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第94話 激突、黒瞳王vs騎士王

 数日後。

 ダークアイとガルグイユの国境を挟み、両軍が向かい合っていた。


 魔族の軍勢は、その見た目からして異様。

 漆黒の甲冑を纏った巨人たちは、全身のあちこちを紫色に点滅させ、蒸気のような呼気を周囲に放っている。


 あるいは、半人半馬でランスを手にした戦士たち。

 小柄だが体が横に広く、盾と肩のプロテクターが肥大した姿の兵士たち。


 後方では、幾つかの金属製の球体が設置されていた。

 あれが何なのか、ガルグイユには皆目見当もつかない。


 警戒すべきは、頭上をフワフワと浮かぶ鉄の船であろう。

 船と言うにはあまりにも異形過ぎる。

 そして、その上にはダークアイの王、黒瞳王ルーザックの姿があった。


「見た目だけなら我が軍は圧倒的なんだが」


「社長ダメですその発言は。フラグです」


「そうかー。だが、ガルグイユの数を見てみろ。凄い数だぞ。圧倒的なのはあっちだ」


「ああ、それなら問題ありません。寡兵で大群を打ち破る。ロマンですよね。ですが私の戦法はそういう感じじゃありませんので」


 ルーザックと話すのは、悪魔コーメイ。


「では私は、三つの兵団を指揮に行ってきます。もっとも、魔猪と戦馬はジュギィさんが実質指揮するのですが」


「ああ。任せた」


 空に浮かぶ船の一部が分離し、コーメイを載せてふよふよと飛んでいく。

 彼らが乗っているのは、サイクロプスのサイクが操る目玉爆撃機である。

 本来は、サイクの三つの肉体パーツを内蔵した三台の戦車なのだが、これを魔力で無理やり飛ばせているのだ。


 ということで、一部を分離してよそにやることも容易い。


『どうだルーザック、我輩のボディは便利だろう』


「ああ、大変便利だ……。君も目玉爆撃機を使いこなせるようになっているな」


『おう、無論だ。だが、分離したり人を載せたりすると、我輩の魔力がそっちに持っていかれるのであまり戦闘ができん。これは課題ではないのか?』


「うむ。ズムユードに話しておくとしよう」


『頼むぞ。それからガルグイユとバーバヤガにはまた、我輩の肉体が眠っているはずだからな。どんどんパーツも増えるぞ』


「将来的には巨大ロボになりそうだな……」


『巨大ロボとは、お前がたまに作っているプラモデル、とかいうやつの、あれか? あれは良いな。あれが大きくなれば大層かっこいいであろうよ』


「サイクもついにかっこよさを理解し始めたか」


『いかにもいかにも』


 戦場の上空で、わっはっは、と笑い合う黒瞳王とサイクロプス。

 これを呆れ顔で見つめる、アリーシャである。


「ルーちんが伝染していくなあ」


 そんな彼らをよそに、地上の状況は動き始める。

 にらみ合いながら、両軍はじりじりと国境線までの距離を詰めていく。


 ガルグイユはその圧倒的な数で、包み込むような陣形を作っている。

 この数の騎士や兵士たちが、皆陣形の効果を得て襲いかかってくると考えると、今までダークアイが戦ったどんな相手よりも恐ろしいと言えるかも知れない。


 鋼鉄王は個体が強力なゴーレムの軍勢だったが、それでも動きが単純なものだった。

 強力なメイドゴーレムは数が限られており、まさしく寡兵だったのだ。


 魔導王は魔獣と魔法使いを使っていたが、その数もやはり少ない。


 盗賊王が指揮していた軍隊は大軍だったが、戦を忘れた有象無象であった。


 つまり、これがダークアイにとって、訓練された人間の軍勢との初めての会戦ということになる。


「コーちんがやる気だよ。ルーちん、指示出して」


「ああ。……コーちんというのはコーメイのこと? まあいい。全軍! これより、人間どもに我ら魔族の力を見せつける! 進撃せよ、ダークアイの戦士たちよ! 世界は魔族のものであると思い知らせてやれ!!」


 ルーザックの声が、目玉爆撃機の魔力で拡大され、戦場に響き渡る。


 うおおおおおおーっ!! とダークアイの軍勢から(とき)の声が上がった。


 対するガルグイユも負けてはいない。

 群雲のごとき軍勢の奥で、陣形が発生する。

 その中心に立つのは、白銀の鎧の男。


「全ての騎士たちよ! 兵士たちよ! 剣をとれ! 槍をとれ! 弓をとれ! 斧をとれ! 槌をとれ! 我ら騎士王国ガルグイユが向かうは、聖戦である! 悪しき魔族の軍勢が、世を蹂躙せんとしている! 我らの戦いは、守る戦いである! 世界を守る戦いである! 国を守る戦いである! 愛すべき家族を、親を、子を、友を守る戦いである! 行け! 進め! 悪に打ち勝ち、愛するものを守るために!」


