二幕~旅の仲間~三話「待ち伏せ」
ご覧頂き、ありがとうございます。ちょっと長くなりました……。
✳戦闘シーン、少しグロあります。苦手な方はご注意下さい✳
エライ目にあった。昨夜、経絡を確認する、とイアリロが言うから、大人しくしてたら、もう!
ちょっとだけ、大人の階段を登りました。長年? の不安は解消したけど……
「おはよう」チュッと俺にキスするイアリロ。いい笑顔だね。イタイケナ少年に、ちょっと酷くない?
顔に血が登るのを我慢して、ヒュプノス様を見習って、上目使いで睨んでみた。
鼻を押さえて、逃げて行きました。思ったのとは、違う効果があったようです。
林の中の道を歩く。暗い森より、光が差し込む分、長閑な雰囲気だ。鳥の囀りや虫の羽音、川のせせらぎが馬達の足音を消している。
俺が崖から落ちたせいで予定外のルートを通っていると、イアリロが言い出した。
「ちょっと、確認したい事があるんだ。なんだか気になる気配がして」更に予定外になるけど、東の祠に寄ってみることになった。
さっきウロスが木から飛び降りてきた。ちょっと驚いたのは俺だけで、皆は気配で分かってたらしい。
今はイアリロの肩の上で、機嫌良さげに尻尾を揺らしている。
気配を感じようと周囲に注意を向けたのが分かったのか、イアリロが笑いかけてくれる。
ウロスがチチッと鳴いて此方を見る。馬鹿にされてる気がするな。イアリロが苦笑してるから、当たってる筈。
ふん、俺も経絡が開通したんだから。練習するぞ!
朝食を食べながら、はぐれた時に思ってた事を頼んでみたんだ。火起こしが無理でも念話は覚えたいって。
「うん、魔力の流れが少しスムーズになってるね。じゃあ、とりあえず見えない相手を認識するのが第一目標だね」イアリロが暫く俺を見つめて言った。
リュドミラも頷いてるからホッとした。夜のマッサージで、あんな恥ずかしい思いをしたんだから。いや、思い出さない!
「そうだな、簡単な事から始めよう。ルーは今までも周囲の気配を探ってたよね?」うん、そう教え込まれたから。
「でも、これから戦うのは殆んど魔獣だ。種類によっては、魔力で自身や仲間の気配を隠す事がある」そうだ、クヴァシルにも注意された。
「まず普段の気配探知に、魔力を乗せてみよう。自分の身体のどこかから伸びる、細い糸か薄い網をイメージする。ルーなら光の網がいいだろうね。気配を探る思念にそれを薄く被せて、自分の周囲に広げていくんだ。なんの力もない、ただの魔力の網だよ?」食事の手は止めずに集中して聞く。ビプネンも真剣な顔で聞いている。
「目を閉じたり、五感を遮断しちゃダメだ。瞑想は周囲の安全が確保できる時にする。普段の生活で補助的に使うと、調整力も鍛えられるんだ。強い魔法を使う時にも成功率があがるよ」分かりやすいね、リュドミラも感心してる。
「ありがとう。やってみます」小さい事からちょっとずつね!
指先から広がる光のベールをイメージする。透ける様に薄くて羽より軽い。触っても感じないくらい。大きさは一M四方、一Mくらいの高さでゆっくりと広げていく。
因みに、この世界の長さの単位はメートル法同等で、英語の頭文字で表記しアルファベット読みだ。本当に助かってる。フィートとかヤードとか、俺には覚えられそうにないもの。転生者が広げたんだろうね。
網ができた。馬は嫌がってないし、そっと指で触れても、何も感じない。反対に頭には触れられたとの信号が届く。なるほどね。ではドーナツの様に、俺を中心に半径五Mは空けておく。そこから半径十Mの円を描き、高さは五十CMで固定する。ふむ、皆の馬の身体を感じるね。
途中でイアリロがウロスを下ろした。
そのまま暫く、静かに進んでいたが、ビプネンがそっと片手を挙げ、皆で停止する。
何か、おかしい。魔法の網を十Mの高さで半径一KMに広げても木々と虫らしい存在しか感じられないが、なんだか静か過ぎる。魔法の網の高度をゆっくりと上げていく。
いた。確認の為にも小声で報告する。
「北東へ五十M、高さ五十Mに猿型の魔獣が十五匹。体長は八十CM程度、武器はなし。こちらを警戒しているが、よく見えない様子」イアリロが頷く。
「よし。ちゃんと見つけられたね。木の葉を増やして隠して来たが、ここが限界だ。気付かれる前に一気に叩く」各々弓矢を構える。ゴランは長弓、他は半弓だが十数Mは飛ぶ。
「向こうは固まってる。こちらが三十M程真っ直ぐ進んだら、視認できるよう葉を枯らす。二Mほどの間隔で散開し、一度自身の位置から真っ直ぐ北東を見てから、木から降りようとするところを狙ってくれ」イアリロが静かに指示する。
いつもと同じ。狩りだ、と自分に言い聞かせる。的が小さいから、打ち損じてもどこかに当たる胸を狙う。猿型の魔獣は騎乗のまま静かに前進し、馬を止めて射つんだ。
「前進」急襲成功! 当たった、筈なんだけど。悲鳴はしたが落ちて来ない。
