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一幕 始まりの村  一話「邂逅」  

ご覧頂き、ありがとうございます。

 よくある一日だと思っていた。

 ベスタ婆に命……頼まれた薬草採取をして、村に帰るところだったが、何だか呼ばれているような、変な気分が治まらなくて。立ち寄った池の傍で見つけた。


 緑の木々と夕暮れの柔らかい光が映る水面、長閑な風景の中に、突然の赤!

 うつ伏せの死体? だと思ったら生きてる!


 救命措置って、どうすんだっけ? 意識、呼吸、心拍の確認! 呻いた、息もしてる。とりあえず気道確保か? 手が震えて、力が入らないけど。何とか土に埋もれそうな顔を、そっと横向きにした。

 嘔吐して窒息しないよう、これでもいい筈。てか、これ以上は無理!


 喉元を楽に、ってコレ、どうやったら外れるんだろ。革鎧の紐をあちこち引っ張って、何とか緩める。

 背中に耳を当てると、心臓は動いてる。速いけど規則的。心臓マッサージは要らなさそう。

 

 一息ついて、止血できるかと出血場所を探すけど。あっちもこっちも血まみれで、さっぱり分からん。でも、流れ出してる様子はない。

 

 懐に持ってた布を池の水で絞って、顔を軽く拭いてみる。顔色は悪いけど、息は落ち着いてきたみたいだ。

 置いて行くのは心配だけど、どうせ俺一人じゃ運べないんだし、と立ち上がる。


「待ってて下さいね。人手が要るから、ちょっと離れます」

 まだ意識はなさそうだけど、一応声をかけて村に向かって走り出した。



「ルー、何を慌てとる」

「村長!」 

 ギックリ腰の件を思い出した俺は、村長の家に向かっていた。確か去年ゴラン爺の為に作った担架が、村長の家の納屋にしまってある筈。


 普段からあまり喋らないようにしてる(色々ボロが出そうで)し、慌ててるしで、言葉が出にくくて説明には苦労した。


 全力疾走した俺は担架も持てず道案内がやっとで、村に帰った途端へたりこんだ。

 村の爺さん達は殆どがマッチョで、搬送はスムーズだった。

 羨ましくなんか、ないんだからね!


 村に着いた担架は、待ち構えてた薬師のべスタ婆達に取り囲まれた。よく見えなかったけど、血だらけだったんだから結構な怪我をしてるだろう。

 休んでろ、と脇に放りだされて、暫く寝転んだり水を飲んだりしてたけど、落ち着かない。あの人の事が気になる。


 村長の家を覗きに行った。

 この家だけは、柱を角に立てて壁で囲ってある。屋根は藁だけど。三部屋あって、村外の客が泊まる時や怪我人が出た時に使う。

 他の家は真ん中に柱を立てて、藁で円錐形の屋根をかけ、壁も藁で円柱状に囲ってあるだけだ。遊牧民っぽいと思う。


「あの人の怪我、大丈夫そうですか?」入口に顰め面で立ってた村長に訊く。

 婆さん達が桶やら何やら持って、出たり入ったりしてる。裏の竈からも煙が立ち上ってる。処置中らしいな、まだまだ掛かりそうだ。


「足の骨は折っとるけど、他は大きな怪我じゃないらしい。ほぼ返り血じゃな」村長の声は落ち着いてる。慌ててるのを見た事ないけど。

 あれが返り血って……怖ぇえ! 結構な数を相手にしたって事なんだろうか。


 でも薬草を取ってた間、戦闘の気配は感じなかった。骨折してたら、そう遠くまでは移動できなかっただろうし。何だか違和感がある。

 何も気付かなかった事で、師匠の拳骨は確実かな。今から頭が痛くなってきた。

 

 拾った……お兄さん? を担ぎ込んだ時、師匠のクヴァシルが慌ただしい様子で帰ってきた。

 村長達と険しい顔を付き合わせてたと思ったら、数人ずつ纏まってまた出て行った。

 この辺りで群れで襲ってくるのは狼の魔物か。追撃を警戒して見回りに行ったんだろうな。


 複数を相手にして、怪我をしても逃げきるなんて、あの人凄く強いんだ!

