表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/120

登場のダークエルフ

「……当たった? これ当たった?」


『安心せよ。当たっているぞ。そしてまた(しばら)くの間、魔眼光は撃てんからそのつもりでな』


「ああ。こいつで盗賊王が警戒してくれれば御の字なんだがな」


 鷹の右足地方にある城。

 かつてはゴルト辺境伯の居城であったここは、黒瞳王ルーザックの家となっていた。

 周辺からは人間達も一掃され、巣から出てきたゴブリン達が闊歩している。


「手勢を増やしたい。次はそろそろ、大きな戦争になるからな。そのための準備を行わないと」


「そだねー。ルーちん、これまで小手先の技だけで勝ってきたけど、戦争ってなると規模が違うもんねー。あたしはそういうのホントにダメで、おかげで魔族は大ピンチになっちゃったんだよね」


『逆に、友は集団を指揮して戦うことは難しくあるまい。頭を張る者があと一人二人欲しいが、個人戦よりは集団戦向けなタイプだ』


「そ、そうかな」


 城は、辺境伯の名を取ってゴルト城と呼ばれていたが、その一際高い尖塔で、彼ら三人は会話していた。

 いわゆる、魔王軍の幹部会議なのである。


『幹部と言っても我輩しかおらんだろう。ゴブリンどもがここに並ぶのは現実的ではない。クイーンですら、我輩から見れば下等な魔族に過ぎんからな。だが……友よ。あの幼いゴブリンの姫に目をかけておけ。あれは、化けるぞ。久々に、種の限界を超越して進化(クラスチェンジ)する者が出るかもしれん』


「ジュギィのことか。彼女は大変物覚えがよく、マニュアルに忠実に動いてくれる。現地スタッフのリーダーとして重宝しているな。つまり、サイクは彼女が正社員登用されると言っているわけだな」


「いやいや、ルーちん、逆に分かりづらいから……!」


「だが、ジュギィはどうして進化するのだろう? 他のゴブリンたちと何が違うんだ?」


『下級魔族が、ここまで魔王たる黒瞳王と近くで行動し、その影響を受け続けるということの異常をもっと自覚したほうが良いぞ。やがてあの娘は我輩に並び立つ存在になるだろう。だが、それはまだ先の事。今はルーザック。お前の助けとなる魔族を探すべきだ』