「木に拾わせてる。次を狙え」嵐の時の様な葉擦れの音がして、新たな姿が見えた端から、矢が突き立つ。
ゴランとリュドミラは村で一・二位を争う射手だ。射られて落ちかけた猿が枝に吊るされ、締め上げる枝から逃れようともがくのを仕留める。
ノルマの三匹は片付けたと思う……けど。致命傷じゃなくても、木が始末したかな。
「なぜ、こんなところで待ち伏せる? 何が狙いだ?」イアリロが、自分に問いかける様に呟く。
「祠までどれくらいかの」リュドミラの呟きに、
「北へ三KM程です」ビプネンが先を見つめながら答える。
「もう一群れいる。見つかってはいないが、警戒されている」ゴランが長弓を構えたまま言う。剛弓だ、遠矢でも効く。
「北へ一KM先、正面に狼が三十匹。大きい!」俺も魔力の網を広げて確認、報告する。かなり手強そうだ。音が届いたんだろうな、こちらを見ている。
イアリロが頷きながら考えている。
「気を引いて分断させるか?」ゴランは周囲の地形を確認している様子だ。
「北西二KM程先にウロスが狐二匹を誘導して来た。もうすぐ木立が途切れ、街道に出る。その先は遮蔽物が殆んどないから、木立の中で迎え撃ちたい」ウロスを下ろした時点で仕掛けて始めてたんだな。
「五匹くらい行ってくれると、ありがたいすね。けど、こちらもばれてますね」ビプネンも冷静だ。
「今のうちに前進して二方向に偵察を出させれば、三つに分散させられるかもしれない。ビプネンの馬に荷物を移せ。馬達はここで待たせよう」ここから先は、足と運次第か。
「走れ」音は気にせず速度重視だ。弓を構えながら走る。どうせ向こうから来る。
木立が途切れる前に狼の咆哮が響いた。
来た! 止まって矢を放ち、木を盾にできる位置で次の矢をつがえる。五匹は倒れたが、続々来る。
狙いをつける間がない! 一旦弓を背中に回し、矢を右手で握り、左手でブーツに仕込んだ短剣を引き抜く。
木立に走り込んで来た一匹を、イアリロの槍が伸びて先制する。魔道具だ。
俺の目前に二匹目。口に矢を突き込んで仕留めた。
咆哮が近付いてる。あと十五、二十か。こちらが本命だとバレてるな。
ビプネンが光り、熊の姿でとび出した。
数匹が矢を受けて倒れた。ゴランかリュドミラだ。ビプネンが五匹ほど引き付けてくれてる。数匹が蔓や木々に捕まった。何とか一対一で対峙できそうだ、落ち着け。
木陰から顔を出すと開いた口が迫る。短剣を投げ込むように差し入れ、横に避ける。木にぶつかって倒れた。
蔓が捕まえていた二匹が立ち上がった。煙が見える。火魔術で焼き切ったのか? 魔術使いがいる!
次が来た。背負っていた刀を引き抜きざまに、顔を切りつけた。また咆哮が聞こえる。指示か、鼓舞しているのか? 片目から血を吹き出して飛びかかってくるのを、頭を下げて踏み込み、横腹から切り上げる。仕留めた。
木陰に跳び下がる時に、リュドミラが視界に入る。二匹に狙われていた。
「目を閉じて」大声で叫び、二匹の眼前を狙って魔力を放出する。閉じた瞼に光が映り、
三つ数えて残光の中を、木陰から飛び出す。
通り過ぎようとしていた首に刀を振り抜いて、リュドミラの方へ跳ぶ。
無事だ! 一匹の目に矢を突き立てている。もう一匹は倒れて暴れていた。蔓が脚に絡み付いている。腹から刀で切り上げた。
咆哮に振り返ると、一際でかいのが後ろ脚で立ち上がる様に、イアリロに飛び掛かって行く。
腰の剣を投げる。横腹に刺さったか。一瞬でも気が逸れれば!
イアリロの槍が片眼に刺さり、駆けつけたビプネンの爪が脇腹を切り裂く。耳をつんざくような叫び声が響き渡る。
ゴランの矢が三本、続けざまに口内に突き立ち、残響の中で、ゆっくり倒れていった。
視界に動くものはない。五人ともその場にへたりこんだ。
荒い息を整える。暫くは動けない。ビプネンも熊のままで倒れてる。
ウロスが飛び込んで来た。懸命にイアリロに呼び掛けている。
「分かった。ちょっと待っててって伝えて」また、走り去った。
蔓が周囲の死骸を引いて行く。武具は置いていってくれて有り難いが、肥料にでもするんだろうか。
「今、血の匂いで獣達に寄って来られたら、辛いからね」全くです。ありがとう、と会釈しておいた。
ビプネンの馬が寄って来た。何とか立ち上がる。背中の荷物を下ろして、皆に水を配る。
「ありがとう、皆を連れて戻って来てくれるかい?」イアリロが馬に話しかけてる。
「凄い」小さく嘶いて立ち去る姿を見送りながら、感心するしかない。
「そうだろ、彼女は本当に賢くて勇敢なんだ」イアリロ、嬉しそうだね。
俺はイアリロを凄いと思ったんだ。五歳違いか。少しでも、差を縮めたいな。
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✳二話と三話の間で十八禁の閑話があります。二幕修了時にR十八ナイトに投稿予定です。本日、一月二十日夜掲載します。ムーンOKの方は、作者名shirokumaか白虎の冒険で検索してみてください✳