二幕~旅の仲間~ 二話「変化:へんげ」
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ビプネンが光ったと思うと、熊になった。ちょうどビプネンに追い払って貰ったヒグマくらいの体格だ。
戸惑ってると、ビプネンも自分の体を見て驚いたらしい。四つ足で川へ行って、姿を映してまた驚いてる。
そこへ、イアリロ達が到着した。ゴランが弓矢を構えたけど、
「大丈夫だの」リュドミラ様、さすがです。
「ビプネンだよ」イアリロは一瞬も躊躇わない。
イアリロが騎乗のまま駆け寄って来て、ふわりと降りたと思ったら抱きしめられてた。
「ホントに大丈夫なんだね?」あぁ、分かってくれたんだ。良かった。あの後、少し気配が落ち着いたから、伝わったのかも、と思ってた。
「泣かないで」顔を覗き込むと、ほろほろと涙が零れてる。泣き顔も綺麗だ。そっと指で拭うけど、きりがない。
肩に手を掛けて、軽くキスした……ら、軽くですまなかった。まぁ、心配かけたもんな。
川面を覗き込むビプネンの肩が、ちょっと下がっている。
イアリロが俺を抱いたまま、その背に近寄って行く。
「ちょうど良かった」俺と(多分)ビプネンが驚いて、イアリロの顔を見つめる。
「ビプネンの本体は、この姿だよ。強そうだね」
「え?」(多分ビプネンも)仰天した!
「だって、人外の力を発揮するんだよ。本体が人間のままじゃ、無理だろう」なるほど、と、ビプネンと顔を見合わせて頷く。うん、表情くらいは読めそうだ。
「人なかで急に変化したら驚くだろうから、一度戻っておいた方がいいと思ってたんだ」そっかぁ。
「ビプネン。こんなことになって、本当に後悔してない?」ビプネンは首を傾げて、ちょっと考え、ふるふると頭を振った。
笑っているんだな。甘える様に頭を寄せるから、耳の周りを指先で掻くように撫でてやった。気持ち良さそうにしてる。
イアリロ、その羨ましそうな顔は、どちらの意味? ビプネンなら、撫でさせてくれると思うけど?
「ここなら誰も来ないだろうし、少し動いてみたらいいよ。慣れておかないと、本体でないと対応できない時に困るから」イアリロの言葉に、はたと気付いた様に、真剣な目になった。
俺を見て頷くと、川岸をゆっくり歩き出し、徐々にスピードを上げる。もう原付くらいの速度は出てるぞ、凄いな。
「『広い額を持ち陸に棲み、草原の足といわれる』だったか。その通りだの」リュドミラが傍に来て、頭を撫でてくれる。
「心配したで。大丈夫やの?」じっと見つめられる。無理してないか、と思われてるな。
「ホントに大丈夫。落ちる先々で枝葉が伸びて、まるで受け止めてくれるようでした」イアリロを見る。ホッと、息を吐いていた。
「上手くいって良かった。木々を操る魔法は、見えないと微調整が効かないから、私の番いだから守って、とだけ頼んだんだ」俺、愛されてるなぁ、と顔が熱くなる。
守ってくれた木々にも、ありがとう、と呟いておく。
リュドミラは、やっと笑顔で頷いてくれた。
「ふむ。そういうことか」黙って聞いていたゴランが、口を開いた。
「あの高さから落ちて、どうしたら無事でいられるのかと思ったぞ」ふっと表情と、組んでいた腕を緩めて、ぽん、と俺の頭を叩く。
「クヴァシルや村長に殺されずにすんだ」大袈裟だな。
俺の後を追って飛び降りようとしたビプネンをイアリロが呼び止めて、二人の荷物と蔓を持たせたらしい。
ビプネンは蔓を頼りに崖を下り、川岸を走って追ってくれたって……凄すぎる。
後はイアリロが俺の気配を辿って、三人で崖上から川へ向かって降りて来てくれた。なかなか馬が通れる道が無くて困ったけど、ビプネンの乗馬が助けてくれたそうだ。
俺を振り落とした馬も無事だった。首を撫でると、謝る様に俺の胸に頭を擦り付ける。
「大丈夫だよ。お前も怪我がなくて良かった」馬の目って、キラキラして可愛いなぁ。
今日はここで泊まることになった。念の為に、鉄砲水で流されない高めの場所で天幕を張る。一人か二人用の簡単な物を三張り。ビプネンとゴランは見張りを夜半に替わり、交替で使うらしい。勿論リュドミラは一人、俺はイアリロと一緒。もう数える必要もないらしい。外堀はすっかり埋もれちゃったなぁ。
