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一幕 始まりの村 十話「収穫祭」後編

 ご覧頂き、ありがとうございます。

一幕はもう一話、エピローグで終了です。

 日が沈みかけた瞬間、黄金色の耀きが空から注いだ。ちょうど宴席へ移ろうとしていた俺達は、眩しさと暖かさを感じて空を仰ぎ見た。


「ヒュプノス様だね」

「あぁ、ルー達を祝ってくださっている」

「お二人のことも喜んでおられる様ですよ」

 ベスタとクヴァシルが俺達を目を細めて見てる。やっぱり孫扱いだなぁ。

 その二人も穏やかな光に包まれている。


「皆、ヒュプノス様に会ってるんですか?」

 神、凄いな! この世界の人間が数えられただけでも、五千年はたってる筈なのに。時間の流れが違うせいかな?

「来られているなら、今夜お会いできるかもしれないよ」

「そうだな、初めてお会いするのは、成人の年のことが多いようだ」

「わたしはもう少し早かったけど」


 のんびり話しながら歩き続けてるけど、周囲の人々は神秘的に感じたらしく、次々に跪き、俺達を拝んでいる。

 戸惑って立ち止まりかけた俺の肩を抱いたイアリロが、微笑みながら歩き続けるよう促す。気にしない方が良いってことだな。


「今日はお一人かな?」

「いや、付いてきてるだろう」イアリロの問いかけに、クヴァシルが断言する。

「真っ最中に出くわしちゃったのよ、衝撃的だったわ」ベスタは頬を赤らめている。

 何の話だろ? 首を傾げる俺の頭を、ため息を吐いたイアリロが撫でる。

「お会いすれば分かるよ」


 村の婆達が何日もかけて作ってくれたご馳走が、所狭しと並べられている。

 小麦とライ麦の酸っぱいパン、黍粥、ギョウザの様に野菜を包んで茹でたヴァレーヌク、ひたすら煮込んでたボルシチっぽい野菜のスープ、これがないとね、豚の脂身の塩漬け・サーロ。


「遠慮せんと取りや」

「あんたらが取らんと儂らも取れんでな」お皿を渡された。基本手づかみで食べる。けど、ベスタが煩く言うから取り分けには匙を使うし、皆も食事前の手洗いを徹底してる。

 転生者と聞いてすぐ、この手洗いと浴場に思い当たって納得した。


「お、蔵出ししたのか」クヴァシルは嬉しそうに酒のコーナーに直行した。

 こちらでも麦酒はあったけど、クヴァシルがあれこれ口を出して、この村のビールは辺りで一番の出来らしい。

「今日出さんでいつ出す!」ゴラン爺のあんな笑顔も珍しい。

 ありゃ、あのまま酔い潰れるな。ベスタと顔を見合わせて苦笑する。


 そのベスタは婆達に袖を引かれ、囁かれて真っ赤になった。助けを求める視線は見なかったことにする。

 どこの世界でも年を取ってても、女性は恋愛トークが好きだ。邪魔はしないよ、前世のおばちゃん達にも教育されましたから。


 夕闇が降りてきてかがり火が映えている。朝夕は寒いくらいだけど、今日は少し暖かい。

 あぁ、いいお祭りだなぁ、と嬉しくなった。


 前世でも、お祭りが好きだった。近所の縁日に小銭を握って出掛けては、射的に金魚すくい、りんご飴にカステラ焼き、と満喫してた。あれ? 何を祀ったり祝ってたのかは全く覚えてないな。


 もう一つの楽しみ方、カップル(アベック? の方が古いよね? ホント、前職のおばちゃん達のせいで、語彙がごちゃごちゃだ)でイチャイチャ、は碌にできてなかったんだけど……


「ほら、アーンして?」

 料理の皿を抱えて椅子に座った。イアリロの足に配慮してだろうけど、周囲から丸見えで恥ずかしい。

 イアリロやり過ぎだってば! 皆も微笑ましいって顔で見守るのは止めてー!


 村の婆達の心尽くしの料理は、狩りの成果や畑の作物や近くで取れる香草が材料だ。今日は貿易で手に入れた塩や胡椒も使って、美味しく仕上げられている。


「うむ、タピオは本当によい伴侶を得られた」ビプネン、頷いて感心してるけど、いったい今の状況の何を言ってるんだろう。


「ビプネンはかなり酔ってるよ。もう少しで倒れるから、適当に答えていいからね」耳元でイアリロが囁く。もう近いって!