 うおおおおおおおおーっ!! と、ガルグイユからも地鳴りのような鬨の声。


 両軍が進撃を始める。

 ただ歩くだけではない。

 それぞれの軍勢を上空から見下ろすと、ある決まった隊列を取っていた。


 騎士や兵士たちの甲冑に刻まれた、紋章が光る。

 すると、陣形は魔法の光りに包まれた。


「これだけの数のガルグイユ軍が、全て陣形を用いて襲ってくるのか。これはなかなか壮観だな。対策をしっかりと立てていなければ、我々は捻り潰されていたことだろう」


「ルーちん、謙虚だねえ? もっと人がゴミのようだー! とか言うと思った」


「敵を過小評価することは、すなわち自滅に繋がる。驕りは戦いの中であってはならない思考だ。だが、過大評価して縮こまっても、本来の実力を発揮できずに負ける。すなわち……個人的な感情や気迫などはほどほどにしておいた方がいいということだよ。重要なのは、敵への対策をしっかりと書き込んだ……マニュアルだ」


「おっ、出た、ルーちんのお得意分野!」


「無論。私はこれしかできないからな! 全軍!! フォーメーションA!! その後、指揮の全権はコーメイに委ねる!」


 ルーザックの指令に合わせて、大きく隊列の形を変えるダークアイ軍。

 その後、コーメイを載せた右腕戦車が鋼鉄兵団の頭上にやって来た。


「あちらは任せた。次は私の策だな」


「ルーちんの策と言うと……まあ、決まってるよね」


「うむ。私は奇策しかできないからな! 戦況を見て、騎士王の周りに人がいなくなったら向こうまで瞬間移動を頼む」


「ほいほい。なんか今回、あたし用のアーマーまで用意されてるんだよねえ。ううーっ、見た目が可愛くない。それに、聖剣で作ったナイフって、これ出刃包丁じゃん」


 アリーシャがいやそうな顔をした。

 後ろからセーラが現れて、彼女のゴーレムアーマーを準備する。


「アリーシャ様、そろそろ着てください。作戦行動に差し障りがあります」


「いやなんだよねえ。なんか臭いしー。ねえセーラ、戦いが終わったらご褒美ちょうだい」


「かしこまりました。最上級のお茶とお菓子を用意してお待ちしています」


「あっ、フラグ……」


 ハラハラするルーザックなのだった。


 既に、戦場では両軍の衝突が発生している。

 鉄壁の陣形でダークアイを迎え撃つガルグイユ。


 だが、ダークアイ側も、騎士王国の陣形をパク……いやコピーして使用している。

 ましてや、そこには鋼鉄王国の技術であるゴーレムアーマーと、魔法王国の技術である魔獣素材によるコーティング、そして中身は個人戦闘力の高い魔族。

 ぶつかった瞬間、騎士王国側の陣形が幾つも弾け飛んだ。


 鋼鉄兵団四名、一個小隊で、十倍の騎士に匹敵する。


「水竜騎士団、国境線を突破! 敵軍へ攻撃を仕掛けるぞ!!」


 青い鎧の一団が、鋼鉄兵団の守りを割って侵入した。

 まるで水のように、僅かな隙間からくぐり抜けていく。


「ジュギィ元帥! お任せします!」


 コーメイの声が響き渡った。


「お任せられー! ジュギィ、がんばるよー!! みんなもがんばろーっ!!」


 元気いっぱいに飛び出してきたのは、ダブっとしたゴーレムアーマーを纏ったゴブリンの少女。


「ゴブリンごときが! ひねりつぶせ!」


 水竜騎士団が、彼女に仕掛けた。


「んんんんんーっ!! いっくよーっ!!」


 彼らの目の前で、ジュギィが魔力の光を放った。

 その姿が一瞬で、大人びた少女のものに変化する。


「魔っ眼光ーっ!!」


 ゴーレムアーマーがジュギィの魔力を収束させる。

 目の前に降りたスコープに光が集まり、そこから一直線のビームとも思えるような光線が放たれた。


「な、なんだこれはーっ!! ぐわああああ!!」


 爆発。

 水竜騎士団の一部が、吹き飛ばされる。

 この隙間に、盾と大型の肩アーマーで武装した一団が入り込んできた。


「魔猪騎士団、ここから先は一歩も行かせないよ!」


「ブーッ!!」


 

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