14話 武器の使い方 エリーとバーヘフトの修行
「エリーさん、バーヘフトさん、剣の使い方を教えますね。まぁバーヘフトさんは仕込み杖なんですけどね・・・。
まずロングソードを肩に担いだ状態になってください。バーヘフトさんは後で教えますので見ていてください。ロングソードは意外に軽いですし、このロングソードは特別軽いので扱いやすいと思います
ロングソードは、衝撃を受けて折れないようにしなるようになっています。
鈍器ではなく、しっかり斬る武器。ということを頭に入れておいてください。
エリーさんは右利きですか?」
「一応左腕も結構使えるけど、右の方が少しだけ得意かな」
「そうでしたら、足を肩幅よりも少し広めに開いてから左足を前にだして、前にだした足先はまっすぐ前にしてください、後ろ足は70度くらいに角度を付けるように。
足先が真正面に向いていたら、相手にチャージ(突進)されても耐える事ができます。足先が真正面に向いていないとチャージされた時に耐えれなく、転んだところをサクっとやられます。
あと真正面に向いていると剣を振りやすいです。」
「肩に担いだ剣を真正面に振り下ろしてください」
「ふっ」
「ストップしたまま聞いてください、相手へ攻撃した後は、攻撃をつなげるか、元の構えの形に戻さないといけません。
方法は大まかに3つあって、1つ目が斬り下ろした後、そのまま腰を戻す力を使って剣で半円を描いて元の構えに戻す。
2つ目が顔の左側を通過させるように剣を元に戻す
3つ目が剣をぶつけた反動を殺さずにそのまま元の位置に戻す方法があります。
一つずつやってみてください
3つ目は私がガードして跳ね返します」
「ふっ」
「はっ」
「よし、いくぞクリス!」
「どうぞ」
「ふっ」
(・・・、まだ軽いですが、身長も筋肉量もあるしパワーがあるな。でも・・・)
「ハアアアアア!!」
キンッ
「うおっ」
エリーは返された力を抑える力を抜きすぎてバランスを崩した、いや、返された力が強すぎた
「エリーさん、今回は力を入れる方法としては叫ぶのはありですが、通常剣術は叫んではいけません。
デメリットが多すぎるのです。剣術は情報戦でもあります。お互い構えている時に大きな声を出すということは焦っている、こじれてきたな。と思われてしまいます、それを罠に使うならいいですが。
自分がする行動全てが相手に情報を与えていると思いなさい。
それに声を出し始め、その瞬間に攻撃を受けると対応できません、文字通り「息を呑む」状態になり自分のお気の流れが止まります。
あとは純粋に息を吐くと疲れますし、息を吐くと次に息を吸う瞬間を狙われます。
泳ぐ時に息を多く吐くと次が続かないのと一緒です。
相手が素人なら威嚇になるかもしれませんが、普通の敵ならうるさいと思うだけですし、鼓舞するという理由なら、そもそも鼓舞しないといけない状態になったら、もう死んでいますから。
しかし!一撃必殺!連続技ではなく一撃の威力を高めるなら声を出し、魂を震わせながら殺そうとするのはありだと思いますよ」
「無意識に叫んじゃったよ、たしかに跳ね返された時も、気合を入れた自分の攻撃が全部跳ね返った気がした。あとは、体の芯がぶれちゃって、綺麗な半円じゃなくなっちゃう」
「最初はそんなものですよ、振ってればなれるので、そこまで気にしないで大丈夫です。」
「次に斬撃ですが、手で斬るのではなく、下半身を使ってください。脚の裏、親指の付け根あたりから蹴り出す要領で力を得て、それを膝、腰、背骨、肩甲骨、肩、と伝えていきます。」
「ボクシングみたいだね」
「ボクシング?あぁ、民衆がたまに賭け勝負をしているあれですか。
たしかに、拳を使った武術には剣や武器を使った攻撃が元になった動きも結構ありますから、基本は結構似ているかもしれませんね」
「あとは刺突ですね、刺突は腕を伸ばした構え、状態にしてから前に踏み出すイメージでなるべく遠くへ刺そうとする動きをすると敵の攻撃を避けながら攻撃しやすくなります。逆に避けられた場合、持ち直すのが難しいので、遠くへ刺すイメージじゃなく、腕を伸ばした状態から前に踏み出して刺すだけで最初は大丈夫です。刺突は簡単に見えますが、タイミングを間違えると簡単に受け流され窮地に立つことになりますので注意してください」
「ショートソードは通常、シールドを逆の手に持つのですが、今回はロングソードなので受け流しは剣でやりましょう。まず受けはいいので構え直しと斬り下ろし、それと刺突を練習していてください。とりあえず今日はずっとやっててください」
「今日ずっと・・・、わかった。がんばるよ」
(強い人だ、必要なことをわかっている。こういう人は必要じゃないことは本当になんにもやらないんだよなぁ・・・)
「次はバーヘフトさんですね。仕込み杖なのですが、もし筋力が女子、老人ほどなら逆手に持ったほうがいいかもしれません。
若いですから筋力トレーニング、というより杖を毎日振り回せば筋力はつくでしょうが。
逆手に持つということは、力は殆ど必要なく、純粋な技術、技量が必要になります。
いえ、力があっても使ってはいけないのです、たとえ殺される直前でも、一切の力を入れてはいけません」
「殺されるのはなんとも思わないけど、難しそうならまずは普通に使いたいよー」
(本心だ、嘘はついていない・・・、本当に殺されてもいいって顔をしているし、筋肉の動き的にも死んでもなんともないと思っている・・・、あの人、ボスを見るまでそんなわけがない、と信じれなかっただろう。)
「わかりました、まず仕込み杖というのは、様々な理由により刀剣を剥き出しで携行できない場合に護身用や暗殺用途に用いるために製作される武具であり、外見からは刀と分からないように偽装されています。
