僕とロナ、師匠と母さん
まだまだ若輩ですが頑張って書いてます。(〃^ー^〃)よろしくお願いいたします。
何時もとかわらぬ日常、何事もなく学校が終わるとコウヤは森に向かっていた急いでいた。
コウヤの見る世界の全てがまるで生まれ変わったかのように輝き初めてからの日々は驚きの連続であり、体外魔力を知ってから生活にも大きな変化をもたらした。
周囲に人が居ないかを調べる際も体外魔力を使うことで確実に把握する事が可能に為り見えない事の不安が取り除かれた事が一番の変化だと言える。
そんな体外魔力に向けられるコウヤの探究心は留まる所を知らなかった。
しかし、ソウマに『体外魔力を維持しながらの歩行は、かなりの精神力と高度な魔力コントロールが必要に為るため、無理な特訓をしないように』と釘を刺されていた。
しかし、コウヤの探究心までは釘も届いていなかった。
「よし、そろそろ始めるかな」
コウヤは、体外魔力を更に集中させると使っていた杖を手に持ち地面の上を自分の足だけで確りと踏みしめてから、ゆっくりと歩きだす。
杖を使わないで移動出来る事実がこんなにも嬉しい事なのだと、他の人には理解できないだろう。
ただ、自分の足で歩き、杖を持っていた手が自由に使える事実にコウヤは喜びを感じずにはいられなかった。
そんなコウヤは、体外魔力を使った歩行がソウマが言うように難しい事なのかが既に分からなくなっていた。
コウヤ自身が慣れたからなのか、体外魔力に対する執着の現れなのかコウヤ自身にもわかっていなかった。
ただ、コウヤは楽しくて仕方なかったのである。
まるで新しいオモチャを貰った時の嬉しさや喜びと言った感情に似たものを感じていた。
色々な事を考えながらコウヤは川辺まで歩いて行く、すると川の方から聞き慣れた声が聞こえてくる。
それはロナの声であり、慌てて杖を手に握りゆっくりと歩く素振りをするコウヤ。
ロナの声に動揺して体外魔力が乱れ視界が一瞬だが暗闇に変わる。
コウヤは、まだまだ訓練が足りないなと改めて自覚させられた瞬間でもあった。
段々と近付いてくる“ペタペタ”という濡れた足が地面を進んでくる音、そして再度、体外魔力を発動した瞬間に目の前に姿が現れたロナに戸惑うコウヤ。
「コウヤーー! ダメなのよ、一人でこんなところに来て危ないのよ、全くもう、仕方ないわね私が家まで送ってあげるわ」
川から慌てて走ってきたロナは滴が滴る濡れた手を伸ばしコウヤの手を掴む。
「大丈夫だよロナ、一人でいけるよ」
「コウヤ、また呼び捨てにして! ダメなのよ私の方がお姉ちゃん何だからちゃんと“お姉ちゃん”って呼ぶのよ」
「でも、学年一緒だしさ、それに恥ずかしいよ」
「ダメよ! ちゃんと言ってみて」
ロナは最近やたらとコウヤに対して、お姉ちゃんアピールをしていた。
祭りの日以来、コウヤの行動に責任を持つとミカに言い張っている事とロナの方が少しだけコウヤよりも誕生日が早い事実が更に拍車をかけていたのである。
家が向かい同士であり、分からない事はなんでも教えてきたロナにとって、コウヤは弟のような存在に他ならなかった。
そんなロナはコウヤが一人でいるのを見る度に世話をやきたがる様になってしまっていた。
今もコウヤが『お姉ちゃん』と言うのを期待しながら耳に手をかけて待っている。
ロナのこの行動はコウヤが体外魔力を使わなくても分かる数少ない事の1つであった。
コウヤは顔から火が出そうな程、恥ずかしい気持ちを必死に我慢して口を開く。
「……ナ……ねえちゃん」
「コウヤ、声が小さくて聞こえないよ?」
聞こえているであろう距離にも関わらずそう言うとロナは耳を此方に傾けてニコニコしていた。
「ロナ……お姉ちゃん」
それを聞くとロナは嬉しそうに微笑みコウヤの手を引っ張り歩きだす。
手を繋いだ時、ある事実にコウヤは気づかされる。
ロナの手は思っていた以上に小さくて其れでいて、とても暖かかったのだ。
初めて手を繋いだわけでは無かったが見えていると言うだけでこれ程違うのだと改めて感じていた。