食事の支度ができた頃、ずぶ濡れの熊が帰って来た。ちょっと面目無さそうだから、失敗したのかな。ちょうどいいや。
「イアリロ、俺は火魔法って使えないかな?」
「うーん……少しならできるかも。ルーか得意なのは、光と風の魔法の筈だけど」
「じゃあ、温風でドライヤー魔法」クスクス笑いながら、ビプネンの方へ片手を出して、温かな風が出るイメージをする。当たり前だけど、何も出ない。
「気にしないで拭いてあげてください」布を持って近寄りかけてたリュドミラが振り向くから、笑って言った。
「魔法は本体での方が覚えやすいし、使いやすいんだ。力の道が通りやすい、というか」イアリロが考えながら言う。
「私達は三人とも生まれて暫くは本体で過ごして、その時期に魔法を使っている。殆ど本能的に発動したんだろう。『最初』がどんな感覚だったか、全く覚えていないんだよ」
がっかりした顔を見せたんだろう、イアリロが頭を撫でて、笑って続ける。
「でも、代々の聖獣には色々いてね。生まれた時から死ぬまでの八百年、一度も本体にならなかった玄武がいたそうだ。彼は北斗聖君を名乗り、誰より魔法に長けていた。彼は最後に『しまった、本体になってみるのを忘れていた』と言ったらしいから、特に困ることもなかったんだろうね」クスクス笑う。
「ルーの魔力はさっきも発動し掛けていたよ。リュドミラが振り向いたのがその証拠だ」そういえばそうだ。声が聞こえても何の事か分からないだろうしね。
「勝手に発動したこともあるのに。意識的に使う部分で、力が通りにくい所があるのかもしれないね。夜にでも、経絡を確認してみよう」イアリロが一人で頷いてる。
よく分からないけど、魔法にもツボみたいなのがあるのかな。
濡れ熊がまぁまぁ普通の熊になったらしい。
イアリロに手を引かれ、ビプネンの傍に行く。
「ルーの力は使わないでね」念押しされる。はい、前科がありますから。
「ビプネン、目を閉じて。よく着ている服を思い出して。そうだ、兵団の練習着の上に、長めの茶色の上着を着てるね」うん、今日も敷いて寝かせて貰ってました。
「今日はそれを着て、市場に行こう。確かヘラ鹿が迷い混んだとかで、肉が食えそうだ。あぁ、塩漬けニシンかい? あれはそうそう手に入らないよ。代わりにベリーはどうだい? この間、酒より恋しいって言ってたから探してたんだ」
フワッと光が広がって、人間のビプネンが立っていた。ほぼ熊になる前の服装だ。
「タピオ、ベリーは?」情けない顔をしてる。
「探して貰ってるよ、帰ったら食べられるかもね」イアリロがちょっと可哀想な事したな、って顔をしてる。なるほど甘党なんだね、可愛い熊だ。
よっぽど期待したんだろう、がっくり肩を落としてるから、背中を撫でてやった。頭には手が届かない。
こちらを見て笑ってるから、ちょっとは役に立ったかな。
かなり遅めの食事になった。豆と野草に燻製肉を入れたスープと、硬く焼いたパンだ。少し焙って、バターを擦り付けてある。リュドミラは簡単な物でも美味しくしてくれる。きっと村長は、食事の度にため息を吐いてるだろうな。
「本体だと、どうだった?」イアリロが、必死に食べるビプネンに問いかける。
「確かに、慣れが必要そうですな。もっと速く走れそうなんですが。曲がり損ねて川に突っ込んだんですわ。体が重いので、急には止まれず曲がれません」
ちょっと笑いそうになった、イアリロと俺を不思議そうに見る。ごめん、転生者ジョーク(古い)です。
「また練習したいですな」ビプネンは真面目だ。
「そうだね、私達より小さいから、急な時に変化してもらいやすいよ」
「え?」二人で驚いて、イアリロを見る。
「あぁ、ルーは今はもう少し小さいかも。でも、いずれはベスタくらいになるよ。調整はできるけど」
最近毎日、驚いてばかりだ。
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