つまり真正面から殺す武器ではなく、背後から殺してすぐに仕舞って立ち去るのがセオリーです。
そして、全長90cm程、刀長50cm程で刃の部分が短く、鞘があっても450gほど、鞘を取ったら280gほどで軽いです。
なので軽さを生かし、狙うのは頸動脈や手首、脇下、目、鼻などの、露出した部分を早く鋭く、剣先でこするように斬る方法が最適だと思います。
一太刀で骨まで斬断するような得物ではありません。むしろ深く刺せば刺すだけ折れるリスクが高まります。
仕込み杖は相手の視界を奪ったり失血死を狙ったりするものです。
先ほども言いましたが、護身用や暗殺用途に使われるのが殆どなので、もし戦うことになったら短期決戦が望ましいです。
つまり、はしっこを長く持たない、短く持つしかないということです。
リーチより強く握ることを重視しています。
逆にいえば、力を入れなくてもしっかり持てるということです。
殺す時にもリラックスして、平常心で殺しましょう。」
「わかったー、構え方とかはないの?」
「ありますとも、背筋をまっすぐに伸ばして立ちます。利き腕・・・、右腕ですか?」
「うん」
「そうでしたら右腕で仕込み杖を持ちます、左腕は鞘をもってください。
右足を前にだして、背筋を伸ばしたまま、上半身、顔を後ろへもっていきます。
これにより、相手の攻撃が届きにくくなります。
刺突の方法ですが、アキレス腱を伸ばすように体を前で動かします。
相手の剣と刃を当てて滑らせ、胴体を突くのも良いでしょう。
ただし、仕込み杖には鍔(つば、刀でいう、柄の部分と刃の部分の間にある丸いやつ)がないので深く滑らせて体を入れすぎると指が落ちます。
そして鞘ですが、これは基本的に防御に使います。
逆手に持ち、自分の首へ向けるのが基本的な防御テクニックになります
(マイクを首へ持っていくイメージ)
突いた時にかわされてしまった場合、相手の近くへ刃があるので、それを相手にこすり付けて斬りながら引き戻し、最初の構えへ戻ってください。
基本の構えから足を止めずに「動き続けて」戦うのです。
動きながら隙を窺うかがい、相手の攻撃線を外れた瞬間に攻撃を仕掛ける。
正面からの戦闘になっても、正面から戦わないことです。常に動き、相手がこっちを向けなくなった瞬間に攻撃するのです。
いかに相手の攻撃をいなしつつ隙を見て仕掛けるか、が大事になります。
大きなモーションもありません、隙になるからです。
全ての無駄な動きをなくし、相手の無駄な動きを誘い、擦り斬る!
常に相手へ剣先を向け、円運動をしながら相手の攻撃をかわします。
何度も言いますが、相手の正面から外れる動きをしなさい。
刃の部分に毒を塗るのもありですね。
毒を塗っていれば深く刺すことも斬ることも必要ないので、刃が折れるリスクが少なくなります。
バーヘフトさんは個人訓練が難しい、というより技術的な訓練は斬り合う、戦うしかないので私と手合わせしていましょう。
真剣を使うのは今やってもあまり意味がないので、その辺の木を加工して細い木剣のような物を作りましょう。
私は標準的なロングソードを使います。仕込み杖でも殺せる急所を服に描くのでそこを狙って見てください。
木剣は自分で作ってください、作っている過程での発見もあります。鍔は作らないでくださいね」
「わかったー」
「エリーさん、10分休憩してください」
「えっ、そんなことしてたら時間ないんじゃない?」
「いえ、最大効率で訓練するには休憩が必要です。分刻みでカリキュラムを組むので。睡眠時間も7時間は切らないようにします。じゃないとハードトレーニングなので、物理的に死んでしまいます」
「そ、そうなんだ。わかったよ・・・」
「それと振った回数は数えなくてもいいです。1000回振ろうが1回しか振らなかろうが、良い動きになればそれでいいので。努力より結果が大事です。」
「そうだね。少しずつ修正したり工夫しているんだけど。なんかしっくりこないんだよね」
「私の動きを見て、それを自分の体に合う動き方にチューニングしていくのですから。難しいですよ~」
「私がバーヘフトさんと戦っている時の動きを見ながら振るといいかもしれませんね。よし、私はもう木剣が完成したので。拠点からワインを持ってきますね」
「ありがとう。(ここの気温は暑くもないし、寒くもないし、不思議な場所だなぁー)」
「できたー!!」
「バーヘフト、それ片刃じゃない?」
「あー、両刃にしなきゃー」
-------------------------------------------------------------------------------
バーヘフトの使う仕込み杖
サミュエル作の刀身を英国紳士風のフォーマルステッキに模して作られた杖様の拵えに収めたもので、全体を漆黒で塗り、柄頭に当たる部分には柄は杖であるために頭をT字型のダービーグリップの形をしている、T字の接続部と縁には無地の金具を取り付け黒漆を塗ってある。
杖状であるため、鞘と接する部位は当然合口式となるが、
鯉口(こいくち:刀のさやの、鯉の口に似た長円形の口。薄い輪がはめてあり、中より狭く、ここで刀身がすべり出るのを防ぐようにしてある。)にも縁頭(ふちかしら:柄の両端に付いている一組の金具。柄頭側を「頭」、鞘側を「縁」という)と同型同仕様の金物を置いて鞘につなげている。
鞘も漆黒。カラスが飛んでいる彫刻が入っている。
刀身50cm程で両刃。
-------------------------------------------------------------------------------