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二幕~旅の仲間~七話「発情期?」

ご覧頂き、ありがとうございます。

二幕、一番の出来事? なのでしょうか。

耳・しっぽ、に押されているような……

「本当にごめん」イアリロが土下座してる。


 二人で小屋に帰るのには、不安が残ったけど。

 ここで信頼しなかったら、もうずっと、信じられなくなりそうだったから、頑張った。


「どうして嫌だって言ってるのに、やめてくれなかったんですか?」また泣きそうだ。

「分からないんだ」イアリロも憔悴してる。

「確かに、しっぽは前世から好きだった。飼い犬にも鬱陶しがられて噛まれるほど、触っていた」そこまで?


「でも、君が泣くのに気付けないほど、我を失うとは思えない。今までにも獣人とは会ったけど、あんなことはなかったし。一体、何が起きたのか……」

「また、起こるかもしれないんですか?」もう、嫌だよ。

「いや! もう、君を泣かせたりしない! 絶対に」

 イアリロは本気だ。それは分かる。けど、理由が分からないとなぁ。


「この耳としっぽ、ずっとこのままなのかな……なんで出てきたんだろ」

 ユグドラシルの前で、リュドミラの歌に癒されて、大切なものが返ってきた、と嬉しかったのに……返ってきたのが、耳としっぽ?


「ルー」イアリロが、俺を見つめてる。なに? 大丈夫だよね?

「三つある。まず、私は君に耳としっぽがあってもなくても愛している」すごく真面目な顔で言うから、少し笑えた。

「次に、経絡が開いてるよ。魔力がほぼスムーズに流れてる。あと、多分だけど、発情期が近付いてるみたいだ」え!?

「経路? じゃあ、魔法が使えるの? でも。発情期って何……?」混乱してる。


 イアリロが俺の頭を撫でようと手を伸ばして、俺がビクッとしたのに気付いて、その手を下ろした……もう! どん、とイアリロの胸に飛び込んだ。

「え?」イアリロのオロオロした声なんて、聞きたくないよ。


「抱き締めて。頭、撫でて。耳も触っていいから」また泣きそう。

 理屈になってなくていい。こんなのは嫌だ!

 そっと、イアリロの手が背中を抱いた。ゆっくり片手が頭に伸びて、撫でる。

 そのまま抱かれていた。


 落ち着いた頃にお湯が届いた。顔や体を拭いていると、食事はどうするかと訊かれた。

「他の皆は?」とイアリロが訊き返す。

 リュドミラは精霊たちと料理をしているから、そのまま食べる。ビプネンはまだ寝てて、ゴランは武具の手入れで手が離せないという。 

「少し雨がやんでいるので、濡れにくい場所に用意しましょうか?」と、外で食べることになった。


 ユグドラシルの影は暗く、ちょうど風も止んで、雨上がりで濡れた大地が音を吸うのか、しん、と静かな空間だった。

 イアリロは俺を片膝に載せ、片手を腰に回したままで食事をした。俺もイアリロに身体を預け、ゆっくりと食べた。


 食事が終わる頃、幼女姿のモコシが訪れた。

「リュドミラや妖精達から事情を聞いたわ。思い当たる事があるの」申し訳なさそうに話し始める。


「私は大地の女神で、豊穣と生産を司るの。東の祠での奉納歌はユグドラシルだけでなく、私達女神や精霊、聖獣達への祈りでもある。イアリロは場所によって『ヤロヴィト』『エロース』と呼ばれる豊穣神よね」

「エロース?」がっつり愛の神様だったの? イアリロは知ってたみたいだけど。


「そうよ、東の守護者は春を司るから、豊穣、植物、愛の神でもあるの。万物への愛を示すけれど、大地母神としては多産、つまり性愛の面が強いわ」

「つまり、私は奉納歌で性欲を高められた、ということですか?」そりゃ、イアリロも驚くよね。

 

「ルーにも影響したんだと思うわ」あの、返ってきたもの、のことかな?

