第1節 前世の記憶
初投稿です。つたない文章ですが、頑張っていきたいと思います。
……もうどのくらい走っているのか分からない。
ただただ必死に、痛みという恐怖から逃れる為に脚を動かしていた。
彼は傷の無い右手で彼女の手を引きながら、宮殿の中央にある庭園へと飛び出すと、そのまま対称にある建物の中へ逃げ込もうとする。だが、 噴水の手前にある段差に足を取られ、派手に転んでしまった。
同時に彼女も彼に引っ張られる様に態勢を崩すと、小さな悲鳴とともに彼の隣に横たわってしまう。
歩みを止めたおかげで少し冷静になった。今更ながらに、自分の右足が折れている事に気がついたが、さほど痛みも襲ってこない。それほどにまで、自分がどれほど苦しい境地を味わっていたのだということを今自覚する。鉛玉も腹に撃ち込まれていたが、慣れとは恐ろしいものだ。
なんとか仰向けになり、首を傾ける。すると、彼女の辛そうな呼吸と苦痛に歪んだ顔が目に飛び込んでくる。これだけはどうも慣れない。罪悪感が心を蝕み、自然と涙が溢れてしまう。
「ごめんな」
それは声にはならなかった。
夜空を見上げると、星が散り散りと光っている。
手を伸ばして見るが届かない。いつもそうだった。
朝日だって夕日だって、月にだって……
この手はいつも届かない。
力なく手を降ろすと、もう筋肉の使い方も分からなくなっていた。
お別れだね、と彼女が言った。必死に笑顔を作ろうしているが、その目頭から涙がこぼれ落ちそうになった瞬間、彼は目を閉じてしまう。そんな顔はもうさせたくなかったのに、自分が情けなく悔しかった。
彼女が手を伸ばすが、満身創痍のこの身体はもはやピクリとも動かない。
すると、彼女は悲しい顔をするから、彼は最後の力を振り絞って笑って見せた。
声も出ず、血が逆流しているのを感じ、いよいよその時がくる。痛みはおろか、感覚さえも無い。自分がふわりと浮いている様な状態を憶えた。
もう目もほとんど見えない。君がどんな顔をしているのかもわからない。
来世は、こんな危ない、魔法なんて無い世界だといいね。
鼻水をすする音。やっぱり彼女は泣いていた。
それほど悲しくはない。しばしのお別れだ。絶対にまた会える。
また……
意識が遠ざかっていく。
どうか神様。来世こそは、魔法のない……
幸せな世界にして下さい……
またも運命は、彼を飲み込んだ。
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