凍りついた。
「誘拐、殺傷の両面で考えよう」イアリロが静かに言った。
「あの魔狼は強敵だったな」ゴランが腕を組んで発言する。イアリロも頷いている。
「あの大型の魔狼、魔力も感知していましたよ。ルーがリュドミラを助けようと魔力を放出した瞬間に、そちらへ向かおうとしたんだ。発光するより早かった」自分も目を瞑ったし混戦だったから、俺には分からないな。
「その前に火魔術も使われたの」リュドミラの言葉に頷く。それで複数相手の戦いになったんだ。
「イアリロの蔓が焼き切られました」
「最後に残った大型が火魔術を使えて、魔力も感じられたのか、火魔術は他の奴だったのか。今からでは分からんな」
「魔獣が魔術を使うのは、珍しいんですよね?」確か、そう言ってたよな?
「そう、野生の魔狼が複数の魔術を使うのは、見たことがないな」イアリロが思い返している様子だ。
「野生のってことは、野生じゃない場合もあるんですか?」何の気なしに聞いたけど、注目を浴びた。俺、変なこと言った?
「ウールヴヘジンか?」ゴランの殺気で部屋の温度が下がった。所縁があるんだろうけど。
「人狼だよ、ベルセルクとも言う。北欧では狼や熊に変化して戦う戦士がいるが、そのまま獣化したり、半獣のまま戻れない、性格が凶暴化するなど、問題が多い。最後の切り札、捨て身の戦法だね」俺の視線を受けて、イアリロが説明してくれた。
「あの大型が人狼なら、魔獣を従えていたかもしれんの。分散したり方向を変える前に、そちらから咆哮が聞こえていた。指示をしていたのかもしれん」
リュドミラが目を閉じて、戦いを思い返していたようだ。巫女は複雑な歌も覚えて、そのまま再現する。
恐ろしい話になってきた。
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読み返してみると……名称等、ワケわからんカタカナばかりで、すみません。か
二幕終了に合わせて、名前の由来等の説明回を入れるか検討中です。
二幕最初、転落前の閑話を番外編としてアッブします。よろしければ、作者リンクからご覧下さい。
(「ヒュプノスの夢」ネフライト創世記もひっそりムーンでアッブ中。兄神様のせいで、こちらに載せる為に修正に苦慮してます。十八才以上の方は、よろしければ、作者名 shirokuma で検索してみて下さい)