 背は高くて筋肉質だけど、身体は細身って感じるくらいだった。師匠達ががっしりしてるだけかな?

 顔は汚れててよく分からなかったけど、肌とかキレイだったし。


 ぼうっと突っ立って考えてたら、村長にじっと見られてた。

 憶測を話してくれる人じゃない。何も教えて貰えないんなら、大人しくできる事をしとこう。

 俺は会釈して、村囲いの柵を補強してる爺さん達の手伝いに向かった。



 俺はルーグ。ルーと呼ばれてる。もうすぐ十八歳だ。この村はヤレムチェ。俺の他は全員が年寄りだ。

 子供は別の所に居るのかと思ってたけど、そんな様子もない。子供どころか若い夫婦すらいない。

 

 俺の親はどうしたのか、なんでここにいるのかと思ってはいたが、なんて聞いたらいいのか分からなかった。


 そのうち、俺の肌が浅黒いと分かって、聞くのを止めた。肌の色はみんな白く、髪は濃い色が多い。俺の髪は白に近い薄金で黒いメッシュが入っている。こんな色の組み合わせなんて、前世の映画くらいしか見た事がない。


 きっと誰かが捨て子でも拾って来て、過疎化が進んだこの村で共同で育てることにしたんだろう。一度、ベスタ婆が言いにくそうに何か話そうとしてたから、逃げ出した。聞かなくても困らないしね。


 転生したって気付いた時、周囲が年寄りばかりだから

「またお世話すんのかよ」とか思った。けど、赤ん坊は面倒をみて貰う側だよな。


 年寄り達に負担掛けちゃいかん、と、随分我慢してた。夜泣きはしないように、とか。結局オムツかぶれでギャン泣きする事になったけど。

 あんなに痛いもんなんだな。介護現場では親身になれなくて、申し訳なかった。


 その後、オムツは泣いて知らせるようにしたんだが、それでもあまり泣かない俺を心配して、爺さん婆さんが交替で添い寝してくれて、反省した。

 その添い寝がずっと続いたから、本当に後悔した。爺さんも婆さんもイビキだの寝っ屁だの、うるさいんだよ!


 秋冬は人のこと、抱き枕にしやがるし。婆さんってなんであんなに足が冷たいんだ?

 今年も秋風が吹き出したし、温石(焼いた石を布でくるんで暖を取ってる)は使いにくい。湯たんぽの材料とかないか、と思って、何でどう作んのか、想像もつかない事に気付く。理系じゃなかったしな、役に立たねえよなぁ。


 そんなこんなで、結構大事に育てて貰った。 

 五歳の祝いに一人の寝床を要求して、随分渋られたけど、もぎ取った! それからは、クヴァシル師匠の部屋の隅で寝てる。

 もう思春期に入るだろうと思ってるんだけど……まだ、問題は起きてない。いくらなんでも遅いだろう? 誰にも相談できないし、結構悩んでる。


 その後の誕生祝いは、六つで小刀、八つで弓矢、十で短刀、十五で剣ときて、今年は何がいいかと悩んでたが時間切れらしく、選択権はない、と言われた。


 こっちじゃ、誕生祝は生まれた季節毎に纏めてする。俺は秋生まれだから、秋分の日に「収穫祭」と兼ねて祝う。あとニ週間くらいだ。

 十八で成人だからと、俺をダシにして、例年より盛大にしてくれるらしい。婆さん達がご馳走の相談をしてた。普段は粗食だし、娯楽が少ないから皆が楽しみにしてる。


 この騒ぎが早く収まってくれるといいけど。どうなるのかな。

 結局師匠達は獣も魔物も戦いの跡も見つけられず、暗くなって帰ってきた。そのまま、火を焚いて警戒してる。

 

 今日はずっと、気持ちが落ち着かない。

 肌身離さず持っておくよう言われて首から下げてる、守り石が入った小袋を握りしめる。


 自分が見つけたくせに、あのお兄さんに文句を言いたくなってきた。疲れてるのに気が昂ぶって、なかなか寝付けなかった。

 やっと寝れたのに、前世の夢をみた……余計に疲れた。


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