黒瞳王の帰還
ルーザックが帰ってきた。
ふわふわと、目玉爆撃機が降りてくる。
そこには、箱の中に黄色みがかった鉱石が山盛りになっていた。
「ルーザックサマー!!」
「黒瞳王様、おかえりなさーい!」
「うおおおーっ! 我らの黒瞳王様ーッ!!」
「ケンタウロスは相変わらず元気だな」
爆撃機の上のルーザックが、しみじみと呟いた。
荷運び用のオーガが三人ばかり現れ、黄鉄鉱が入った箱を抱えて持っていく。
これを先導するのがズムユードだ。
「彼は彼の仕事をするとして……。さあ、報告会と行こう」
ルーザックはすぐさま、ダークアイの幹部会議を招集したのだった。
円形のテーブルを囲んで、時計回りに並ぶ幹部たち。
ルーザック、アリーシャ、ディオース、ピスティル、コーメイ、グローン、サイク、セーラ、ジュギィと来て、そしてルーザックに戻る。
本来なら、この隙間にズムユードが入る。
「心なしか、コーメイが以前よりもちょっと堂々としているような。いや、周りの目が変わったのか。報告をくれたまえ」
ルーザックの言葉に、ディオースが頷いた。
「コーメイ殿が、ルーザック殿のおられぬ間に一仕事を終えたのです。ガルグイユの旋風騎士団を一網打尽にしまして。詳細はこちらの書類に」
「ほう……! 情報戦による敵軍の誘導と、地の利を生かした戦い方。見事だ。私ではどうしても、今いる戦力でいかに勝つかを考えてしまう」
「社長のスタイルと、私の戦術を組み合わせればその効果も高まるというものですよ。ですが、ガルグイユの情報収集能力もかなりのものです。恐らく、我が軍の基本的な戦力についての情報は既に相手に伝わっているものかと」
「伝わっていても構わん! 力で叩き潰せばよい!」
グローンが鼻息を荒くする。
『いやいや、落ち着けオーガよ。確かにお前らは力自慢であろうが、それが通じない者は多い』
「なんだと!?」
『狂王の前ではな、少しばかり強い力など無いも同じよ。十全に策を講じねば、ダークアイの快進撃もここで止まるぞ』
グローンは目を丸くした。
いつも自信家であるこのサイクロプスが、これほど慎重なことを言うとは。
「ねえ、サイクなんか悪いものでも食べた?」
『わははは! 我輩も日々成長しているのだ』
「ご主人さま、あちらではどうでした? 何か悪いものでも食べませんでしたか? よく眠れましたか?」
セーラが心配してくる。
そして、彼女が淹れたお茶を勧めてきた。
「ありがとう。……うむ、ダークアイに帰ってきた気がする」
別にダークアイ謹製のお茶ということもなく、魔法王国で栽培されていた茶葉を使っただけのものである。
だが、セーラが頻繁にこの茶葉で茶を淹れるので、すっかりルーザックの舌がこの味を覚えてしまっている。
茶菓子もボリボリ食べた。
ジュギィがニコニコしながらお菓子を食べている。
狂気王国では、素朴な甘味くらいしかなかったのである。
果実をそのままか、干したものに蜂蜜を掛けたくらいのものしかない。
「あー、なんかこういうのホッとするよねえ。あたしはやっぱ文明の香り強めなセーラのお菓子が好きかもー」
「そお? ダークエルフとしては、あんまり加工されたお菓子はねえ……あ、おいし」
アリーシャとピスティルがぺちゃくちゃお喋りしながら、お茶とお菓子をパクパク行っている。
しばし、ティーブレイクとなる幹部会議なのだった。
そこにズムユードが戻ってきた。
「お! なんだなんだ、俺抜きで菓子を食ってるのか! 混ぜろ混ぜろ」
彼はサイクとグローンの間に、無理やり割り込んできた。
自分用の足の長い椅子を持っている。
「よいしょっと! どれどれ……うほお、ダークアイに帰ってきたって感じがするなあ! あとは酒があれば最高なんだが」
「お酒は会議が終わった後です」
ピシャリとセーラに言われてしまった。
「で、だな。あれだ。黄鉄鉱を持ち帰ってきただろ? あれを使ったゴーレムアーマーの強化プランが俺のここに入ってるんだけどな」
ドワーフが頭を指先でコツコツ叩く。