「仕方ないわね、やっぱりコウヤには私が必要ね、さぁ帰りましょう、お姉ちゃんが送ってあげる」
今まで杖を使って歩行してきたコウヤは余り手の感覚を知らない。
杖の冷たい感触しかなかった手を暖かくロナが包んでいく感覚に喜びを感じずにいられなかったのだ。
そんなコウヤの心臓からは高鳴る鼓動が止まらなくなっていた。
そして二人は何時ものように家に辿り着いくと、ロナは玄関の扉を開き、ミカに大声で挨拶を開始する。
「ミカさんコウヤを送ってきました!」
「お帰りなさい。いつもありがとうね、ロナちゃん、本当にお姉ちゃんね」
「いえいえ、コウヤの事は私に任せてくださいね!」
何時もこの調子でミカ愛想よく挨拶をしてからロナは帰っていく。
ミカは何時もロナをニコニコしながら見送るのがパターンになり始めていた。
「ふふ、コウヤ? 気に入られてるみたいね、将来安泰ね」
「母さん!」
そう言いミカは笑いながら道場に戻っていく。
「よし、今度こそ見つからないようにしないと」
コウヤはゆっくりと玄関に向かう、すると後ろから「コウヤ?」とミカの声が聞こえる。
「もうみつかってるわよ? コウヤ」
ビクッ!
予想だにしなかった、ミカの声にコウヤは心臓が飛び出しそうになり身を震わせた。
「それでコウヤ、何処に行くの?」
「母さん、僕は今よりいっぱい頑張って誰にも負けないように成りたいんだ!」
答えにならないコウヤの返答にミカは頭に手を当て、悩んでいた。
「まぁ、男の子だからそうなるわよね、でも答えになってないわ? 何処に行くのか聞いたんだけど?」
「今から魔法の練習にいく…」
コウヤは、黙って行こうとした事を怒られると思い小さな声でそう答えた。
ミカに黙って行こうとした事もあり、後ろめたい気持ちで小さな心はいっぱいになっていた。
しかし、ミカは怒ろうとはしなかった。
「わかった。ちゃんと笛は持ったわね」
「え、うん……大丈夫、ちゃんと持ってる」
「コウヤ、夕飯までに帰るのよ? あと危ないことは絶対にしないでね、母さんとの約束よ」
ミカは、コウヤが最近やたらと楽しそうに出掛けていく姿を見るのが嬉しくて仕方なかった。
この村に来てから、無理矢理コウヤの眼を見ようと包帯を取ろうとする者も居ない、ミカ自身も心に余裕が出来ていたのである。
このまま何もなく、暮らせたらきっと幸せだろうと、そう考えていた。
「さて、私も晩御飯の仕度しましょう、今日はあの子の好きなシチューにするかな」
ミカが晩御飯の仕度を始める頃、コウヤは無事に森に辿り着いていた。
何時ものソウマの声が頭上から聞こえる。
「お? 少年、今日は来ないと思ったぞ、遅かったな」
「来る途中で幼馴染みに見つかっちゃって」
「なるほどな! 若いってのは羨ましいな。むしろ青春だな」
そう言い一人で納得するソウマにコウヤは少し困らされていた。
「なんの話ですか! それより師匠の顔を何度見ようとしても、靄がかかって、ちゃんと見えないんですよ?」
「それに関しては?魔力が乱れてるからだろうな?」
ソウマが話し始める。魔力の強い者は無意識に体外魔力を自身に集めてしまっている事がある。
両者が体外魔力を集める事になれば、情報が曖昧になり、確りとした情報が流れ込んで来なくなる為顔がボヤけるのだろうと語った。
「まぁ、どんなに集めたいと願っても中々、今より多く集めるのは困難だろうな?」
「師匠、何でですか? 体外魔力って何処にでも存在するんですよね?」
コウヤの何気ない質問にソウマは出来る限り理解できるように語る。
「体外魔力を集める事、それ事態が人間には大変な事なんだ、そもそも、集めたいと強く思わないと集められないし、限界があるのも分かるよな? 更に言うなら無限に集められたとしてもコントロール出来ない魔力ほど、怖いものはないんだよ。つまり限界の先に行くのは至難の技なんだよ」
ソウマがそう語るとコウヤは腕を組んで首を傾げていた。
「つまり僕が本気でコントロール出来る分だけ集めたいと強く思えばいいんですね?」
そう言うとコウヤは、初めて強く集まれと願ってみたのだ。
