二幕~旅の仲間~八話『ネフライト物語・アイオライト編』
ご覧頂き、ありがとうございます。
物語の中の物語です、ややこしくてすみません。
『ネフライト物語』で、ウェルク王子が最後に訪れるのが『東の祠を擁する国』だ。
物語の中では、国名や地名は殆ど『~の東の国』『黒の森』の様にぼやかして書かれていて、よくよく思い出すと会話の中に出てきたかな、という程度。
だから十五年間、この世界が『ネフライト』だと気付かずにいた。
その後『アングレサイトの東の国』が、ここアイオライトで、次の春に魔物の襲撃で滅亡する、と思い込んだ。
そして、父ジャービスが『西の祠』の守護者だと知って、狂った父がウェルク王子に討たれるのだろう、と絶望した。
情報を整理する中で『アングレサイトの東の国』は、前世でのオーストリア辺りのことだと推測された。
ウェルク王子自体の情報も、かなり異なっていた。
俺は『ネフライト物語』が予言書ではないと安心した、というより思い込もうとした。
ヒュプノス様が『黄龍が参考になるように届けた』とまで教えてくれたのに。
南の島の噴火は再来年のことだし、北や東の国の情報も先の話で、魔物の襲来も起きていない今からでは、未確定過ぎると考えて、蔑ろにしてしまった。
本当の事はよく分かっている。父のことを考えるのが怖くて、逃げていたんだ。
最初は『アイオライト』と『東の祠』も結びつかなかった。イアリロの故郷だということと、進路を変えて祠に向かった辺りで『ネフライト物語』での記載を思い出し始めた。
世界樹のことは『大きな樹』としか書いてなくて、ここで見られるとは思ってなかったから、余計に感動したんだ。
モコシや妖精達と出会い、イアリロと恋に落ちて、やっと他にも重要なことが書いてあると気付いた。自分がその場に行かないと、身近なことにならないと実感できないなんて、本当に俺は愚かだ。
『ネフライト物語』は預言書だ。俺はその情報を携えて転生した。
この物語を伝えて読み解き、『この世界に紛れ込んだ厄介なもの』の影響を抑え、対決するかその一助となる為に。
「出来るだけ『ネフライト物語』に書いてあった事を思い出して語るので、そのまま日本語で書き取って貰えますか? それから、イアリロが必要だと思う情報を、必要な所に伝えて下さい」イアリロの顔を見上げて、出来るだけ落ち着いて話しかけた。
「分かった。書くのが追い付かなくなった時だけ、声を掛けるから。それ以外は気にせず、話し続けていいよ」イアリロも静かに答えて、机に向かう。
俺は傍の椅子に座り、目を閉じて深く息を吸った。
「私は父に頼まれて『東の祠を擁する国』へと向かった。領主は体調を崩しており、二人の息子のうち、次男があとを継ぐ準備をしているようだ。経済的には順調で、最近は黒い海に面した領国や、北方のバイキングとも交易を始めたらしい」
「途中、寂れた村に泊めてもらった。村長は『女子供は口減らしの為に奴隷に売った。泣いて去って行く娘はルサールカになって戻って来るのだろうか。ルサーリィも行えないのに』と嘆いていた」衣擦れの音がしたが、目を閉じたまま息を継ぎ、話し続けた。
「首都にはローマやバルト海からやって来た男達が闊歩し、色々な国の商人達で賑わっていた。私は領主の次男に面会し、父からの伝言と祠の調査に向かいたい旨を伝えた。彼は疲れきった様子だった。領主の体調不良の原因は分からず、長男家族とは連絡も取れないそうだ。『子供達が助けてくれるから何とかなっている』と誇らしそうに話していた」
「首都を出て、祠に向かった。東の祠への道は往来もなく、所々で途切れていた。森の木々は立ち枯れ、見かける田畑は水不足なのか、放置されていた。森を這いずるように進む老いた巨人に会った。祠への道で合っているかと尋ねたが、何も答えてくれず、泣きながら消えた。森の川には蛙の化け物もいた。妻のルサールカを探しているそうだ」
