『遊んでやめて後悔して』
ーーー非常に厳しい状況に当てられた。
この状況は、もはや恐怖にすら感じる。自分の体に、寝ている間に変化が起こっていた。アニメで言えば体が変化したという表現をするかもしれないが、ラノベ小説的に言ってしまえば、女体化の一言に尽きる。
そんな事は今はどうでも良い事であって、彼の現在の状況は非常に不味い。
女体化した体を上手く使えないのはまだ良いとして、宿らしき物件に変化した部屋の端にあるのは、鋭くて地面に落としたら刺さりそうなくらいの立派なモノ。
それは、
「…アレ、剣じゃないかな…」
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永遠風 修斗。
異常的な名前である事は今は伏せておこう。
修斗の人生は、出来上がったものとして存在している。良く言えば、天才。悪く言えば、周りが阻む異端児ということになる。
昔から良く出来た成績で上がってきた修斗の人生は、中学で一度終わり、何もかもを投げ捨てたかのように、ゲーム、アニメ、漫画に浸っていた。
そのゲームでさえ、トップランカーを維持出来るという、異端的な行動力と、ラスボスの範囲攻撃すらも最小限の動きで避ける、といった普通ならありえないような事を現実で可能とする集中力と思考能力を持つ。
そんな修斗の人生の頂点は、高校生であり、投げ捨てたはずの人生をつかもうと、ゲームを全て捨てて、再度努力を始めたのだ。
成績は、トップにならぬようにそこそこな位置を維持した。
そして、修斗の人生は華やかなものとなった。仲の良い友人に囲まれ、修斗は頼られる存在となることが出来た。たまには失敗しながら、『ゆるーく生きていくこと』、それが修斗の流儀であり、最大の願いだった。
それを覆す、そんな出来事を友人が持って来なければだが。
「…なあ、修斗。異世界を中心にしたオンラインゲーム、グロート・オンラインって知ってるか?」
「んなもん知らねーよ。」
その友人こそ、矢野 洋樹。MMOのやり手で、プレイヤーとしてのスキルは相当高い。恐らく、中学の修斗と同等、またはそれ以上という異常的な反応速度を持つ。現実での身体能力も高く、50m走を悠々と走り抜ける脚力を持つ。
洋樹は、面倒くさそうな顔をして顰めっ面を見せてきた。
「なーんでやらねーのさー。」
「…言ったろ?過去の話、お前にはしたと思うぜ?…そもそも、パソがねーよ。」
「パソならやる!やるから、やろうぜ!」
「…飽きたらやめるからな。」
ここまでは順調で、無茶振りを受けてやったのだが、その後楽々と100レベまで底上げ、全ミッションを最速クリアするという異常さを見せた。
洋樹には、ネット上の通話システムを通じて協力プレイをしたり、談話したりと、ネトゲ生活を謳歌していた。
思えば、この甘えこそが修斗の最大の欠点である。
そして、その数日後の夜。
修斗は、学校の課題を楽々と終わらせ、毎日の様にログイン、グロート・オンラインにハマりきっていた。
剣は立派な最強レベルの剣を最大レベルまで鍛え上げて、立派な廃人と化した。スキルコンプはお手の物、デュエルなんて完勝、これが当たり前だった。
そんな時、個人チャットに誰かが入ってきた。
「…こいつ、低ランカーか。使用スキルは盾か、コレは…迎撃特化の盾…攻撃が高い盾…変わってますね、と。」
巧みなタイピングテクニックで、変わった装備をした女性アバターにメッセージを送りつけると、それを視て怒ったのか、反論のお言葉。
『変わっていません、コレは通常装備であって、貴方の使用している片手直剣と変わらないんですぅー。』
「煽り耐性ゼロ!?てか、煽ってすらないのに煽ってくんなよ!」
『貴方は、どうせランクだけのへたっぴさんですから、迎撃盾なんて使えないでしょう?ははっ、笑えるー』
「イラッとくんな、このクソアマ…!」
と、互いが喧嘩腰になりかけていたその時、個人チャットのお知らせ欄が点灯し、一旦低ランカー女性をスルー。
運営からのお知らせだったのだが、運営は何処からか視ているかの様なタイミングで、もう一件送りつけてきた。
そのメールに書いてあるのは、不思議な内容と、謎のプレゼントボックス。
「…運営にしちゃ、随分やってくれてんじゃん。」
プレゼントボックスを開封し、中身の装備、もしくはゲーム内通貨を確認したが、何一つとして見当たらない。
武器所持欄にも、受け取り切れないプレゼントボックスにも無かった。
「…どういうこった…あ、それより、女性アバター…この女ァ!」
カタカタカタカタ、と軽快な音を立ててタイピングアンドタイピング。支離滅裂な罵詈雑言を重ねていく。
勘違いから生まれた喧嘩ほど虚しいものはない、争いは同じ程度のものでしか起きないとはこの事だろう。
罵倒に疲れ、タイピングに疲れた修斗は、暇つぶしに、
「…さて、別アカウントでも使うか…」
別アカウントのレベリングをやり始めた。まだ、レベルが低い低ランカーだが、それなりに武器は揃えてある晩成型の女性アバターだ。
その辺にいる女性アバターと一通り変化はなく、レベルの割にスキルはコンプしてあった。
そして、次第に時間は過ぎていき、既に12時を越えていた。時計の針を見た瞬間、急に身体が重くなった気がする。
「…仕方ない…寝るか…」
この日は、アッサリと寝床に着いた。
何故か知らないが、いつも溜まるはずのない疲労が溜まりに溜まっていた。
その夜、修斗の布団には不可思議的な谷間が出来てきているのを修斗が知る余地は無かった。