今までは自然と集まって来ていた体外魔力で視界を維持していたので、そんなことを考えた事すらなかった。
「おいおい、嘘だろ! そんなことしたら、体に負担が掛かるぞ!」
ソウマが眼にしたのは辺り一面の体外魔力を自身に集めるコウヤの姿であった。
「師匠の顔が見えました! やった!」
しかし、ソウマの予想を遥かに上回る体外魔力をコウヤは制御した。
そして、ソウマの顔が見えたと跳び跳ねて喜ぶその姿にソウマは言葉を失い、少しの間、悩んでいた。
「あはは、コウヤ、今から君の家に行ってもいいかな?」
「え、僕の家にですか?」
「少し親御さんと話をしたくてな」
「とりあえず一緒に行って聞いてみますか?」
コウヤはソウマを家に案内することにしたのだ。
家に帰るまでの間、すれ違う人達は皆、ソウマに挨拶をしていく。
思っていた以上に師匠であるソウマは有名人である事実にコウヤは驚かされる事になる。
「母さん、ただいま」
「お帰りコウヤ……その人は?」
ミカは、コウヤの後ろに立っていたソウマを見て驚くと同時に直ぐ動けるように体勢を整える。
無理もないだろう、いきなりコウヤが成人した男性を家に招くなど、流石のミカでも予想出来ない行動だった。
「いきなり失礼いたします。私はソウマと申します。この村の用心棒のような者です」
「その用心棒さんが何でコウヤと?」
「実は、私はコウヤ君に魔法を教えさせて頂いています。それに伴い、ご挨拶にお伺いいたしました」
「そうなんですか? 知らなかったわ、コウヤ! 何で言わないの」
そんな中ソウマのお腹から、“ぐぅぅぅぅ”と大きな音がなる。
「これは失礼、余り食べていないもので、とりあえずお話は後日、話せれば幸いです、今日はこれで失礼いたします」
そう言うとソウマは頭を下げた、そんな時コウヤがミカに「祭りの日に一人だった僕を助けてくれたんだ」と小声でミカに言ったのだ。
「あ、待って、コウヤも世話になってるみたいだし、良ければ夕食を食べてかない?」
「あ、いや、流石に悪いですから」
「今日は、コウヤも好きなシチューにしたので沢山ありますから遠慮しないでいいですよ? それに恩を忘れるなかれ、恩を忘れれば犬より畜生であると私の父に言われて育ちました。是非、御馳走させて下さい」
ゴクリっとソウマの喉がなる。
「本当に御馳走になってもよいのですか?」
「構いません。女に、二言は有りません」
こうして晩御飯を3人で囲むことになったのだ。
3人で夕食を食べるなんて初めてだったのでコウヤは少し嬉しかった。
コウヤはミカが他人を晩御飯に招く事に驚かされていた。
そんなミカは24才であり、コウヤを18で産んでいる。
体外魔力を使うようになって初めてわかったが、黒い髪に黒い綺麗な瞳の細身で身長はそんなに高くはない、島人なのにも関わらずミカは、よく男性から声をかけてられていた。間違いなく美人である。
そして、ソウマは細身で身長高め、茶色い眼をしていて綺麗な黒い髪の20代後半であった。
「師匠? 母さんって美人なの?」
「こら! コウヤ、何きいてるのよ」
「コウヤ、君のお母さんはとびきりの美人だ!」
ミカは、いきなりのソウマの発言に顔を赤くして台所に食器を片付けにいった。
そして日課の稽古をつけてもらう。
道場に行くとソウマが座っていた。
稽古を見学すると言い出し道場にやって来ていた。
そんなソウマの顔を見るコウヤは内心、「胴着姿の母さんを見たかっただけじゃないかな?」と考える程、ソウマはミカに釘付けになっていた。
そして食後の稽古が始まる。
ミカは、やはり隙がなく、あっさりとやられるコウヤ、それを見て師匠のソウマは笑っていた。
やはり悔しかったのだろうか、その日は普段より多くミカに挑み、普段の3倍投げ飛ばされる事になった。
コウヤはミカの強さを改めてその身に刻む事になり道場で大の字になり悔しさを更に深めるのであった。
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