「あれだ。狂戦士化のメカニズムをちょいと借りてだな、鋼鉄兵団を強化する。恒常的なもんじゃねえがな。いざってときにちょっと強めに魔力を注ぎ込んで、パワーアップする感じだ。んで、そのときに副次的に装甲の色が変わりそうでな。そう、銀色になる……」
「ほうほう。私のアーマーにもやれるかね?」
「もちろんだぜ旦那。だが、旦那の魔力の質はちょいと違っているからな。狂王と同じように金色になるだろうぜ」
「金色のゴーレムアーマーか! いいじゃないかいいじゃないか。正統派のスーパーモードという感じがする」
ウキウキしてくるルーザックなのだった。
「社長はなにげに前線に出るの好きですよね」
「うむ。後ろにいてもいいのだが、敵軍の中枢が前に出てきたなら、私も出なければいけない気がしてな。何より、両軍の最高戦力同士が戦ってこちらが勝てば、士気も上がるだろう」
コーメイはこれを聞いて、口元に扇を当てた。
「ですが、負けたら我々はそこで終わりです。この度の戦では、私が社長の策を補佐します。なるべく社長を出すこと無く勝ちましょう」
「それが可能なら、一番なのだが」
『そうは行くまいなあ』
サイクが実に愉快そうに呟いた。
「そしてこちらはどうなっているかね? ガルグイユを情報戦でコーメイが抑え、我々が狂王に会ってから必要な資材を手に入れてきた。ダークアイでの進捗はいかに?」
「おう。そこは我ら鋼鉄兵団と魔猪騎士団がだな。ケンタウロスどもを鍛えてやったわ」
「ほほう……! 三つの兵種を混合した戦略が立てられそうだな」
「しかし……社長。魔猪騎士団の方が兵団らしく、鋼鉄兵団の側が用兵的に騎士団的なのは一体どうして……」
「先に生まれたのが鋼鉄兵団だからだね。正直、その場のノリで決めた」
「ははあ、まあよくあることです。では、ケンタウロスの兵団はどのようにしましょう」
「どのようにと言うと?」
「名前です」
「名前……!」
ルーザックは腕組みして考え込んだ。
「彼ら、いつもテンション高いからな。戦馬騎士団でいいんじゃないか」
「よし、そのように登録しておくぜ! 戦馬っぽいアーマーを作りゃいいんだな!」
ズムユードもやる気になってきたようだ。
「それから、旦那のアーマーな。剣王にぶっ壊されたあれだが、新しく組み立て直してるぞ。正直、うちの技術じゃこれ以上手詰まりなところだったんだが……狂王のところに黄鉄鉱があれば話は別だ」
「どうするつもりかね?」
「七王相手に防御力で対抗するのは無理ってことだな。だからよ、旦那のそのアホみたいな魔力量を使って攻撃に回す。全部相殺する方向で行くんだよ」
「ほう!」
この話を聞きながら、コーメイが苦笑した。
「何をどうやっても、社長が前線に出る前提で話が進んでいきますねえ……」
「それがダークアイの伝統というものだ」
ディオースが肩をすくめる。
「お前の知る戦いは策によって戦況を決して行くものなのかも知れないが、我々の戦いはそれだけではない。それぞれの勢力の王こそが最高戦力なのだ」
「ふむ、確かに。将棋で言えば、王将が飛車と角の力を併せ持っているような……使わぬ手はないし、敵に王が出てきたら王で相対せねば厳しいということですか」
「ルーザック殿同様、よく分からない例えをする男だ」
ここでひとまず、ダークアイの幹部連による報告会は終了する。
後は今後の動きについて。
「狂王が動き出す。ダークアイは狂王対策を主とし、騎士王国との戦いについては陣形を用いて遅滞戦術を行う。その間にケンタウロスを育成だ。どちらにせよ、狂王が戦場に出てきたら何もかもおじゃんになるだろう。あれはそういう存在だ。そうなれば、狂王のみに集中すればいい」
「おう! 鋼鉄兵団の力をまた見せてやるわい!」
『がはははは、楽しみになってきたぞ!』
「我らダークエルフも、仕事をせねばな」
「んも! ジュギィもゴブリンたちもがんばるよ!」
ダークアイは意気軒昂。
いよいよ、騎士王国、狂気王国を相手取る戦いは佳境に入る。




