22話 ゴブリンの巣
「私達は一応近くにいるわ、もしあなた達が絶対に倒せないような魔物がいたら手助けすることにするから」
「わかった、ありがとな」
「弦張った?」
「あぁ、準備万端だ」
「よし!じゃあ行こうか、ゴブリンの巣へ案内するよ」
「陣形みたいなの決める?」
「俺の武器を使うときにあんまり近くにいられると攻撃できそうにないからな、俺が一番前になるから、エリーは俺が狙ってる奴以外のやつを斬りに行くか、俺と戦ってるやつを牽制してほしい」
「わかった、もしラドに何かあったら前線は僕が代わりに立て直すよ。」
「あと私達が弓、クロスボウで攻撃するときに射線にいられると撃てないから、俺達が基本移動するが、少し退いたりしたいんだったら、射線をかぶらないように斜めに走って下がってきてくれ」
「敵を見つけるまでは、僕はラドの後ろにいてハインツ達を守るように動くよ」
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陣形
ラド
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エリー
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ハインツ イント ケンズ
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「それがよさそうだな、近接戦闘を覚えたとしても、やっぱ前衛の武器を持った奴の方が咄嗟の戦闘には役立つのは間違いないだろうし」
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「着いたね、でも道中なにも魔物がいなかったけど、そんなに沢山出現しないのかな」
「どうだろうな、黒狼神がゴブリンに襲わせたとか言ってたから、本来そんなに戦うもんじゃないのかもな」
「あー女の人いたー」
茶色の長髪、汚れて黒く見える、どれだけ長いことここにいたのか想像もつかない
女は立っていた、というより立たされていた。木の板に手の真ん中に木の杭を打たれて
「貼り付けされたイ〇スキリストみたいになってるよ、早く木の杭を取ってあげなくちゃ」
ケンズが女を助けようと前へでる
「ケンズ、なんかその女おかしくないか!?」
エリーが叫ぶ
「おかしいもなにも、貼り付けられてるんだからそりゃおかしいよ」
ケンズはおかしいことしかないのに、なにがおかしいのか理解できなかった
「そういうことじゃ」
エリーが途中まで言いかけたが、もう遅かった
ケンズが女まであと4歩のところで異変は起こった
女の腹が動き出し、腹の中から紫色のゴブリンが赤黒い液体と一緒に飛び出てきた
今思えば、貼り付けにされている女も紫、ピンクっぽい色をしていた
「ゥッ・・・」
ケンズが声にならない声を出しながら尻餅をつく
しかし、しっかりクロスボウへ矢は装填されていた
尻餅をつきながら右手を伸ばし、右手だけでクロスボウを構え、空中から襲ってきている紫ゴブリン目掛けて矢を撃ち放った
矢はゴブリンの横っ腹をかすり、女だった物の顔へ突き刺さった
ケンズはクロスボウを手から離しナイフを取り出そうとするが到底間に合わない、もう紫ゴブリンはケンズから1mも距離が開いていなかった
ケンズが再生能力に頼り回復するために、即死を逃れようと腕で顔と首、心臓をガードしていたその時
能力獲得:背後移動
無音で空中にいる紫ゴブリンの真後ろへ瞬間移動したバーヘフトが抜いた仕込み杖で背中を斬りつけようとする
紫ゴブリンは空中で体を捻り、左腕を切り落とされながらもなんとか回避した
能力消滅:背後移動
紫ゴブリンと同時にバーヘフトが地面へ着地する
紫ゴブリンはバーヘフトと対峙しようとするが、バーヘフトはもう既に"回避するため"に横へ飛んでいる
ビュッ
イントが矢を放ち、それを紫ゴブリンは横へ転がりながらなんとか回避する
ハインツも矢を装填していたが、紫ゴブリンが飛び出してきて驚き、矢を落としてしまっていた
イントはショートボウのすぐに矢を放てるという利点を生かし、なおかつ距離がかなり接近していて、慎重に狙いを定める必要がなく、とりあえず敵に向かって飛ばす速射であったため、隙ができた紫ゴブリンへと追撃ができたのだ、回避されたとはいえ回避させたことにより更に隙を作ることに成功した
紫ゴブリンが横へ転がった隙にケンズは事前に決めていた通り、斜めに後退し、クロスボウから近接戦闘向きのナイフを取り出していた
横へ転がり隙のできた紫ゴブリンへ、ラドが右回りに振り回しているフレイルで攻撃する
紫ゴブリンはそれを飛んで回避するが
ラドが遠心力を使いそのまま体を回転させ、右足で紫ゴブリンの横っ腹を蹴ろうとする
紫ゴブリンは自身の横っ腹を蹴ろうとしているラドの膝に手を付きラドの蹴りよりさらに上へ逃れる
だがラドはかわされることを予想し、わざと"上へ移動させる"ようにしていた
