表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/120

ダークアイ、戦略会議

 運用試験が終わったとなれば、次は実戦だ。

 昨今、騎士王国側でもダークアイを警戒し、国境線に騎士団が配置されるようになってきている。

 これは即ち、望めばすぐに戦闘が行えることを表していた。


「ただねえ、ちょっとよくない情報もあってねー」


 ダークアイの幹部連が行う、定例会議。

 報告会の後、ルーザックが判断を下すイベントなのだが、発表を始めたアリーシャの表情は明るいものではない。


「魔導王と剣王が騎士王国に入ったって。国内であの連中の姿を見たゴブリンがいるの。あ、もちろんヒトマーズを使って観察したのね」


「ふむ」


 剣王の名を聞き、以前は動揺していた幹部たち。

 だが、今の彼らは平然としたものだ。


 剣王と言えど、不可侵の化け物などではない。

 避けることができるし、ひょっとしたら魔族を率いるこの黒瞳王がどうにかできるかも知れない。


 彼らはそんな事を考えるようになっていた。

 根拠のない考えではない。


 最期の黒瞳王ルーザック。

 彼は常に、劣勢な状況から戦いを始めてきた。

 そこから、一つ一つ作戦を行い、戦いに勝利し、新たな力を手に入れ、積み重ね、積み上げて来た。

 気がつけば、ダークアイは七王の国家と肩を並べるほどになっている。


 弛まず、止まらず、進み続ける。

 これこそが黒瞳王ルーザックの強さであった。


「ルーザック殿、剣王が出てくるかもしれませんが」


 ディオースの言葉に、ルーザックは頷いてみせる。


「サイクの話から、それが常識外れの剣技を使う人物であることは想定している。私の師であったダンも、若かったならば恐ろしい強さであったことだろう。剣において未熟な私では、勝てないだろう」


 勝てないと断言したことで、この場には驚きや落胆のような空気が漂った。


「故に、勝つために剣以外を用いる。そして勝つ」


「か、勝てるのですか」


「ルーザック、さっきお前勝てないって言ってなかった!?」


「ピスティル、またルーザック殿を呼び捨てにして」


「いや、いい。私は女性は苦手なので、大体こんな感じで扱われる……」


 ルーザックが遠い目をした。


「あー、ルーちんの古傷がえぐられたか」


「ルーザックサマ元気だして!」


 ジュギィがルーザックの横まで走ってきて、その手をもみもみした。

 ちょっと元気になるルーザックである。


「ありがとうジュギィ。そうだな、勝つための手段は……まだ無い。というのも、伝聞でしか剣王を知らないからだ。実際に立ち会い、その実力を確認したい。そのための装備を今作ってもらっているところだ」


「ほう! ルーザック殿が剣王と戦うための装備か! わしにももらえんかなあ」


 グローンが物欲しげだ。

 ゴーレムアーマーをあれほど嫌がっていたとは思えぬ変貌ぶりである。

 実際に使ってみたら、大変具合が良かったらしい。


「ルーザック殿。実は我らダークエルフからもゴーレムアーマーの依頼が……」


「なんと!? だが、ドワーフの手が足りない。そして発想する頭が足りないぞ」


 ルーザックが呻いた。

 ダークアイの面々がやる気になっているのはとても素晴らしいことだ。

 だが、開発者と作業員の双方が足りないのだ。


「あのよ、人間を使うのはどうだ? 開発を手伝わせてるガキがいるんだがよ、こいつがなかなかセンスがいいんだ。それに明らかに農作業向いてなさそうなのが演習場にもいたらしいじゃねえか」


 ズムユードから提案が上がった。

 これに、セーラが賛同する。


「良い提案と思います。妹たちは革新的な発想は構造上不可能ですが、すでにある技術をラーニングし、これを他者に教授することは得意としています。妹たちをマンツーマンで付け、学習させましょう」