「探す……」


 ルーザックは思案した。

 とりあえず、魔眼光で焼き払われた大地を眺めながら、うむむ、と唸る。

 彼の目では見えないが、それだけの遠くに人間の軍隊がやって来ていたらしい。

 これを発見したゴブリンからの伝令があったため、対応したサイクがこれを焼き払ったのである。


「地図によればーって、あたしだと地図が大きすぎるー! サイク、ジュギィ呼んでいい?」


『お、おう』


「よし、ジュギィー」


 ルーザックが声を掛けると、ばたばたと階段を駆け登ってくる音がした。

 猛烈な勢いで、ジュギィが塔を登る。


「呼んだ黒瞳王サマ!?」


 扉を壊すような勢いで開けながら、ジュギィ登場である。

 人間の子供が着るための衣装を身に着けている。

 近場の村で徴収したものだ。


「ジュギィ、地図を押さえててくれ。アリーシャだと小さすぎて押さえきれない」


「わかった!」


『よーし、では我輩が、封印される数十年前までの知識をもとにして、ひとつレクチャーをしてやろう』


 かくして、サイクによるディオコスモ魔族講座が始まるのであった。




 翌日の事である。

 レクチャーの結果を受け、ルーザックがこの国から遠出をして、魔族のスカウトが必要であろうことを考えていた時だ。

 不意に、場外がざわざわと騒がしくなった。

 ゴブリンたちの声である。

 最近では、すっかり彼らが意思疎通に使う、簡素なゴブリン語を覚えたルーザック。

 ゴブリンたちが侵入者を発見したのだと、すぐ理解できた。


「黒瞳王サマ!」


 ジュギィが飛び込んできたのは、ルーザックが状況確認のために立ち上がったのと同時である。


「報告に来たな。偉いぞ」


 ルーザックが褒めると、ジュギィはえへへ、と嬉しそうな顔をした。

 そして、すぐに真面目な表情に戻る。


「それより大事! 黒瞳王サマ! 大変! 黒い、ひょろっとした魔族、来た! 三人!! レルギィ姉サマ、捕まった!」


「それは大変そうなことになっているな……!」


 のんびりしている場合ではない。

 ルーザックはジュギィを伴い、慌てて部屋を飛び出した。

 かつて辺境伯の居室であったここは、ルーザックの執務室となっている。

 窓は粗末な板で目張りされ、応急の修理が成されていた。

 ちなみに寝床は、床に直接(わら)の布団を敷いてある。


 廊下を駆けていくのだが、ここもゴブリン仕様に改造されていた。

 あちこちに、明かり用の燭台があるのだが、それらの蝋燭を交換できるよう、粗末な踏み台が壁際にたくさん用意されているのだ。

 そして、あちこちでぐうぐう居眠りするゴブリン達。

 夜番の勤務を終え、廊下で仮眠を取っているのだ。

 見回りのゴブリンには、毛布を持ち込むことが許されている。


 ルーザックは、ゴブリンを踏まないように注意して、廊下を駆け抜ける。

 階段を下りるのだが、ここもゴブリン達が寝ている。

 段差に腰掛けるようにして寝ているのだ。


「これは城内に、早急にゴブリン用の寝床を用意しないといけないな」


「ウン。黒瞳王サマ、さっき三回ゴブリン踏んづけた! 廊下と階段、寝る、危ない」


「踏んでいたか……」


 ルーザックは反省しつつ、城門を守るホブゴブリンへ、開門を命じた。


「ギッ!」


 ホブゴブリンは敬礼をすると、城門に施されている(かんぬき)を外す。

 自動的に扉が開く……などという機能があるはずもなく、ホブゴブリン達がよいしょ、よいしょと引っ張って、ようやく扉が開いた。

 すぐ扉の前で、突然やってきたと言う魔族達が立っている。


「お待たせしたな。アポイントはもらっていないが」


 顔を合わせるなり、ルーザックが切り出したので、彼らは一瞬面食らったようだった。


「あ、アポ……?」


「いついつにこういう用件で来訪する、という了解を相手に対して取るものだ。いきなりの来訪であれば、今回の様に諸君を待たせてしまうことになる」


「ああ、そちらの都合に合わせろと言う話ではなく、我らを待たせぬために、という……? なるほど、噂に聞くおかしな黒瞳王だ」


「無礼!!」


 ジュギィが飛び上がって怒った。

 ぷんぷんである。


「何よー。さっきからうっさいわねー」


 ルーザックの襟元から、小さな黒瞳王アリーシャが顔を出して、眠い目をこする。

 これを見て、来訪者はまた驚いたようだった。


「……そ、それは何だ……? 小さい黒瞳王……?」


「先代のアリーシャだ。今は我が黒瞳王軍の顧問を務めている」


「へ? あたし、顧問だったの……? なんか部活を見るセンセーみたいねえ」


「そうか、アリーシャは女子高生だったな……」


 ルーザックが困った顔をした。

 女子高生が苦手なのを思い出したのだ。女子高生だけではない。若い女性全般が苦手だ。

 ルーザックは人間であった頃の、数々の苦い記憶に思いを馳せていたが、すぐに目の前で放置されている魔族達の存在を思い出した。


「これは失礼した。私が黒瞳王ルーザックだ。君たちは一体?」


「う、うむ……。我らは人間どもがグリフォンスと呼ぶ地よりやってきた、ダークエルフである。我ら魔族を束ねる王、黒瞳王の復活と活躍を耳にし、こうして挨拶にやって来た」


「ふむ、古参社員が新社長の人となりを確認しにやって来たというところか」


 ルーザックは即座に、彼なりのフォーマットに状況を落とし込んで理解した。

 そして頷く。


「いいだろう。我々が君達にいかなる利益を提供できるか、そしてどのような職場を用意できるのかを、しっかりと確かめて行きたまえ」


「……!」


「どうされた?」


「い、いや。決断が早くは無いか? もっと悩むものだと思っていたが……」


「こちらもタイムスケジュールに余裕が無くてね。考える間があれば、動きながら考える。それに」


 既に動き出しながら、ルーザックは言葉を続けた。


「この職場は、君達にも満足してもらえるものだと、私は信じている」


 圧倒されたダークエルフ達。

 彼らは、この型破りな黒瞳王の後についていくしかないのであった。

 かくして、ダークエルフ達の職場見学が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