 ちょっと睨んでみたが、全く堪えてない様子だ。


「ビプネン殿、タピオとミエリッキとは、どんな神様かの?」やはり頼りになるのはリュドミラ様だ!

「おお、よくぞ聞いて下された! タピオとミエリッキは森の動物達の保護者であり、わっしらは狩りの前にかの方々に祈るのだ。更にミエリッキは、広い額を持ち陸に棲む、わっしらの祖先の創造主でもある」ビプネンは滔々と語った。


「おお、そうか、そなた等の祖先の。儂らにはそれでは分からんが、もう少し教えては貰えんか?」

「巫女殿のお尋ねなら、お答え致しますとも。わっしらの祖先は草原の足ともいわれる、熊であります」

 おお、と周囲がざわめき、ビプネンはその反応に気を良くしていた。確かに熊っぽいよなぁ。

 けど、ビプネンの願いってのは分からなかったな。熊にしろって言われてもできないだろうし。……できるのかな?


「面白いお話をありがとうございます」

「いやいや、これからの旅もご一緒しますしな」あれ? ビプネンも一緒に行くのかな?

 こっそりイアリロに訊くと

「神官に任命してすぐに離れる訳にはいかないよ。実際、頼りになるしね」小さな声で答えてくれる。


 ついでのように食べ物を口に入れられた。

「美味しいね」イアリロは嬉しそうだ。 

「イアリロは、お祭には行ったことないんですか?」

「偉そうな顔して笑ってなくていいのには、ね」


 そういえば、ビプネンが上司に対する挨拶をしてたから、あれ?と思っていたんだ。

「偉いんですか? 団長とか?」イアリロが吹き出した。ビプネンにも聞こえたらしく、ちょっと笑っている。

「私はまだ入団して五年だよ。早い方だけど、中隊の副長になったところだ」まだ笑ってる。

「部族長の子どもだからね。読み書きが出来ると、事務方として副長になる事が多い」


 首を傾げたままの俺に、イアリロが説明してくれる。

 ギリシアの重装歩兵隊を基準に編成したそうで、十二人で一組、三組で小隊、四小隊で中隊、六中隊で大隊で、部族の人数によって、一中隊から五大隊程度の戦力を持つそうだ。

 てことは、中隊は百四十四人? 大所帯じゃないか。


 ビプネンが静かだと思ったら、もう船を漕いでいた。周囲の騒ぎも気にならないようだ。なら、聞いちゃおう。


「ドラガンっていう人が、囮になってくれた人ですか?」

「そう。師匠というか、守役というか。ルーにとっての、クヴァシルやゴランみたいな存在だよ」本当にホッとしたんだろうな、素敵な笑顔だ。


「ビプネンには煙たがられてるみたいだけど」

「兵団のほぼ全員がそうだよ、私も含めて」クスクス笑ってる。

「でも多分、ルーは大丈夫。小動物好きなんだ。ウロスを見る度に、撫でたがって手をもぞもぞさせてる。本人はバレてないつもりなのがまた、面白いんだ」また笑ってる。……てか、小動物って。


「それと、教えて欲しいんです。俺達の寿命ってどれくらいなんですか?」

「あぁ、そうか。言ってなかったね。黄龍は不老不死だけど、私達聖獣は五百~千年。玄武は長寿な場合が多い。精霊は五百年程度で、加護を付与する神次第だ。人間は六十~百年、獣人は五十~八十年位だね」


 少し寂しそうな顔で続ける。

「人間を伴侶にした聖獣は、伴侶の子どもを望んだり伴侶と一緒に黄泉路に向かう為に、早世することが多い。私の母は二百才を過ぎたばかりだったよ」


 と、急にニヤリとして、付け加えた。

「口止めされる前に言っておこう。私は二十三才だが、ベスタは百・クヴァシルは三百歳を越えているよ」

 開いた口が塞がらないよ!

 

 楽しい収穫祭は、衝撃の幕引きとなったのだった。


 拙い作品を続けてお読み下さった方々、ありがとうございます。一幕が終わると、いよいよ冒険に……出ます! 詐欺じゃないです。

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