「促成栽培だが、一つでも多く実践を積ませれば物になるだろうな。よし、人間採用作戦を実行してくれ」


「よしきた! 旦那、期待しててくれよ」


 ズムユードはニヤリと笑うと、のしのしと会議場を去って行った。


「セーラは行かないのか?」


「私はご主人様のお世話をするのが仕事ですので」


「妹たちにこれからの計画を話すのでは?」


「むむむ」


 セーラが難しい顔をした。

 メイドゴーレムが葛藤している。


「ほんと、よくできてるよねえ……。人間と同じに考えたり悩んだり嫉妬したりするんでしょ? 鋼鉄王ってほんとに天才だったんだねえ」


「うむ。それは間違いない。敵味方で無かったら、友人になっていたことだろうな。だが、彼は七王だった。絶対的な敵対者だ。生かしておくわけにはいかなかったのだよ」


 しばらくセーラは悩んだ後、立ち上がった。


「では……では、行って、参ります……!! くっ……。ご主人様のお世話の途中で席を立たねばならぬ事が口惜しくてなりません」


 とても悔しそうに言いながら、彼女は会議場を後にする。


『おう、ルーザック。我輩からの発言をするがいいか?』


「どうぞ、サイク」


『よし。我輩、この間の演習場で、見事に三体合体を成功させてな。往時の実力とはいかぬが、これはこれで今までとは一風変わった戦い方ができるようになった。もっとも、三体合体に魔力を使う以上、魔眼光は使えなくなるがな』


「ほう……!!」


 ルーザックが、合体という言葉に目を輝かせた。


「頭部と両腕ではないのか? どうやって合体するんだ……!」


『わはは! 頭が固いのうルーザック! あれを両腕と考えるから自由が利かなくなるのだ。あれを翼と考えればどうだ?』


「なんと!! 飛ぶのか!?」


『いかにも。飛翔目玉戦車の誕生よ』


「凄いことになって来たぞ」


 ルーザックが興奮で鼻息を荒くした。


「ルーちんのこの辺のツボ、ほんとに理解できないわー」


「アリーシャでもついてけないってよっぽどじゃない? ほんと、なんで魔神様はこいつなんか選んだのよ。まあ、こいつじゃなきゃここまで戦えて無かったと思うけど」


「ピスティル、ちょっとすなおになった?」


「うるさいわねえジュギィ!」


 そろそろ会議がだれてきた。

 ということで、ルーザックが立ち上がる。

 黒瞳王自らが、ティーブレイクのためのお茶を淹れるのである。


 茶葉のいい香りが漂い始めた。

 セーラが作り置きしていってくれた茶菓子もある。


「ジュギィてつだう!」


 ジュギィが駆け寄って、お茶とお菓子を配膳して回る。

 こうしてみていると、小柄で若々しいゴブリンロードでしか無い彼女。


 しかし、ダークアイにおける彼女の立場は種族としてはありえないほど高いものだ。


 頂点に黒瞳王ルーザック。

 次に、先代黒瞳王であるアリーシャ。

 そして並び立つのが最強の魔族、サイクロプスのサイク。

 その下に、それぞれの種族を統括する存在が並ぶ。


 ダークエルフ筆頭、ディオース。

 その補佐、ピスティル。

 オーガ族長、グローン。

 メイドゴーレム長姉、セーラ。

 ドワーフ頭領、ズムユード。


 最期に、ゴブリン総指揮にして、オークの指揮官、そしてルーザック一の子分であるジュギィ。


 ダークアイ八幹部と呼ばれる面々であり、その中で多数の役割を兼務するジュギィは特別だった。


「ジュギィもさ。もうかなり偉いんだから落ち着いた方がいいんじゃないの?」


「ん? ピスティルは、お茶菓子きらい?」


「嫌いじゃないわよ! ってか、偉い人ってもっとどーんと構えてた方がいいんじゃないの?」


「うーん、ジュギィわかんないや。でも、ルーザックサマ自分で働くよ。だからジュギィも自分で働くの」


「あいつの影響か……。この間も、自ら騎士王国に潜入してたからなあ」


「そこはルーちんの悪いとこだよねえ。この人こそどっしり構えててもらわないと……」


「ルーザックサマどっしり? ふとる?」


 ジュギィが天然そのものな返答をしたので、アリーシャとピスティルが目を丸くした。

 そして吹き出してしまう。

 和気あいあいとした空気の中、ティーブレイクした会議。


 本日の決定事項は三つ。


 ひとつ、オーク部隊、魔猪騎士団にて国境を襲撃、実戦経験を積ませる。

 ひとつ、ダークエルフもゴーレムアーマーにて武装する。

 ひとつ、ルーザックが剣王と戦う。


 それぞれの計画は、決定と同時にそれぞれのラインで、迅速に進められていくこととなるのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] ついに剣王の相手をしてあげるんですね! 無視され続けてた剣王の反応とか、ルーザックさまがどんな対応するのかとか、今から楽しみです。
[良い点] いつかそのうち六神合体ゴッドサイクなんてのも…… きっと動かないで敵を倒せるんだ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