「一時間で着くと聞いていたが、祠には辿り着けず、何度道を変えても、鳥の様な足の生えた家の正面に出てしまう。仕方がないので、道を尋ねようと訪れると、綺麗な娘がいた。暫く話していると、魔女が帰ってくるから、と針に変身させられた」
「魔女が帰って来た。大きな鉤鼻、大きな口に乱食い歯。バーバ・ヤガーだ。『人間の匂いがする』と言いながらあちこち嗅ぎまわる。私は娘に庇われて三度は逃れたが、とうとう見つかった。臼に乗って追いかける魔女から逃げて、私は道を逸れ、森に入った」
「森に入った途端、誰かが私を見つめているのを感じた。何度も振り向いたが、誰もいない。気付いたら、すっかり迷っていた。水も糧食もなくなり、倒れかけた時に、泉を見つけた。緑の髪の美しい女が泣いていた。ルサールカだと名乗るから、『夫が探しているのではないか』と訊いたが、『自分達はたくさんいるから、誰のことか分からない。自分は結婚したことがない』と言った」
「彼女に連れられて、大きな樹の根元の祠に着いた。神秘的な場所だった。私は北の国でもこの樹を見たことがあるが、全く違う印象を受けた。祠には誰もおらず、扉も開かなかった。しかし、扉の前で祈っていると女性の声が聞こえた。『狼と吸血鬼に気を付けて』と。私はそれしか得られずに祠を後にした」
「ルサールカは泉を離れられないと言った。『誰も帰ってこない』と泣く彼女を置いて、私は森を抜けた。やはり帰り道でも視線を感じたが、今度は迷わずにすんだ。ルサールカに対策を教えて貰っていたのだ。靴を左右逆に履き上着を後ろ前に着ておけば、妖精レーシーの悪戯から逃れられるそうだ」
「私は、祠で聞いた『狼』には思い当たる事があった。ルー・ガルーだ。祖国で対峙することになるだろう。『吸血鬼』については首都に帰る前に、南の領国へ寄ることにした。首都で、噂を聞いていたのだ。領主の親族が血を求め、何十・何百人の死体が埋められたという。私は南の領国でダンピールを雇うつもりだ。彼らは吸血鬼を狩る事ができるという。私はダンピールを連れて首都へ向かった」
「その途中で、バーバ・ヤガーの家で庇ってくれた娘に出会った。私は彼女に誘われて屋敷に泊まり、そのまま囚われた。私は彼女の夫として過ごすことになりそうだった。しかし以前、家の精霊に貢ぎ物をしていたことで、彼女の弱点を教えて貰えた。彼女の心臓の場所を突き止め、彼女を倒した。屋敷から出てみると、そこはバーバ・ヤガーの家だった。バーバ・ヤガーは、彼女の見張りでもあったそうだ。隙を突かれて家を乗っ取られた、と謝られた」
「先に首都に向かったダンピールは、職務を果たしていた。領主の親族が吸血鬼だとの証拠を固め、彼を倒す準備ができていた。私は領主軍と共に彼を討ち、囚われていた長男とその家族を救い出した。領主を代行していた次男は寝込んでしまい、長男が跡を継いだ。私にできるのはここまでだと、私はアイオライトを去った」
ゆっくり目を開けると、机に肘をついて顔を覆うイアリロと、寝台に座り込むモコシがいた。
モコシが来たのには気付いたけど、イアリロが止めないのと、きっと助言を貰うことになるだろうからと話し続けていた。
モコシが持って来てくれたらしいお茶を飲んで、そのまま黙って待った。
「ルー、ありがとう。それと、ごめん」
暫くして、イアリロに声をかけられた。何を謝られるのか分からず、首を傾げた。
「親族についての預言は辛いだろうと想像していたが、こんなにショックだとは」イアリロが無理に笑って見せる。
「イアリロが泣かせてくれたから、大丈夫。イアリロも泣いていいですよ」
立ち上がって、頭を抱き寄せた。
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