「ルー自身が豊穣神でもある様だし、明らかに獣人の血を引いているわよね? 私達は獣人や家畜達の多産も祝福するの。獣人の成人祝いでは、発情期の到来を促すわ。獣人が初めて迎える発情期は激しいの。それ迄に番を見つけていれば、その相手を情熱的に誘うのよ」


 ……イアリロ、ごめん。俺が強烈に誘惑したってことか。しかも、俺はイアリロを番と認識してるってことだよね。顔が熱い。多分真っ赤だ。


「ルー、酷いことをした後だけど、ごめん、言わせてほしい」イアリロが俺の前に跪いた。真剣で、切羽詰まった顔だ。

「結婚してください、お願いだ。まだ早ければ、婚約でもいいから。君が誰かの番になるかもしれないと思うだけで、気が狂いそうだ」


 ……どうしたらいいの? クヴァシルもベスタも、リュドミラ達もいないところで、こんなことになるなんて。でももう俺の心というか、身体が決めてるんだよな。

「……はい、婚約なら」


 小さい声だったけど、聞こえたと思う。なのに、反応がないからそっと見上げたら、目も口も丸くしたイアリロがいた。なんで?

「い、いいの? 本当に?」

「本気じゃなかったの?」なんだ、冗談か……

「違う! すぐに返事が貰えるとは思ってなかったんだ!」すごい勢いで頭を振る。


「婚約してくれるんだね?」イアリロが深呼吸して、訊いた。

 顔がくっつく程近くで見つめられて、もう一度頷いたらキスされた。

 息ができなくてぐったりした俺を、イアリロが抱き締める。

「モコシ! やったよ!」恥ずかしいよ…… まぁ、いいか。イアリロの親代わりの女神なんだから。


「もう……そんなところはリンダ譲りね。彼女がミロスラフを口説き落とした時は、周囲の皆が驚いたものだわ」モコシは苦笑している。


「ただ、地母神である精霊が奉納に同席した時も、そこまで強い影響を受けことはなかったわ。あなた達が聖獣で番だからと考えても、疑問が残るわね。普段は春に受ける祝福を、この時期に受けた訳だし、落ち着くまでは注意して」真剣な表情だ。


「それから熊さん、ビプネンね。彼は少しここで休んで行った方がいいかもしれない。身体が度重なる祝福を受け入れるのに、時間がかかりそうだわ」

 うん、辛そうだものね。色々と激変させちゃったし、今回のも負担かけちゃったのか。悪いことしたな…… もし必要なら、冬眠させて貰ってもいいのかもしれない。


「そうか、ビプネンの戦力には期待していたんだけどな」イアリロはちょっと不安そうだ。

「それなら、ちょうどいいわ。あなた達と一緒に行きたいと言ってる子達がいるの」ん?

「誰です? どうして?」イアリロ、急に警戒しないの、怖いって。

「後で紹介するわ。また降り出しそうだから、中に入りましょう」モコシも苦笑いして答えてる。


 いない間に、妖精達が小屋を整えてくれた様だ。書き物をしたいと頼んだから、机と椅子、筆記具を置いてくれている。

 屋内に入った途端、風が強まったのを感じた。

 上の耳のせいか、経絡が開いたせいか、五……六? 感がより働く様になった。気配探知については『見込みがある』と褒めて貰っていたから、長所が伸びて嬉しい。


 イアリロは終始ご機嫌で、必ず俺の身体のどこかに触れている。独占欲も強そうだなぁ。タナトス様のことが言えなくなるよ?

「さっき言ってた子達には、夕飯後に大きめの小屋に集まるように言うわね。ビプネンはこのまま祠に居させるから」モコシも笑顔で出て行った。


 二人だけになった小屋で、イアリロに抱き締められた。このまま、ゆっくりと過ごしても良かったが、イアリロの腕を掴んで、じっとその顔を見つめた。


「イアリロ、話しておいた方がいいと思う事があるんだ」すごく言いにくいけど、早く伝えておけば、何か変えられるかもしれない。


 俺の気持ちが伝わったのか、彼は静かに聞いてくれた。『ネフライト物語』での『アイオライト』の話を。



楽しんで頂けましたでしょうか。

続けて読んで下さっている方々、本当にありがとうございます。

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