ラドは能力を使い、元から蹴り上げるような体勢だったと言わんばかりに蹴り上げるのに必要な体勢を整えていた
そして蹴り上げた
「ギィッ」
紫ゴブリンはなにが起きたのか理解できず、そのまま鳩尾を蹴り上げられた
その後ラドは、能力を使い蹴り上げた動きと関係なくフレイルが動き、それを抑えるために横へ急いで移動した
残った前衛が処刑しやすいように
攻撃ではなく処刑、鳩尾を蹴られて動きが止まっていて、なおかつ空中に放り出されているなんて殺してくれと言っているようなものだからだ
ラドが横へ移動した瞬間にエリーが踏み込み、基本技の振り落としで紫ゴブリンの首を刎ねた
「ふぅ、あぶなかったな、怪我はないよな?」
「うん、大丈夫、ありがとう、助かったよ」
「皆さん、本当に役に立てず申し訳ありません」
「まさか腹から出てくるとは思わなかったもんなー、しょうがねえんじゃねえか?」
「ハインツは戦闘に向いてないね、早くLvを上げて生き延びれたら、商売をしたいね。」
「本当ですよ・・・体を動かす労働は昔から苦手なんです・・・。でも、そうも言ってられませんからね、せめてもう少しだけでも戦うことに慣れて役に立てるように頑張ります」
「誰も怪我しなくてよかったねー」
「そういやバーヘフトさっきのなんだよ!?あれが能力なのか!?」
「そうだよー、もうその能力はなくなっちゃったけどねー」
バーヘフトが腰に装着している仕込杖に血がついた場合にすぐ拭けるように持ってきた布で拭きながら答える
「そうなのか・・・かなり強い能力だと思ったんだがな~」
「あ、矢を回収しておくか(ついでに霊薬作成のためにハインツが持ってきたビンを一本回収したから、これに血を入れておこう)」
イントが女の顔に刺さった矢のことを思いだし、女へ歩いていく
が、イントが直感的に斜め後ろへ転がった
転がる前のイントがいた場所には、木の杭から抜けるために手首を引きちぎり、腕の骨で殴ろうとした女だった物がいた
「んなっ」
異変を感じ、全員が緊張感を一気に感じる
紫ゴブリンが腹から出てくるという異常事態に対処することに成功し、気が緩んでいたのである
コッパーランク(最下級の冒険者に与えられるランク)の冒険にありがちな、倒し終わって気が緩んだ瞬間に他の魔物に殺されるという典型的な死亡するまでの道のりを的確に歩んでいってしまった
「うおおおおおおおおお」
次は役に立たなければというプレッシャーを感じ、一種の緊張感を漂わせていて、次はこんな女がいたら絶対に助けると誓っていた一人の男だけは
次は守ると決意し、誓った本人へ引き金を引くだけという、5歳でも簡単にできる行為を叫び、己を鼓舞したハインツがゾンビと化した女へ攻撃する
ドスッ
ゾンビの眉間ど真ん中に矢は突き刺さった
ゾンビは元々回避能力、すばやい行動が苦手で、痛みを感じず、肉体を破壊しながら攻撃してくること意外は特に気をつけることなく殺せる魔物だった。特に気をつけることなく2度目も殺せる魔物、の方が正しいかもしれない
元々脳を破壊するか、ある一定の時間戦闘をするか、一定のダメージを与えればゾンビは倒せる
ではなぜ、紫ゴブリンが避けた矢がゾンビの顔に刺さっていたのに死ななかったかだが、ゾンビになってから脳を破壊しないと意味がないからである。ゾンビになる前のただの死骸の脳を破壊しても意味がなく、ゾンビにならないように埋葬させるには首を胴体と離さなければいけないのだ。強い怨念があった場合、首と胴体を離してもゾンビにはならないがデュラハンと呼ばれる魔物に変わることもあるため、死体の処理はかなり気をつかわなければいけない
「・・・、動かないが、死んだのか・・・?いや、死んでいた気がしたんだが・・・」
「石を投げてみますね」
ケンズが道中コブシくらいの大きさをした石を拾ってきていたため、それを死んだゾンビへ投げる
ボスッ
「・・・、死んだんですかね・・・?でも最初に顔へ矢が刺さっていましたよね?」
結局、近寄り確認するのは危険だということで、ラドとエリー以外の三人で石を死んだゾンビへ投げまくっていた。10分も
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「はぁ、さすがにもういいんじゃないかな、確認してみよう」
エリーが近づき、ゾンビの頭を何度かザクザク刺した後、首を切り落とした
「大丈夫みたいだな・・・、あとでサラ達に聞いてみよう。紫ゴブリンの死体は一応持って帰ってみるか」
「誰が持つんだ・・・?私は嫌だぞ・・・?」
「僕が持っていくよ、その代わり僕の能力に使ってみてもいい?」
「わかった、またあの女みたいに生き返るかもしれないから注意しろよ・・・・?」
「多分あの女はなんか特別だったんだよ、ゴブリンは生き返らなかったし」
「でもあの女の腹から出てきたゴブリンだぜ?しかもなんか紫だし」
ゴブリンの巣付近から移動したところ、サラが現れた
「ゴブリンの巣を発見したわ、だいたい10匹いる巣よ、ボスはゴブリンメイジ、魔術を使ってくるわ」